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4.出会いと出会い

 帰りのHRが終わった後、俺、修也、健太は大講義室で行われる部活動紹介に参加していた。ちなみにあれから一ノ瀬さんとは、タイミングがあわず会話ができていない。

 嘘だ、ただ一ノ瀬さんの圧に負けただけである。普通にビビッて話しかけれません。


「二人はどこか入部するの?」

「特に気になるのはないな」

「俺も~」


 ちなみに俺は元サッカー部、修也は元テニス部、健太は元バスケ部。三人とも中学の時に毎日練習で忙しかったことにこりごりしている。だったら文化部で活動も緩めのやつが無いかと期待して見に来たが、そもそも興味が出る部活が無かった。というかこの高校自体があまり部活動に力を入れていない。県内では有数の進学校であるが、強い部活動は何もない。


『最後にサッカー部お願いします』


 司会がアナウンスすると壇上に一人の少女が上がってきた。すると大講義室にいる一年生たちが彼女を見るなりざわつきはじめた。


「あ、『聖女』だ」


 健太が少女を見ながらつぶやいた。

『聖女』は『氷の女王』である一ノ瀬さんと学年一の美少女を争っていると話題の有名人だ。争っていると言っても勝手に第三者がどっちの方が好みかで分かれているだけなんだが。

『聖女』の噂は聞いていたが、俺が四組で『聖女』は一組とクラスが違うため初めてお目にかかる。栗色のショートヘアと太陽のような明るい笑顔。まだあどけなさがあるが容姿も整っており、一ノ瀬さんを「モデル」と例えるなら彼女は「アイドル」だろう。話したことはないが今見た印象だけで、ポジティブで明るい性格なのがうかがえる。


「『聖女』って言うからおしとやかなイメージをしてたけど全然違うな。誰にでも優しい陽キャ女子って感じ」

「外見は確かにその通りだな。だけど本間 花音(ほんま かのん)さんが『聖女』と言われるようになったのはその行動だよ」

「何したんだよ?」

「本間さんは誰とでも仲良くなれる性格で、クラス全員と友達になったんだ。そしてクラスで孤立する人が出ないように行動した」

「おかげでみんなクラスの輪に溶け込んでる。四組の先生が『体育祭のクラス練習で一回大喧嘩して、そこから仲直りして熱が入り、体育祭に優勝したくらい絆ができてる』って驚いてた」

「なんだその具体的な例えは」


 本間 花音。それが『聖女』様の名前か。確かに『聖女』と言われるだけのことはしている。自分自身がクラスメイト全員と仲良くなるだけでも困難なのに、それをクラスメイト全員ができるようにした。しかも、高校生活が始まって一週間で。確かにそれは女神の力を授かった『聖女』にしか実現できないことだろう。


「だけど何で一年生の本間さんが部活動説明をするんだ?」

「さあな。それにこの学校は男子サッカー部しかないしマネージャーになったのかな」

「だとしたらサッカー部が羨ましいな」


 周囲を見るとさっきまで気だるげにしていた生徒も前のめりな姿勢へと変化する。帰ろうとしていた人が戻ってきただけでなく、本間さんの話を聞こうと続々と人が集まってくる。『聖女』には迷える人たちを率いる力があるというが、一ノ瀬さんと言い本間さんも本当に超能力者じゃないのか。関係のない上級生も集まってきてる。

 ふと本間さんの方を見ると合図を待っているようにどこかをじっと見ている。その視線の方へと向くと上級生の女子生徒が親指を立てている。上級生の女子生徒を見て思わず俺は「げっ…」と声が出てしまった。俺は彼女のことを知っている。そして何となくなぜ本間さんがサッカー部の説明をすることになったのかが分かってきた。本間さんはポケットからカンペらしき紙を取り出した。


「今からサッカー部の説明をします!サッカー部は二・三年生を合わせても六人だけです。サッカーは十一人でするスポーツのため他校と合同チームを組まなければ、大会に出場することもできません。中学校までサッカーをしていた人、未経験の方も大歓迎です!」


「高校ではサッカーする気なかったけどまたしようかな…」

「俺も小学生の時にサッカークラブに入ってたし…」

「未経験でも良いらしい、サッカー興味あったしな…」


 サッカー部に入部するかを考え始めるつぶやき声が続々と聞こえてくる。本間さんがマネージャーだからそれ狙いだと簡単に分かる。それにしてもカンペを読むだけでここまで人の心を動かせるとは。なんか本間さん政治家とか向いてるんじゃないか。今ならアメリカの大統領選挙に急に出馬しても当選しそうだ。


「ということでこの後グランドでサッカー部は活動してるから見学しに来てね!もちろんマネージャー希望の女の子も待ってます!」


 カンペをしまった本間さんがそう言うと今日一番の拍手が大講義室に鳴り響いた。サッカー部で部活動説明は最後だったため、多くの生徒が立ち上がり本間さんの周囲へと集まっていく。だいたいはサッカー部を口実として、本間さんと話がしたいだけだろう。


「じゃあ俺らは帰るか」

「帰りにラーメン屋よろうよ。お腹空いた」

「いいねー決まり」


「どこに行くのかな渚くん」


 俺、修也、健太が大講義室を出ようと扉に手をかけたその時、聞きなじみの声が聞こえるとともに俺は急に背後から首根っこを引っ張られた。嫌な予感…いや嫌な確信を持ちながら振り向くと、そこにはさっき本間さんに合図を送っていた上級生の女子生徒。


「松下先輩じゃないですか!」


 同中であった修也が反応する。松下(まつした)かこ。俺と修也が中学生の時の一つ上の先輩であり、俺が所属していたサッカー部のマネージャーだった人だ。肩にかかるぐらいまでの長さのポニーテール。そして何より注目を集めるのが光に当たると星の光を浴びたかのように輝く銀髪。夜間の練習の時に「とても夜が似合う人だ」と考えたことがある。大人顔負けのルックスで一ノ瀬さんや本間さんに負けない容姿を持っている。


「修也くん久しぶり!背が伸びたね。それよりお前も私に挨拶をしろ」

「お久しぶりです。松下先輩…」

「なんでちょっと嫌そうなんだ!!」

「いててててっ!?」


 そのあと流れるように十字固めまで持っていかれる。この人は昔から俺に気に食わないことがあると、格闘技の技を使って暴力をふるってくる。そして修也も良くこの状況に遭遇しているため慣れている。


「じゃあ渚、俺と健太は先に帰るぞ」

「まあなんか頑張れよ」

「待てお前ら友達を置いていくな――いてててっ!?」


 そしてだいたい修也は巻き込まれないように俺を見捨てていく。中学でよくあった状況が、高校生にもなってまだ続くとは考えてもいなかった。つかまれている右腕が松下先輩の胸に当たっていて恥ずかしい。本当に松下先輩は品性のない人だ。


「勘弁してください。みんな見てますよっ…」

「ふん…今はこれぐらいで勘弁しといてやる」


 できれば一生勘弁でお願いします。本間さんに集まっていた注目が一気に俺と松下先輩に向いている。高校生になってすぐに悪目立ちするのは避けたい。


「なんで私が怒っているかわかるか?」

「そんなめんどくさい彼女みたいな…なんでもないです。松下先輩を見て露骨に嫌そうな態度をとったことですか?」

「言葉にされるとなおさら腹立つな」


 松下先輩が拳を握るから素直に答えたのに怒るなんて理不尽だ。


「それもそうだが違う。お前も分かっているだろ…」


 松下先輩はスマホを取り出し、俺と松下先輩のトーク画面を見せつけてくる。


「なんで私のサッカー部の勧誘メッセージを既読無視してるんだ!」

「いや~…それには深い理由が…」

「それにこのサッカー部メンバーでお前向けに撮影した『サッカー部歓迎ビデオレター』も既読無視して!」

「いやそれに関しては本当に意味不明でした」


 夜に急に松下先輩から動画が送られてきたと思ったら、中身は会ったこともないサッカー部の先輩や顧問の先生の一人一人からそれぞれ三十秒ほど歓迎のあいさつをされるという五分ほどの動画だ。下手なホラー映画より怖い。


「本間さんの活躍で別に俺が居なくてもサッカー部はメンバー集まりそうだから良いじゃないですか」


 俺は松下先輩が本間さんに合図を送っているところを観て察しがついた。松下先輩はサッカー部の部員数が少ない問題を解決するために『聖女』の力を利用したのだ。一年生を勧誘するには一番のプロモーション効果だろう。


「お前がいないと駄目だ。とは言ってもお前は中々に頑固なことを私は知っている。私以外の女子でお前を引き込むのは少し癪だがあの子なら良い。お前には『聖女』花音ちゃんと会話する権利をあげよう。男子生徒の夢だぞ。喜べ」

「い、嫌だぁ!!俺はサッカー部には入らない!!」


 抵抗するのもむなしく格闘技経験者の松下先輩には力で敵わない。俺は強制的にサッカー部の部室の方へと引きずられていった。


 



 


  


 

 

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[一言] >「それにこのサッカー部メンバーでお前向けに撮影した『サッカー部歓迎ビデオレター』も既読無視して!」 野郎に送るビデオレターなんてNTRものぐらいと思ったが… ある種それより強烈な
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