八
まるで御伽話にでてくるお姫様みたい――不謹慎と思われると分かっていても、セレスは水晶に眠る少女を見て、ふとただそう思った。
一つの穢れもない純粋で綺麗な結晶は少女を美しく際立たせる。壮麗に、荘厳に――皮肉に。
「――――」
二重の封印――これは身体を守るためでもあった。永い眠りを安らかにするために、せめて綺麗に飾ろうとしたわけじゃない。ましてや、慰めのために壮麗な監獄に閉じ込めたわけでもない。鎮魂のためでも、断じてない。
それでも、水晶に眠る少女は――フルールは皮肉のように綺麗だった。凛々しく、そして、安らかだった。優しく微笑んでいるようにも見えた。まるで、そうまるで……残された者を心配させないようにしているかのように。これが、最後の伝言のように。
(――分かってる)
分かっている。そうは分かっていても――セレスは水晶を手でなぞり、瞼を伏せた。
いつ醒めるとも、いつ解けるとも、解かれるとも分からない封印。解けないほうがいいと分かっている――封印が解けた時、どうなるかは誰も分からない。エリスは、まだ消えてはいない。
自分の罪は――消えることはない。
「――――」
セレスは水晶に触れていた指を離し、静かにその場を離れた。煌めく雫だけ、そこへ残して。
泣くのは、これで最後――もう泣かない。泣いていいのは、自分だけじゃない。
(ううん……罪を背負った私は泣いてはいけない。泣く資格はない)
だから、これが最後。
強くならなければいけない。強く在らなければならない。
聖女として、そして、母として――
セレスは顔を上げ、歩みを進めた。家へと、帰る場所へと。そこには、二人の女の子が待っている。
自分の娘と――そして、大切な人の娘が。
――――――――――
「――おかえりなさい、セリッサちゃんのお母さん」
出迎えてくれた短い黒髪の少女に、セレスは心に決めていても息が詰まり僅かに声を出すのが遅れてしまった。
「ありがとう。まだ、起きて待っててくれたのね……リュテちゃん」
自分の家――アルカンシエル学園の近くにある自宅は静けさに満たされていた。自宅の周辺も、アルカンシエルも静寂に包まれている。喪に服している――そんなふうに感じて、セレスは胸の奥で首を振った。この沈黙は、世界の混乱が治まった証だ。皆が安心して眠ることができている平和の証拠だった。
あの日から三日。エリスが封印されてから、魔女の従僕はほとんど消えた。国全体に及んだ被害は大きかったが、負傷者はいても死者はいなかったため、復旧はすぐに進められた。これだけ長く大きい混乱が続いたのに、死者がいないことは奇跡だ。もちろん死者がでないように魔法少女が戦ったということもあるが、皆は魔法少女の奇跡はここに起こったと歓喜した。
奇跡――その言葉に虚しさも覚えても、奇跡は奇跡だ。誰一人、死ぬことはなかった奇跡。魔法少女の奇跡の証明。
「……ごめんなさい、遅くなって」
セレスは扉を閉め、出迎えてくれたリュテを撫でた。本当なら、もっと速く帰りたかった。会いたかった。だが、事後処理のため顔を見せるだけしかできず、ゆっくり話すことも――幸か不幸か――できなかった。
「セリッサは?」
「セリッサちゃんは、もう寝てる。お母さんが帰ってくるまで起きてるっていっていたんだけど」
「そう」
優しく微笑み、セレスはリュテの背中に手を添え部屋へ移動した。温もりを感じるランプの光と見慣れた内装……伝わる暖かさと帰ってきた実感に、セレスは心が落ち着いていくのを感じ静かに息を吐いた。
「ん…………」
小さな声が聞こえ、セレスは視線を向ける。ソファーで小さく丸まって寝ている幼い女の子、セリッサは静かな吐息をたて、かけられた毛布を僅かに揺らしていた。
抱いているお気に入りのイヌのヌイグルミはセレスの手作りだった。その娘の姿にセレスは微笑み、近づいて頭を撫で頬に触れる。
「ありがとう、リュテちゃん」
「ううん」
毛布はリュテがかけてくれたものだろう。それはいつものことだった。リュテは、いつもセリッサを守り面倒を見てくれる。双子のお姉さんみたいね、と誰からも言われ、セレス自身もそう感じたいた。だから、自分の娘のようにも接していた。
それは、あの人も同じだった。「わたしたちみたいだね」と笑っていた。




