十二
「も~、一つしか違わないんだし敬語なんて使わなくていいっていつも言っているのに、ティスちゃん」
そういうティスの気持ちを知ってか知らずかリップは頬をぷっくり膨らませてから、その後にシェオルを再び見つめた。
「ん~、君がその開花せずに浄化が使えるって子なんだね」
「はい、まあ」
見上げてくるリップに、思わず年下だと勘違いしそうになるのを抑えながらシェオルは笑って答えた。
「それ本当? 嘘ついちゃ駄目なんだよ?」
首をちょこっと傾げて聞いてくるリップ。
「嘘じゃありません。本当のことです」
「ほんとのほんとうに? 嘘じゃない?」
「本当です」
逆方向にちょこっと首を傾げるリップに、また年下だと勘違いする気持ちを抑えながら……かなりぎりぎりの勝負だったがなんとか抑えて、シェオルは肯定した。
「でもでも、絶対にできないよ。魔法少女にも成らないで浄化が使えるなんて。ぜったい、ぜーったい無理」
「だから、力を見せます。そのために、擬似の魔女の従僕を使わせてください」
「あれ? そんなことも知っているの?」
急にきょとんとし顔を向けてくるリップに、ティスは困ったように口を開いた。
「ええ、ここに来る前から知っていたようです」
「ん~、そうなんだ」
ティスの答えにリップは少し考え、そして、大きく頷くとシェオルを再度見上げた。
「うん、わかりました。じゃあ、君の力を見ましょう」
「しかし、いいんですか?」
「お願いしてきたのはティスちゃんのほうだよ?」
「それはそうなんですが……」
思わず確認してしまったティスにリップは笑って答えてから、本気とも冗談ともつかない口調で付け加える。
「それに、秘密を知られてしまったからには放っておくわけにはいかないし。ちゃんと口止めしないと」
「いえ、その言い方はどうかと……」
「じゃあ、セリッサちゃんはどう思う?」
「わたしは……」
急に話を振られ、セリッサはリップからシェオルへと視線を向けた。
シェオルもこちらを見つめてきていた。その表情に変化はない……なにも起こっていないので当たり前だが。
話だけでは何も分からない。変化もあるはずがない。だったら、
「わたしも力を見たいです」
わずかの逡巡の後、セリッサはリップに向けてはっきり言った。あの人の、シェオルのことが少しでも分かるのなら力を見たい。
「そうだよね、この子が嘘をついているのをちゃんと確認して、きちんと教育しなきゃいけないしね」
「嘘じゃないっていってるのに」
「ふっふーん、そんなことをいっていられるのも今のうちなんだから。先生がおしおきしてあげる」
「まあ、それでもいいです。おしおきされないように頑張ります」
ふふん、と胸を張って言ってくるリップに――どうみても子供が背伸びして大人ぶっているとしか見えないが、ともあれシェオルは笑って頷いた。実際、魔法少女の力ならリップはかなりの実力を持っているはずだった。そうでなければ教員には選ばれない。なので、しようと思えば「おしおき」もできるだろうし、「口止め」というのもあながち冗談ではないだろう。だからといって、いくらすごまれても小さな身体と可愛らしい顔は変わらないわけだが。
「よし! それじゃあ、丁度水晶もあるみたいだし、すぐに始めちゃおう!」
そんな可愛らしい顔でむんと気合を入れると、リップは小さな身体をぴょんと跳ねさせて右手をおーと振り上げ試験を決定したのだった。