四
「でもね、ただ『旅に出ていた』だけじゃ……さっきも話したけど、規則としてちゃんと初等学園を卒業していないと駄目なの」
「でも、初等学園に行っていない子だっているでしょ?」
「それはそうだけど、少なくともアルカンシエルでは教育補助を推進させているわ。……確かに、他の都市ではまだ遅れているところもあるけれど」
ティス・スマインニッヒは受付らしく明確に答えながらも、最後は少し困ったように言葉を濁らせた。
受付を担当するようになって五年。もうそろそろ古参と呼ばれる時期になってきた。というより古参に分類されるのだろう、この学園では。
その五年の中で、こういうケースは実は少なくなかった。こういうケースというのは、つまり魔法少女学園に入りたいと希望してくる少女がいることは。
魔法少女は少女たちの夢であり憧れだった。だが、その能力を持っている人間は限りなく少ない。
なので――年端もいかない少女たちだからこそしょうがないともいえるが、憧れを諦めきれずこうして入学を希望する少女は多かった。時には親も一緒にお願いしに来たり、役所に申請しにいく人間もいた……結局、対応はこちらに回されるが。
ともあれ、数多くの経験でティスは対応に慣れていた。慣れているはずだったのだが――
「だったら、初等学園に行っていなくて洩れている子だっているはずですよ」
「そうだけど……」
切り返すことができず、ますますティスは言葉を濁らせてしまった。
普段ならいくらでも説明し、相手に理解させることができていた。だが、目の前の黒髪に漆黒の服を着た黒づくめの少女からいわれてしまうと不思議と言葉が続かなかった。
「…………」
……いや、雰囲気だけではないことも自覚している。何よりも明確な魔法少女たる証拠が書類とともにあるのだから。
「――あの」
ティスが逡巡した一拍の間。それを待っていたかのように、聞き慣れた声が入り込んできた。
その声に安堵し……同時に知らず緊張していたことに気付きながらも、ティスは顔を向け声の主に向かって優しく微笑んだ。
「あら、セリッサ。いらっしゃい」
「おはようござ――」
同様に振り返り視線を向けてくる漆黒の少女に、セリッサは驚いたように一度言葉を止め、
「セリッサ?」
「ぁ……おはようございます、ティスさん」
そして、慌てて言い直すと、二人へと近づいた。