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十一

「もし」


 そんな疑念の視線を受けても平然としたまま、シェオルは続けて口を開いた。


「何らかの意図があって魔法少女のことを調べ、そして、魔女の水晶まで盗んだとすれば、わざわざ疑いをかけられるような真似なんてしないと思いますけど。学園に来て、入学志望するような真似は。それに、その疑いなら一発で晴らす方法があります」


 シェオルは手に取った黒水晶を親指と人差し指で持ち直すと、ティスの目の前へとかざしにこりと微笑んだ。


「わたしが浄化を使うことができれば、何の問題もないはずです。水晶を持っていた理由も、入学する意味も、それで全て解決するはず」


 強引だった。どう考えても強引な理由とやり方だと思わざるを得ない。

 だが、このままこの漆黒の少女を突き放すこともできなくなっていた。もう退くに引けないほどに情報を聞いてしまっている。

 口惜しいが……これも予定調和だったとしても認めざるを得なかった。力を見ることを。


「……水晶を使った訓練は教師にしかできません。それでもいいの?」


 教師を呼べば、それこそ完全に後には退けない――暗にそう含めながら詰問するように話すティスに、シェオルは笑って頷いた。


「もちろんです」

「…………」


 セリッサは二人のやり取りを黙ってみていた。いくら学園長の娘だとしても、学園の制度に関して軽々しく口を出してはいけない。ティスが考えているように、シェオルがどれだけ注意しなければならない人物だとしても。

 ――それに、


(わたしも、この人の力が見たい)


 シェオルを見つめながら、セリッサは無意識にそう思っていた。力を見れば何かが分かるかもしれない――まだ諦めきれない、『あの人』だと思うことができるかもしれない。


「……わかりました」


 一度目を閉じ、ティスがそう言ったと同時だった。


「――あれぇ? セリッサちゃん?」


 少し間延びした小さな女の子のような声が響き、三人は一斉に視線を向けた。


「おはよう。今日は早いんだね、エライ、エライ」


 とてとてと歩いてくる小さな女の子は変に大人ぶった言い方をして、うんうんと頷いた。


「リップ先生」

「…………」


 名前を呼ぶセリッサに、シェオルは黙って小さな女の子――先生と呼ばれたリップを見つめた。


「……教師?」

「あ、はい。リップ・トゥリパーノ先生。アルカンシエル学園の教師です」


 呟きが聞こえたのか説明してくれるセリッサに、シェオルは改めてリップに視線を向けた。

 シェオルも同年代に比べればやや身長は低めなのだが、セリッサはシェオルよりも低い。

 そのセリッサよりも、教師と呼ばれた女性――どうみても女性というよりは女の子としか見えないのだが、その女性は低かった。見た目だけなら間違いなく初等学園の低学年だろう。

 ふわっとした短い髪に丸い大きな瞳、白い肌の可愛い女の子。私服なのは休日だからだろうが、その私服も限りなく見た目に合っていた。つまりは子供っぽい、というより子供そのものだ。

 まあ、魔法少女の実力と見た目は全然関係ないことではあるのだが――


(魔法少女としてはよくても、教師としては損をしているかもね)

「? どうしたの? お客さん?」


 内心で苦笑するシェオルを見つけて、リップはちょこっと首をかしげて見上げてくる。そんなしぐさすらも見た目のままだが、ともあれ、このタイミングで来てくれたのは都合が良かった。


「はい、えっと……」

「彼女は入学希望者です。ただ少し事情があって」


 どう説明していいか分からず言葉を濁すセリッサに、すぐにティスは言葉を続けた。


「事情?」

「はい、実は開花(フルーリール)せずに浄化が使えるという話なのです」

「ええ!? そんなの無理だよっ」


 案の定驚くリップに……驚くしぐさも可愛いのだが、慣れているのかそんなリップを見ても無表情のままティスは説明を加える。


「それで、入学試験というわけではありませんが、実際に確かめようと考えているのですが……リップ教師、立ち会っていただけませんか?」


 最後は迷いを含ませつつ、そうお願いしてティスは言葉を止めた。

 もちろんのことながら、入学試験で実際に力を見るなどということはしない。前例も特例もなく、開花できるかどうか、つまり魔法少女に成れるかどうかなどを試験する必要はなかった。試験などしなくとも、一目瞭然で結果が出るからだ。

 はっきりいえば、これは簡単に決めていいことではなかった。少なくとも、受付や一教師が承認していいことではない。

 勢いで『力を見る』としたもののティスもそれに気付いたのだろう。それで、説明の最後に迷いがでてしまった。


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