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 ――似てる、と思った。いや、自分が考えている人で合っているのなら『似てる』というのはおかしい。いや、そもそもそれ以前に、もうその人だと信じようとしている自分にとっては似てるという考えを持つこともおかしかった。

 それでも、すぐに名前を呼べなかったのは――胸が苦しくて言葉がでなかったからもあるが、視線が合った瞬間、相手が自分と同じ気持ちでないことに気付いたからだった。


「…………」


 漆黒の少女はセリッサを一瞥し、すぐにティスへと向き直る。


「……どうかしたんですか?」


 そのことにまた胸が苦しくなりながら――さっきとは違う痛みの胸の苦しみを感じながらセリッサは足を進め、ティスへと声をかけた。


「ええ、少しね」


 セリッサの態度に違和感を感じながらもティスは苦笑し、漆黒の少女へと一瞬だけ視線を向けてからすぐに話を続けた。


「中へどうぞ。休日だから学園長室に居られるかどうかは分からないけれど、外には出られていないはずだから」

「はい、ありがとうございます」


 ティスの言葉にお礼をいいながらも立ち止まったまま、セリッサも漆黒の少女へ一瞬視線を向けた。


「新入生……の方ですよね?」


 学園の生徒ではないと確信して――つまり、在校生かそうでないかが分かるほど何度も学園へと来ているともいえるのだが、セリッサはティスへ確認するように問いかけた。


「いえ、まだそういうわけではないのだけど……」

「まだって、何が問題なんですか」


 不服そうに、ということはなくむしろ少し面白がっているように漆黒の少女はティスに向かってすぐに反論した。あきらかに何か問題があって揉めているにも関わらず、少女には何故か余裕がある。

 そのことに不思議な気持ちを抱きつつも、セリッサは少女の言葉の凛とした力強さに惹かれた。語尾を強くしているわけでも声を張っているわけでもない。至って普通に喋っているにも関わらず、その響きには揺るがない自信と確信のこもった重さがあった。


 ――そのことも、やはり『似てる』と思ってしまう。幼少期の時に比べれば、もちろん声が変わっている。だが、そうだとしても似ていた。

 声の響きが、その声の内にある強さが。


(それとも……ただ似ていると思いたいだけなのかもしれない)


 だから、全部を近づけてしまっている。姿も声も雰囲気も……


「問題ということであれば、全てが問題ともいえるけれど、そもそも」


 ティスは立ち止まっているセリッサを気にしながらも、視線を下げ書類に目を通し……書類と共にある『アレ』はなるべく見ないようにしながら再び漆黒の少女へと口を開いた。


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