九
ともあれ、そうして現出した魔女の従僕は街を破壊し人々の生活を脅かしていった。
それを防ぎ、魔女の従僕を倒し水晶へと戻すのが魔法少女の――
「もちろん、『浄化』したに決まっているじゃないですか」
『浄化』
それは魔法少女を魔法少女たらしめ、戦女神アテネの子たる証拠でもあった。
魔女に対抗できる唯一の魔法。魔女の従僕を水晶に戻し、中に溜まっている感情を昇華させる――それが、魔法少女の浄化。
そして、逆に言えば、魔女の水晶を持っているということは、それは魔法少女に成ることができ浄化が使えるという証拠でもあった。
「それは、本気でいっているの」
「ティスさん?」
怒りを含んだティスの言葉に驚いて、セリッサは視線を向けた。
(魔法少女であれば魔女の水晶を持っていることは不思議なことじゃない。なのに、どうして)
学園に把握されているか、または、在籍していれば違反となるが、シェオルが旅をしていたというのなら魔女の従僕と戦い水晶を持っていても仕方のないことだった。確かに、学園で習うこともなく魔法少女の力が使え、浄化まで使えるのは驚くべきことで、更に、魔女の従僕との実戦まで経験しているのは信じられないことなのだが……
「『開花』ができないと自分で書いているのに、どうやって浄化したというの。魔法少女に成らなければ魔法すら使えず魔女の従僕と戦うことなんてできない。あなたは、自分の言葉と矛盾している」
「えっ……」
その言葉を聞いて、セリッサは思わず声を上げて今度はシェオルへと視線を向けた。
『開花』というのは魔法少女に成るという意味であり、成るための言霊だった。そして、ティスの言うとおり、当然ながら開花できなければ……魔法少女に成れなければ魔法も浄化も使えない。
そして、これも当然ながら、魔法少女でなければ魔女の従僕とは戦うこともできなかった。魔女の従僕は普通の人間が敵うような相手ではないのだ。逆に、敵うような相手ならば魔法少女は必要なくなる。
(それなのに、水晶を持ってる……浄化もできないはずなのに)
驚きは消えないままに、セリッサは胸中で呟いた。悪い見方はしたくはないが、盗んできたと見られても仕方がない。いや、実際ティスはそう見ているのだろう。
(だけど)
それも現実味のない話だった。浄化した水晶を、浄化した本人である魔法少女が忘れるわけがないし、何よりそれは第一級禁止事項の一つなのだ。
浄化した魔女の従僕は水晶へと戻るが、その光に魅入られる人間は少なくなかった。わざと自分や他人に埋め込み、二次被害、三次被害を起こす場合もある。なので回収を忘れた魔法少女は、酷い時には数年間の禁固を言い渡される場合もある。……とはいっても、罰則としては確かにあるものの、実際に禁固を言い渡された者は、つまりは、規則を破った人間は今だかつていないのだが。