十三
「え、なに……どうなってんの」
近づき問いかけるレオネに、セリッサもすぐに答えることはできなかった。教室でのシェオルの視線は、戦う前のものだった。死の気配と冥府の空気、それを纏って向かった先が聖堂で、そこには白銀の聖女――母がいた。
ということは、
(シェオルさんは、お母さんと戦うつもりなの……?)
理解ができなかった。隊長であるミュゲと戦おうとするのは……納得は難しくとも強くなるための訓練だと理解はできた。だけど、今回は違う。シェオルは『戦おう』としている。自分たちが来ても揺るがず、変わらず聖女……母へと戦いの視線を向けていた。死の気配のまま、冥府の空気を纏って。
「――駄目」
セリッサは無意識に声を出していた。
「セリッサ?」
「駄目です、シェオルさん」
驚くレオネに反応することはなく、セリッサは足を踏み出した。
(――戦わせてはいけない、シェオルさんを)
止めなければいけない。離しちゃいけない、絶対に――
「…………」
シェオルは振り返る。だが、その視線はセリッサと合うことはなかった。シェオルの目は、セリッサの後ろへ向いていた。
「初等生、何をしているっ!!」
叱責とともに走ってくる上級生二人は――初等生と同じように、その光景が目に入った瞬間足を止めた。
驚き、動揺が走る……だが、初等生よりも現実に戻るのは早く、訓練生としての責任を忘れることはなかった。何より、時間がない……とはいえ、現在の状況を一番分かっているのは学園長のはずなのだが。
「リオさん、ヴィオラお姉様……」
「開花しなさい。今は、厳戒態勢よ」
シュティの呟きは無視しリオは初等生全員へ静かに告げ、一人離れているシェオルへ――シェオルの先に学園長も見えるが――視線を向けた。今は疑問を持っていい時ではない。訓練生としてやるべきことをやる。
「貴女もよ、シェオル。教室に戻りなさい」
「戻れといわれて戻るくらいなら、最初からここには来ませんよ」
リオの言葉に、シェオルはにこりと微笑んだ。
「わたしを戻したかったら、力ずくで戻してください。話している時間はないですよ」
不足はあったが、選んではいられなかった。戦いは迫っている――準備運動は必要だ。
「ね、学園長」
視線だけを向け話しかけるシェオルに答えることができず、セレスはぐっと奥歯を噛み締めた。
気付いていた――力は強まっている。封印が壊されるのは時間の問題だった。そして、シェオルが気付くことも――考えが外れて欲しいと願いながらも分かっていた。
一瞬で判断できず迷う。全員を聖堂から遠ざけるのが一番いい。だけれど、あの子まで――シェオルまで離れさせていいのか。そして、自分は何をしようとしているのか。封印が解けたとして、『あの人』はどうなるのか。
迷う時間がないと分かっていても、すぐには答えられない。自分の中に答えがあるかどうかも分からない。
「シェオル、貴女は……!」
「分かった」
声を上げるファーノを手で制し、リオは前へと出た。シェオルの言う通り時間はない。それに、分からせる必要もあった。魔法少女の使命を、従僕と戦い人々を守るということを。
「貴女が、そこまでいうのなら力ずくで連れ戻す」
「待ってください、リオさん!」
「今、周りでは魔法少女の皆が戦っている。ここで、こんな事をしている場合じゃないのよ」
「でも……っ」
なお止めようとするセリッサの声は聞かず、リオは歩き出した。魔法少女と魔法少女になれない人間では勝負にならない。身体能力が全く違う。いくらシェオルに力があるといっても、魔法少女に敵うことはなかった。すぐに終わるだろう。ヴィオラも同じ考えなのか、足を止めたまま動くことはなかった。
「…………」
セレスも止めることはせず、生徒のやり取りを静かに見つめていた。自分の答えはでていない――だが、もし、ここでシェオルが連れ戻されるようであれば、ここへ居させるわけにはいかなかった。いくら、『あの人』に会わせたほうがいいと思っていても、危険な場所へ居させるわけにはいかない。
もし、本当に簡単に連れ戻されるようなら――
「全員でかかってきてもいいですよ」
「自惚れるな、シェオル・ハデス。私一人で十分よ」
「足りませんよ、全員でも」
「っ!」
リオは視線を鋭くすると、足を蹴り上げ一気にシェオルへ飛び掛った。腕を掴んで押さえ込み、動けないようにするつもりなのだろうが――
普通の人間が魔法少女に敵うはずがない、その速さにも、力にも、絶対に対応することができないはずだった。それは、誰もが知っている常識だ。
だが、シェオルは常識を捻じ曲げた。
つまらなそうに右足を僅かに退き身体の向きを変えると、伸びてくる右の手を左で掴み引き寄せ、左足でリオの足を払った。
身体が回り、リオは地面へと叩きつけられる。何が起こったのか分からず目を丸くするリオにシェオルは手を放し、失望したように見下ろした。




