七
――ガチャ!
「おっはよー、セリッサ。準備できた? ……って」
勢いよく扉が開き、元気な声と共に黒髪の少女が部屋に入ってくる――が、
「おはよう、レオネ」
「ぁ、う……おはようございます」
驚きもせずに顔を向け挨拶するシェオルと、シェオルに撫でられたまま多少慌てて同じく挨拶するセリッサを目にして、二人と同様に正装している黒髪の少女――レオネはピタリと身体を止め、変わりに意味ありげに含み笑いを浮かべた。
「もう、レオネ。ノックくらいしてください」
「あはは、ごめんごめん。お邪魔だったかな」
「っ、そんなことっ」
「お邪魔ってなに?」
「お邪魔はお邪魔だよ。二人きりの時間を邪魔しちゃったかなぁって」
少し頬を膨らませるセリッサをからかいながらシェオルの言葉に答え、レオネは見た目通りの元気の溢れた声でおどけていいながらにひひと笑った。
レオネ・レーベェンツァーン。服装の通り、シェオルやセリッサと同じく今年アルカンシエル学園に入学する新入生の魔法少女であり、初等学園ではセリッサと同じクラスにいた少女だった。
黒髪、黒目に褐色の肌、輝く瞳と身体から溢れるばかりに発している元気。接しただけでこちらが明るくなるような陽気で人懐っこい性格。
そんな姿と性格のためか一見すると少女ではなく少年と勘違いされそうになるのだが、ショートカットのうなじ辺りだけを長く伸ばし結んでいる髪型にしているお陰で何とか女の子を感じさせることができていた。とはいっても、本人は少年と間違えられることに慣れ、あまり気にしてはいないようなのだが。
「だから、そんなのじゃありませんし、お邪魔なんて思っていませんから」
「ほんとに?」
「ほんとです」
意味ありげに、というよりどういう意味を込めてレオネが聞き返しているのかは想像できていたのだがあえて考えないようにして。
ともかくも撫でていた手を下ろしたシェオルからスッと離れ、セリッサはレオネに断言するように言い切り、マントを整えるように見せながら自分の心を確かめるように胸に手を当てた。
少しだけ早い鼓動、だけど、心地のいい心音を指を通して感じながらセリッサは静かに息をつく。
「それより、レオネが来たということはもうかなり時間が経っていることですね」
「なーんか引っかかる言い方。折角、迎えに来たのに」
「ふふ、ありがとうございます。準備ならできていますよ」
そう、準備ならもうできていた。服装ということではなく、それよりももっと大切な心の準備が。
学園に入る前の迷っていた気持ちはもうない。
何かが明確になったわけでも分かったわけでもない。でも、迷いだけはなくなっていた。
魔法少女なる決意に、魔法少女として生きることに、頑張ることにもう迷いはない。
だから、
「行きましょう、シェオルさん。宣誓式に」
胸から手を下ろし、セリッサはシェオルに向かって微笑んだ。
「そだね。じゃあ、行こうか」
頷き、シェオルはサッとマントをなびかせながら一歩踏み出す。
宣誓式が終わってからが本当の魔法少女の始まりだということは分かっている。
でも、セリッサにはこの朝が自分の――いや、もしかしたら自分だけじゃなくシェオルもそう感じているかもしれない。
この朝が、この時が、お互いが信じる気持ちを確認できたこの瞬間が、二人の……二人だけの魔法少女としての始まりであり、誓いのように感じていた。




