一
『愛・勇気・絆・希望・奇跡』
校庭にある石碑に刻まれた項目。魔法少女の五指針。
アルカンシエル魔法少女学園だけではなく、この指針は魔法少女学園全ての指針だった。誰もが胸に刻み、魔法少女として戦う。
「…………」
それを一瞥してから、透き通った空のような瞳の小柄な少女はプラチナブロンドの綺麗な長い髪と白い服を風になびかせ校舎へと向かって歩き出した。
アルカンシエルは、人口約三万人の小さな都市ということに加え有名な観光地や名産もなく、自然と調和のとれた綺麗な街並みを風景画として描く画家は多いものの国では一部の人間にしか知られていないような都市だった。
しかし、その中にあるアルカンシエル魔法少女学園を知らない人間は少ない。いや、それどころか国の多くの人間はアルカンシエル魔法少女学園の名を一度は聞いたことがあるはずだった。アルカンシエルという地名から学園の名がつけられたにも関わらず、学園を知ってから街のことを知るという人間のほうが多いほどにアルカンシエル学園の名は国中に知れ渡っていた。
そんな有名なアルカンシエル魔法少女学園だが、歴史はそれほど古くはない。といっても、それは他の学園に比べればの話だが。
創立五十三年。これは千年以上の歴史を持つ学園もある中では驚くほどの新しさだった。ちなみに一番歴史の古い、つまり一番最初に創立された学園は聖都パラス・アテネにあるアテネ魔法少女学園で、これは千三百年以上の歴史がある。他の学園に関しても五百年以上の歴史を持つ学園がほとんどで、それを考えればアルカンシエルがどれだけ新しい学園なのかが分かるだろう。
それだけ短い歴史しかないアルカンシエル学園が、何故国で知らない者がいないほどに知れ渡ったのか――名門と呼ばれるようにまでになったのには、当たり前のことながら理由がある。
小都市であり歴史も浅いアルカンシエルから、聖女の称号を受けた魔法少女が二人も現れたのだ。
「…………」
知らない者はいない、誰もが知っている二人の聖女を思い浮かべ、心に浮かんだ何とも言えない複雑な気持ちを白服の少女は胸の奥に押し込めた。
少女ももちろん知っている、知りすぎているほどに……
元より二人だけではない。聖女のことは誰もが全員知っていた。国で七人――六人しかいない聖女のことは。
魔女の使徒を倒し、全ての魔法少女に認められた者に与えられる称号『聖女』。
それは魔法少女の誇りと象徴だった。誰もが尊敬し、目標とした。ただし、聖女本人に憧れがあったとしても『聖女』という称号自体に憧れを持つ魔法少女がいなかったのは、聖女になれないほうが――つまりは、『魔女の使徒』が現れないほうが世の中が平和ということだからだろう。