十三
――数分後、
「お待たせ~」
「…………」
準備を終えた……といっても擬似の魔女の従僕を現出させる『モノ』を持ってきただけだが、それを抱えたリップを見てシェオルは何といっていいか分からずただ沈黙した。
「どの子がいいかなぁって迷ってたんだけど、今日はこの子。えへへ~、可愛いでしょ~」
愛情の込めたものには心が、感情が宿る。それに魔女の水晶を入れ感情を吸わせることで擬似の従僕を創るわけなのだが……
「この子が君の相手だよ」
「なるほど」
自慢げに向けてくるリップの抱いた従僕の元となるモノ――可愛いクマのヌイグルミを見て、シェオルはとりあえずそう答えた。逆にどう答えたら正解なのだろうとも考えるが、「可愛いですね」と同意するのはあまりしたくはない。例え、それが反応としては正解だとしても。
「むぅ、それだけ? こんなに可愛いのに」
そんなシェオルの気持ちが通じたのかリップは頬を膨らませるが、すぐに気を取り直して表情を変えた。前の女の子の顔ではなく、教師の顔に変えて。
「さて、君の準備はいいかな?」
「はい、いつでも」
やっとか、と思いつつシェオルは頷いた。
元の形はどうあれ擬似の従僕と戦うのはシェオルも初めてだった。油断をするつもりはないが、それなりに気持ちを整えなければならないだろう。なにより魔女の従僕はどのように現れるかは分からない。元が可愛くとも、まったく違う形になることもある。
「泣いて謝るなら今のうちだよ?」
「泣きませんよ、先生じゃあるまいし」
「私だって泣かないよ! というか、なんで泣かなきゃいけないの!」
「いえ、なんとなくすぐ泣きそうだなぁって」
「むぅ、子ども扱いしてるな~! わかった、そこまでいうなら私の力を見せてあげる!」
ぷんすか怒るリップに、シェオルは「力を見せるのはわたしです」とツッコミそうになるのを抑えた。ついでに「子供扱いしてます」という言葉も。
パタパタしてるリップを見てるのは微笑ましいが、緊張感はなくとも一応戦う前だ。今度時間がある時にやろう。
(時間があれば、ね)
「よ~し、じゃあ……って、ずいぶん水晶がたくさんあるね」
「彼女が全て持ってきました」
「ええ!?」
ティスの言葉に驚き、リップはシェオルへ視線を向け真面目に呟いた。
「すごい手が込んでるね」
「嘘を付くためにこれだけ集めたら逆にすごいよね?」
「えっと……そうですね」
急にシェオルから振られた言葉に戸惑いつつも、セリッサも内心で驚いていた。
数十個の水晶――まさかこれだけあるとは思っていなかった。この水晶の数だけ、シェオルは実践を経験し魔女の従僕を浄化したことになる。
これだけの数の実践をしているのは――十年前の『エリスの災い』を含め、歴史に残る大きな戦いを経験している魔法少女以外――現役の魔法少女でもほとんどなかった。もしかしたらティスやリップよりも多いかもしれない。
これが、もし本当だとしたら、もし本当に魔法少女に成らずに浄化をしてきたというのなら、その実力は間違いなく学園でもトップクラス――どころではない。
魔法少女に成らないというのであれば、もしかしたら母よりも、聖女よりも――
(強いかもしれない)
――リップだけではなく、信じられないのは当たり前だった。
「んーと、これがいいかな?」
「もっと大きいのでもいいですよ」
「でも、小さい水晶じゃないとすぐ感情が満タンにならないでしょ」
水晶の一つを手にとって悩みながらシェオルの言葉に答え――リップはまた驚いて顔を上げた。