七
はっきりいえば、おかしなところはない。ありえない話ではない――東方の国に関しては情報がこちらまで届かずまだまだ未知の部分も多いが、聞く話では旅という文化は珍しいことではないらしい。家を持たない旅商人なども多いと聞く。つまり旅人という人間は日常であり、こちらと違って不思議なことではないのだ。
何より嘘をつくのであればもっといい嘘があるはずだ。わざわざ不審がられるような名前をつける必要も、疑われるような履歴を書く必要もなかった。
それに、規則として初等学園を卒業していなければならないとあるが、優先度を考えるなら全ての魔法少女は学園に在籍しなければならないという事のほうが最重要事項なのだ。それを考えれば、名前や生い立ちなどは些細な……と言い切ってしまうのもどうかとは思うのだが、十二歳という自分で人生を選べない立場であればどうしようもないことでもあった。
……ただし、
「あなたの言ったことが全て真実ならね」
学園に在籍しなければならないのは、当然ながら魔法少女だった場合の話だ。逆に魔法少女でなければ、どういう理由であれ在籍させるわけにはいかない。
魔法少女は魔女の従僕と戦える唯一の存在だった。時として、魔法少女見習いである学生も戦わなければならない。そういう場所に、魔法少女でない人間を置くわけにはいかなかった。
そして……もう一つ理由として。
魔女の従僕はいついかなる時に現出するか分からない。その可能性が少しでもある魔法少女以外の人間を、治安の拠点である学園に置くわけにもいかなかった。だからこそ、学園には魔法少女以外の人間は住んでいない。
しかも、更に加えるとするなら。
魔法少女の敵は魔女の使徒や魔女の従僕だ。だが、魔法少女を敵としている人間がいないわけではなかった。もっといえば、魔法少女の組織に不満を持っている人間が。
あまりいい気分ではないし、疑うというのは正直嫌いで慣れることもないが、組織という形がある以上、それは避けられないことだとも分かってもいた。魔法少女同士に摩擦はないとしても。
(魔法少女と、それ以外の人間って分けてるみたいで嫌なんだけれど)
魔法少女たちにそういう意識はなくとも、制度を見てそう捉えられても仕方のないことだった。魔法少女以外の人間と接することが多い受付を担当していれば、尚更そういう気持ちを強く感じてしまう。
陰鬱になりかける気持ちを抑えながら、ティスは表情を変えずシェオルを見つめた。受付だからこそ、そういった感情を表に出してはいけない。