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十五

「クマーーーーーーーーッ!!」


 光が消え魔方陣が消滅した後、巨大化したヌイグルミは両手を振り上げて雄叫びを上げた。


「ふふん、どう? すごいでしょ」

「…………」


 胸を張って言ってくるリップに、目の前の巨大なヌイグルミ――擬似の魔女の従僕を見ながらシェオルは沈黙を返した。

 ……実をいえば、訓練用の『魔女の従僕』なるものと相対したのはシェオルも初めてだったのだが。


「…………」


 感想をいえば、ただ一つだけだった。『呆れた』、ただそれだけだ。


「クマーーーーッ! クマクマーーッ!!」


 やたらとファンシーな声で騒ぐ巨大なクマのヌイグルミ。見た目に合っているとはいえるが、今の場合は声だけでも図太く怖い声のほうがまだ『マシ』だ。

 両手をブンブカ振り、両足をパタパタさせるまるまるフワフワな巨大なクマのヌイグルミ。正面を見ているので分からないが、もしかしたら尻尾も動いているかもしれない。まあ、どうでもいいが。

 ともあれ、そんなラブリィでキュートな姿に、子供じゃなくとも女の子なら誰でも喜ぶだろう。


(戦うにはまったく向いてないけどね)


 というか、こんなので訓練していたのかとさえ思う。いや、訓練しているのだろうが……


「わたしの感覚のほうがおかしいんですか?」

「? なにが?」


 遠まわしな言い方だったせいか、こちらの意図は伝わらなかったようだ。リップは不思議そうに疑問の目を向けて首をかしげた。

 何故これを当然と思っているのかは、こちらにとっても疑問だったのだが。


「やっぱり浄化できないんでしょ~? それならすぐに元に戻すよ」


 こちらが逡巡しているのを力が使えないからと勘違いしたのか、何故か勝ち誇ったようにリップが言ってくる。


「分かりました。やりますよ、戦いますよ、戦えばいいんでしょ」


 自分から力を見せると言った以上、文句を言うことさえできない。隠さずに溜息を付き、シェオルはクマを見つめた。


「クマーーーーーーッ!!」


 ――そして、目を逸らす。


「アホですよね」

「アホじゃないよ! というかなんで急にアホなの!!」


 指を向けてはっきり断定するシェオルに、リップは両拳を上げてぱたぱた振りながら声を上げた。


「いえ、言いたくなっただけです。深い意味は……ありますが、わたしが大人になってこの現実を受け入れます」

「むぅ~、わけのわからないこといって~! アホっていうほうがアホなんだからね~!」


 わけのわからないのはこっちだったが、怒るリップはこの際無視して、シェオルはもう一度クマに視線を向けた。訓練用のせいか、あちらからは攻撃をしてこないようだ。

 魔女の水晶には能力が――感情を吸い込むという能力はあるが、水晶自体には強弱はない。前述したように大きさによって、そして、入れる人間や物によって強弱は変わってくる。もっと正確にいえば吸い込む感情の量と質によって。

 そして、魔女の従僕には自我や思考はないといわれている。なので、凶暴性は強弱によって変わった。吸い込む感情が少なければ弱くなり、目の前のクマのように人を襲うことなどせずただバタバタと暴れるだけの魔女の従僕となる。

 ――ということも、教師クラスの魔法少女くらいしか知らない知識ではあるのだが。まあ、それはともかく。


(どうせなら、もう少しまともな相手のほうが良かったけど……)


 仕方がなく右拳を握る。姿はどうあれ、浄化するとなればそれなりに心を整えなければならない。

 シェオルは僅かに顔を伏せ――そして、すぐに上げると右足を一歩踏み出した。


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