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2.知ろうとすること

 後ろの席の一ノ瀬 涼花(いちのせ すずか)さん。常に冷静で落ち着いた雰囲気をまとっている。腰まで伸びたブルーブラックの髪は手入れをされており、まだ少し寒い外風にサラサラとなびいている。特に氷の宝石をはめ込んだような鋭い青い瞳が特徴的だ。表情にうといのか未だに彼女が笑っている姿を見たことがない。そんな彼女の特徴からついたあだ名は『氷の女王』。


「振られたな渚」

「まあそんな落ち込むなよ。一ノ瀬さんはそういう人だよ」

「いや俺は気にしてないよ。てか告白してないわ」


 中学校からの男友達の修也(しゅうや)と高校から友達になった健太(けんた)が声をかけてくる。面談の生徒以外は教室で自習時間となっているが、ほとんどの人は新しいクラスメイトとの交流をはかっている。


「そんなことより面談お前だけ長すぎだろ。渚は中学から普通科に行くって決めてただろ」

「いやそれなんだけど中嶋先生が…いや何でもない」


 中嶋先生のあの醜態を修也と健太に話そうと思ったが、先生の社会的立場は守ってやることにしよう。それにどうせこいつらもこの後に体験するはずだ。ネタ晴らしなんて面白くない。

 あれ待てよ…今考えるとなんで俺より前の奴は五分くらいで終わってるんだ…?出席番号順に面談が行われていて俺は4番目。まさか俺より前の三人は戦いもせずに商業科コースを受け入れたのか!?


『あなたが通う3年間はクビにならずに済むのでお願いします』


 さっきの中嶋先生の声がフラッシュバックする。何かがおかしいぞ…


「実は俺、商業科コースを選択したんだ」

「え、なんで!?中学の時から四木高校の普通科コースに通うんだって一緒に受験勉強してたじゃん!?俺たちの青春は嘘だったのか!?」

「渚はやはり逆張りするタイプだったか」

「違うわ!てか()()()ってなんだよ。まあお前らも時期にわかる」


 きっと一ノ瀬さんも今頃は中嶋先生に泣きつかれてるんだろうな。


「…」


 一ノ瀬さんが教室の扉を開けると教室のざわめきが一瞬にして止まった。一ノ瀬さんの足音が教室の扉から一番遠い列の俺の席にまで聞こえるぐらいには静寂になった。なんかエアコンが壊れて暖房から冷房に切り替わったのかと思わせるぐらいには、ヒヤッとする。一ノ瀬さんの席あたりに立っていた修也と健太はそそくさと自分の席へと戻っていった。


「次」

「あ、はいすぐ行きます!」


 一ノ瀬さんが次の面談の女の子に声をかけると、女の子は慌てて教室を飛び出していった。そして一ノ瀬さんが席に座るとまた教室は活気を取り戻し、徐々に温度が上がっていく。


「もしかして超能力者なの?」

「は?」

「何でもないです」


 あまりの存在感に思わず一ノ瀬さんの方に向いて問いかけたが、にらまれて威圧された。たぶん男性が女性に言われて怖い言葉ランキング上位には入る「は?」をいただきました。

 一ノ瀬さんが面談にかけた所要時間は約1分。さすがの中嶋先生も一ノ瀬さんには商業科コースの勧誘はできなかったようだ。


「ん?」


 スマホから通知が来たのでポケットから取り出してLINEを開いた。俺、修也、健太の3人のグループでメッセージが来たらしい。


修也『お前死ぬ気なのか?』

健太『渚は良い奴だったよ』

渚 『勝手に殺すな。何がだよ』

修也『いや一ノ瀬さんに超能力者とか馬鹿言ってたじゃん』

渚 『思ったことをすぐ口に出してしまうんだよ』

健太『バカじゃん』

渚 『一週間という短い間だったけどお前と入れて楽しかったよ』

健太『嘘嘘冗談じゃん!?クラスに中学の友達いないから勘弁してくれ』


 健太はかわいそうなことに同じ中学の友達はたくさんこの高校にいるのに、なぜか一人だけ違うクラスに分けられたのだ。滑稽だ。それでクラスで固まっていた健太を俺と修也が囲って仲良くなったのだ。


修也『そんなことより渚さ、一ノ瀬さんに声かけてみろよ』

渚 『いやなんでだよ。誰が好きで裸で南極に行くんだ』

修也『お前なら誰とでも仲良くなれるじゃん』

渚 『そんなキャラではないぞ俺』

健太『いやバカだし』

修也『バカだしな』

渚 『こいつらとりあえず地獄に送っていいか?』

修也『声かけたら学食おごってやるよ』

渚 『声かけるから邪魔するなよ』

健太『バカじゃん』


 まず一ノ瀬さんが誰かとまともに話してるところを見たことがない。学年一と言っても過言ではない美少女だし、最初は多くの男子が出会いを狙って話しかけていたし、女子も仲良くなろうと声をかけていた。しかしまあ全てを一ノ瀬さんは蹴散らした。

 まあでも一ノ瀬さんとある程度は話せるようになっておきたい。どうやらしばらくはこのままの出席番号順の席らしいし、席が前後でしかも列の後ろから1、2番目ともなると関わる機会は少なからずあるだろう。特に授業で班活動になったとき気まずい時間とか過ごしたくない。


 しかし何と声をかけたらいいか――


「ねえ」

「え?」


 ふいに背中をツンツンされながら声をかけられて振り向く。一ノ瀬さんはまっすぐと俺の方を見ている。どうやら勘違いではなさそうだ。というかまさか一ノ瀬さんから声をかけらるとは思わず、情けない声が出てしまってなかったか心配だ。


「超能力者ってなに?」


 え、その話題をこれからするの?もしかしてさっきの俺の発言に怒ってる?尋問にかけられているのか?いやこれは裁判…最後の審判なのか?俺が一ノ瀬さんに殺されるのか生かされるのかの。


「いやべつに特に意味はないけど…」

「ふーん、そっか」


 え、なんでそんな残念そうな…というか悲しそうな表情するの?ずっと真顔で表情なんて無い人かと思っていたけど、本当に目をこらしてみると僅かに変化してるな。今回の場合だと眉が少しだけ下がっている。


「いや一ノ瀬さんを見てると寒くなる時があるんだよ」

「え?」

「だからもしかして超能力者なのかなって…あははっ…」


 やばい可哀そうになって意味不明なこと言っちゃった。なんで俺は女の子にこんな話をしてるんだ。確実に黒歴史になる。高校生活一週間目にして一生忘れられない黒歴史をつくろうとしている。というか普通にこの発言は一ノ瀬さんを怒らせないか!?


「寒いの?」

「いや今は違う意味で寒気がしてます…」

「じゃあブランケット貸してあげる」

「え?」


 一ノ瀬さんは自分が先ほどまでひざに掛けていたブランケットを渡してきた。


「ありがとう」


 あまりの展開に唖然としながらも俺はとりあえず受け取って自分の膝にかけた。ブランケットから一ノ瀬さんの体温が残っているのを感じる。


「あったけえな」

「でしょ」


 やっぱり淡白な返事しか返ってこない。しかし一ノ瀬さんは笑っていた。とは言ってもよく見てやっとわかるほど少しだけ口角が上がっているだけだが。

 今の一ノ瀬さんは『氷の女王』とは思えない、ちょっと表情が分かりにくい普通の女の子に見える。


「でも良いの貸してもらっても?」

「いつも2枚使ってる。今日はあんまり寒くない」


 すごい。一ノ瀬さんが一回の会話で二言も喋ったぞ…。

 何というか想像とは違った人物だ。話してみないと、その人を知ろうと思わないと分からないことがたくさんあると感じる。『氷の女王』と呼ばれ、そっけない態度、常に怒っているような真顔の表情。そのすべてが自分が思い込んでしまって、勝手に勘違いしてただけなのだ。いやまあでもそっけない態度はまあその通りだろ。でも仲良くなれそうな気がする。


「一ノ瀬さん俺と――」

「なんで私を見て寒くなるの?」

「あ」


 そういえばそんなことを思って口にしてしまったのを思い出した。

 そして一ノ瀬さんの顔は真顔だ。いやよく見るといつもより目が鋭くなってるかも。


 


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