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十四

「って、君はそんなことまで知っているの!?」

「調べたわけじゃないですけどね、戦う内になんとなくそうなんだろうなって。まあ、大きさによって感情の入る容量が変わるなんて少し考えればすぐに分かることですけど」

「むぅ……私習うまで分からなかった」

「あはは……」


 落ち込むリップに苦笑するが、実際セリッサも知らないことだった。いや、それ以前に考えたこともない。大きさによって入る感情が変わるなどということは。

 魔女の水晶は浄化しないかぎり形を見ることはない。つまり大きかろうが小さかろうが浄化しないとならないわけで、大きさのことなど気にする場面はなかった。おそらく、リップが習ったというのも擬似の魔女の従僕を創らねばならない教師だからだろう。


「ぅー……でも、強くて怪我とかしちゃったらかわいそうだからこれくらいで」

「分かりました」


 手に納まるくらいの……リップの小さな手に納まるほどの水晶を手にとってヌイグルミと共に確認するように差し出してくるのを見つめ、シェオルは笑って頷いた。確認してくるのも変な話だ。ここにある全ての水晶はすでにシェオルが浄化しているのだから。まあ、つまりは、まだ信用されていないということなのだろうが。


「じゃあ、お願いします」


 すぐに信用してくれるだろう。あの程度の水晶なら一瞬で済む。


「うん、それでは始めましょう。セリッサちゃんとティスちゃんは少し離れててね」


 リップの言葉にセリッサとティスは二人を残して歩き出し、五メートルほどあけて立ち止まった。

 場所も校舎の入り口にある受付から変わっていた。さすがに受付の前で戦うわけにもいかず、リップがヌイグルミを持ってくる間に少し開けた場所へ移動したのだ。本当なら訓練場に行くべきなのだろうが、事情が事情だけにあまり人目につく場所でするわけにもいかなかった。


「よし、それじゃあいくよ」


 距離を空けた二人を確認してから、リップはシェオルに向き直った。手にしたヌイグルミを赤ちゃんを抱くように抱えなおし、その胸へと黒水晶を触れさせる。


(そういえば、水晶が入る瞬間を見るのは初めてかな)


 シェオルがそんなことを考えているのと同時、水面に沈んでいくように空気の波紋を広げながら音もなく水晶はヌイグルミの中へと消えていった。

 瞬間――

 ヌイグルミを中心に光り輝く白閃の魔方陣が地面に現れ、二人を下から照らし出した。


「これって……」

「ふふ、驚いた? 普通は黒い魔方陣だもんね」


 魔方陣から僅かな風が流れてくる。その風に髪と服をたゆたせながら呟くシェオルにリップは自慢げに微笑み、そして、クマのヌイグルミをゆっくりと手放した。


(なるほど)


 ヌイグルミと魔方陣を見ながらシェオルは胸中で呟いた。魔女の従僕は黒の魔方陣から現出する。だが、今下にある魔方陣は白い。擬似の従僕の現出方法までは知らなかったが、おそらくは浄化の力を逆に使用して、現出を早めているのだろう――

 などとシェオルが考えている間にも魔方陣の光は強まり、比例するように下からの風も強まってきていた。

 手を離れたヌイグルミは、下に落ちることなく宙に浮き、シェオルの目の前でとどまっている。それを確認して、リップはヌイグルミの背中へと軽く手を触れさせるとシェオルへと視線を向けた。


「一度現出させてしまうと浄化しない限り水晶には戻らない。無理だと思ったらすぐにいうこと。いい?」

「わかりました」


 教師として当然なのだろうが、最後の確認をしてくるリップにシェオルは思考していた頭を切り替え、軽く頷いた。

 心配されるのは分かるが、そんなことは必要なかった。逆に心配されるようなことが起こってくれるくらいが丁度いい。不安と恐怖があったほうがいい。


(期待はしてないけど、それなりには強くあってよ)


 シェオルの返事を受け、リップは瞳を閉じた。風に吹かれるまま意識を集中し――ゆっくりと口を開く。


『現出』


 刹那、魔方陣から光が溢れヌイグルミを包み込み、黒い影が巨大化した。


 そして、『それ』は――魔女の従僕は現れた。


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