三
現在、教職員と生徒を含めアルカンシエル学園には六十五名の人間が住んでいた。これはそのまま、アルカンシエルを守る魔法少女の数となる。
(そして、今年……)
母から聞いた話では、その六十五名の中に新たに七人の魔法少女が加わることになっていた。考えるまでもなく、その七人の内の一人は自分だ。
そのことを自覚し、今こうして入学前に学園に来ている理由を思い出してセリッサは心の奥で小さな溜息をついた。
考えるまでもなく――自分で言ったことながらまさしくそうだった。アルカンシエル魔法少女学園のことも、魔法少女の制度のことも、今更考えるまでもなく知っていたことだ。見る必要も聞く必要もなかった。新入生の中では、誰よりも間違いなくアルカンシエル学園のことを知っているはずだった。
そして、同様にアルカンシエル学園に住む魔法少女のほとんどが自分の事を知っているはずだ。
学園長の娘として、聖女の娘として――
「…………」
セリッサは足を止め、空を見上げた。
母のことは尊敬しているし大好きだった。魔法少女のことも誇りに思っている。周りが見ている自分の存在というのも自覚していた。
でも何かが……言葉にできない何かが心を満たしていた。それは霧のように立ち込め、心を覆っている。
悩みということでもない。苦しみとも違う。何か――
「……そっか」
セリッサは無意識に呟いていた。
何かは分からない『何か』。それは、小さいあの時と同じもの。
今、新しく生まれたものではなかった。小さいときに生まれたものがどんどん大きくなっていき、そして、今気付いた。
「…………」
透き通った空は、蒼く広い。
だが、入学という新しい始まりに、セリッサの心には希望はなかった。
何かは分からない『何か』に足を囚われたまま、終わりのあの時から一歩も前に進めないでいる。
「駄目、ちゃんとしなきゃ……がんばらなきゃ」
――でも、何をがんばるのだろう。何のために、誰のためにがんばって――
その時だった。
「別にどうでもいいじゃないですか、そんなこと」
(え――)
静かな、でも力強い凛とした声が響く。
「昔のことなんてどうでもいいでしょ。問題は、今なんですから」
自分の事を言われたのかと思い、セリッサは声の方へと顔を向けた。
「――――」
瞬間、息が止まる。それは、見たことのある、忘れることのない背中。
漆黒のセミロングの髪をうなじ辺りで結び、漆黒の服を纏った少女――彼女はそこにいた。