十六
「…………」
「不安ですか?」
踏み出したシェオルを見つめ続けるセリッサに、ティスは小さく問いかけてから安心させるように説明を続けた。
「大丈夫ですよ。さすがに反撃をするくらいには強くしているでしょうけど、あの強度なら元はヌイグルミですし叩かれたとしても怪我はしないと思います」
「……はい、そうですね」
「それに、危ないと感じたらすぐに浄化して水晶に戻します」
「はい」
ティスの言葉に返事を返してから、セリッサは少しだけ微笑んだ。
実をいえば、ティスの言うことはセリッサも分かっていた。おそらくは生徒ではない自分でも簡単に浄化できるほどの相手だろう。魔法少女に成れ、浄化が使えるのなら間違いなく誰でも倒せるほどの初歩の敵だった。
だが、見かけは大きなヌイグルミでも、力だけなら普通の成人男性でも敵わないような相手を自分と同じ年齢の少女に、しかも、魔法少女に成れないといっている少女に向けるのにはやはり不安だった――
(…………)
――という気持ちはもちろんある。しかし、戦いに向かうシェオルを見つめ、セリッサはそれとは別の不安、いや、怖さを感じていた。
何故、『怖い』と感じているのかは自分でも分からなかった。力を見たいと言ったのは自分で、戦いを止めるつもりはない。
(だけど……)
見なくちゃいけないと感じているのに、見てしまえば、見てしまったら……
「シェオルさん……」
シェオルは平常のままにクマを見つめていた。焦りも恐れも、戦うという力みもない。いや、逆に脱力しているようにさえ感じる。
もう一歩、シェオルは踏み出す。元々、それほど擬似の従僕との距離があったわけではない。すでに目の前といえるほどの距離まで近づいていた。
「――――」
その瞬間だった。
シェオルの横顔を見て……その瞳を見つめてセリッサの息が止まった。
シェオルの纏う雰囲気が、空気が変わる。無音ではないはずなのに無音が支配し、星一つない真夜中の暗闇ような重さがただただ圧し掛かってきていた。
虚無と静寂。それは誰もが一度は出会い、そして、誰もが一度だけ経験するもの。
土の奥深くに埋まる感覚――死の冷たさ。
その時になって、セリッサはもう一度彼女の名前を思い出した。
冥府と地獄。シェオル・ハデス。
彼女は今まさにそれをこの場に支配させていた。冥府の空気を、死の匂いを。
「セリッサ?」
「っ」
「大丈夫ですか?」
「ぁ、はい……大丈夫です」
ティスの声に我に返り、セリッサは急いで返事を返した。止まっていた呼吸も戻り、そこでやっと周りの状況も見えてくる。
――そう、ティスや、自分たちよりも近くにいるリップでさえはシェオルの変化に気付いていなかった。シェオルの変化に気付いたのは、囚われていたのは自分だけだ。
(…………)
今は普段通りに戻っている。音も空気も普通に感じることができる。
何故、自分だけが――という疑問が頭によぎった瞬間、セリッサはすぐに答えに気付いた。
シェオルの瞳を見たからだけじゃない。変化に気付いたのは、息が止まるほどに囚われたのは、多分――