八
「いやぁ、ほんとシェオルってさ」
「ん?」
「なんというかすごいよね」
その言葉にシェオルは笑った。
「すごいじゃなく『危ない』の間違いでしょ」
「自分で言うか」
「自覚があるだけマシでしょ」
「マシかなぁ、それ」
教室へと戻る途中、重苦しい雰囲気の中でレオネは呆れてシェオルへと話しかけた。レオネの言葉にセリッサもやっと苦笑する。これが、レオネの強さだろう。すごいと改めて思う、レオネにはいつも助けられている。
「ちょっと、シェオル。あなた、どういうつもりなの」
雰囲気が崩れたのを分かったのか、ファーノは我慢していたものを吐き出すように苛立ちを込めてシェオルに詰め寄った。
「なにが?」
「なにがじゃないでしょ! あなた、わかってるの? 反抗するだけじゃない。隊長……ミュゲ先生を挑発して戦おうとするなんて、一体どういうつもりなの?」
厳しい視線を向ける。状況を考えれば、ファーノが正常だった。魔法少女なら誰しもシェオルへ不満を持つだろう。
「あの時、言った通りだよ」
だが、そんな視線を受けても……加えて、周りの不満を分かっていても、シェオルは変わることなく普段通りに答えた。別に何事もなかったのように、怒るファーノが不思議なように。
「戦いたかっただけ。できることなら隊長と」
「っ! だから、その態度がどういうつもりだっていってるのよっ!!」
回りこみ、ファーノはシェオルの前へと立った。正面からその瞳を見つめ、静かな怒りとともに言葉を突きつける。
「魔法少女になるつもりがないなら、学園を辞めて」
「ファーノさんっ……!」
「黙って、セリッサ」
止めるセリッサを気にすることなく、ファーノは鋭い視線を向けたまま、シェオルへ言葉を続けた。
「魔法少女に成らず浄化が使え、力を奮い、学園長や隊長に反抗する。貴女がしていることは、魔法少女の否定よ。だったら、学園に居ることはない。はっきりいって邪魔なの」
誰もが口を出さないが、想いは同じだった。セリッサでさえ、ファーノの気持ちは理解できた。シェオルの想いに少しの変化はなくとも。
それをシェオルも分かっているからだろうか。何かを言おうとするセリッサを視線で止め、睨むファーノににこりと微笑んだ。
「ファーノは本当に魔法少女が好きなんだね」
「っ! 今はそんなこといってるんじゃないのよ!」
「わかってるよ。でも、ごめん」
なお詰め寄るファーノに謝り、シェオルは珍しく困ったように……申し訳なさそうに苦笑し、そして、呟いた。
「もう少し学園に居させて。もう少ししたら……多分、いろいろ終わるから」
「終わる?」
「そ、終わる」
シェオルは笑い、ファーノをよけて歩き出す。
(……シェオルさん)
セリッサの胸の呟きは、シェオルに伝えることはできなかった。今、それを伝えるのが……怖い。
「……シェオル。いったい貴女は何しに来たの?」
シェオルの表情が意外だったのか、ファーノは口調を変えると、歩く後姿に呼びかけた。
「名前の通りだよ」
シェオルは振り返り、もう一度笑った。今度はどういう微笑かは分からない。ただ純粋に、ただ真っ直ぐに微笑み――一言、答える。
「冥府と地獄。それだけ」
「何をいって――」
「ちょっと、なにを騒いでるの!」
聞こえた声に、新入生の全員が視線を向けた。そして、周りの状況も今更ながらに理解する。
今は授業の合間の休憩時間だった。シェオルたち初等生だけではなく、上級生や訓練生も廊下にはいたのだ。訓練でのあまりの出来事に、ファーノ自身も周りが見えていなかったことに気付き、慌てて表情を変える。
こちらへ歩いてくる上級生二人――胸に施されているオリーブの花は四輪。魔法少女第二訓練生の生徒だ。
その一人を確認し、シュティは自然と声を出していた。
「ヴィオラお姉様……」
フミュッターヒェン家の三姉妹の次女。静かな眼差しに一点の惑いもない鋼の雰囲気を纏い、綺麗な長い髪を少しだけ揺らして歩いてくる少女、ヴィオラ・フミュッターヒェン。
そして、もう一人。最初に声を上げ、注意してきた上級生。短い黒髪に、陽に焼けた肌。女性に対して無骨というのは失礼なのだろうが、しっかりとした体躯――といっても、大きいわけではない。よほど鍛えているのだろう、戦士のような滑らかで強い体躯を持ち、厳しい視線を向けてきている少女、リオ・ヴァリー。
第二訓練生の中でも優秀な成績を収め、生徒の中心となっており、自然と下級生の監督というような役も担っている二人。そんな二人に対し、セリッサは騒いだことをすぐに謝罪した――今は、シェオルの話に触れられることをしたくはなかった。




