六
「この名前は本名なの?」
「先祖代々の家名と、両親から貰った名前になんてこというんですか」
「だけど」
(……名前)
そのやり取りを聞いた瞬間、セリッサは無意識に足を踏み出し声を上げていた。
「名前を聞かせてもらえませんか」
「セリッサ?」
「ぁ、すみません。急に聞くなんて――」
驚くティスにすぐに謝り、続けて漆黒の少女にも謝ろうとセリッサは向き直ったと同時、
「シェオル」
「……え?」
「シェオル・ハデス。よろしく」
目が合った漆黒の少女――シェオルはセリッサにすぐに名乗り、にこっと微笑んだ。
「シェオル、さん」
知らず、セリッサは胸に当てた拳をぎゅっと握っていた。
全く別の、相反する気持ちが胸をまた苦しくしていた。視線が合い似てるという想いが深まったことと、名前が違った――別人だったという失望。
「どうかした?」
「……あ、いえ。すみません」
「別に謝らなくていいよ。悪いことはしていないんだし」
謝るセリッサにシェオルはまた笑い、同意を求めるように話を続けた。
「でも、そんなにいうほど変な名前かな。わたしは気に入っているんだけど」
「そんな、変だなんて……」
自分の態度を名前せいだと勘違いしたのか、そう話しかけてくるシェオルに慌てて否定しようとして――セリッサは言葉を止めた。
シェオル・ハデス。
『シェオル』も『ハデス』も、どちらも黄泉、冥府、地獄を意味する言葉。誰もが嫌う忌むべき符丁だった。よほど信仰に疎い人間でも付けることなどしない。
仮名とすれば悪趣味過ぎるし、本名であればもっと性質が悪い名前だろう。しかも、名前だけではなく家名もそうであるのなら、魔女崇拝者や悪魔崇拝者と思われても仕方のない名だった。
それを気に入っていると笑って言えるシェオル……不審に思われ、本名かと疑われても仕方のないことだった。
「あなたは分かっていっているの」
『シェオル』の意味に気付いたことを悟って、ティスは言葉を止めたセリッサの後を続けるように口を開いた。
「もちろん知っていますよ。でも、それをわたしに責めるのは変ですよ。文句だったら親にいってください。それに、名前がそうだからといって学園に入学できない理由にはならないでしょ」
シェオルはたいしたことでもないように涼しく答え、ティスの返事を聞く前に更に後を続けた。
「出身は東方の国。両親はいない。今まで旅を続けていた。そして、魔法少女の力があるので学園に入学する。どこかおかしいですか?」
「…………」
矢継ぎ早に列挙するシェオルにティスは苦りきったように黙り、同様にセリッサも黙ってしまった。