8.悪夢は舞い戻る Side:ルーシャス
パトリシアとの婚約を無事続けることが出来た俺は、心の底からホッとした。
パトリシアに因縁をつけた令嬢の家には、しっかりと釘を刺しにも行った。
これでもう憂いはないはずだ。
パトリシアのことを今まで以上に大切にして、パトリシアの気持ちを離さないような魅力ある男にならなくては。
最近、俺は前以上にピアノを弾く機会が増えた。
色々と情報を集めたり、釘を刺したりする際に世話になった人が多かったからだ。
俺のピアノで恩を返せるならばいくらでも弾こう。
俺は演奏に出かける時はパトリシアを連れて行き、パトリシアに捧げて演奏した。
せっかくの機会なんだ。パトリシアへのアピールに使って悪いか。
もう俺はパトリシアに逃げられたくはないんだ。
パトリシアも俺のピアノの演奏を楽しんでくれていた。
俺は彼女のヴァイオリンを弾く姿に一目惚れしたのだし、パトリシアと一緒に演奏したい気持ちもあったけれど、しかし可愛いパトリシアを人目に晒すことには躊躇する気持ちも多少ある。だからそのうち二人っきりで合奏出来ればいいなと、こっそりと思っていた。
そんな邪さがいけなかったのか、あの悪夢が再び舞い戻ったのだ。
「ルーシャス様、私との婚約を解消してください」
パトリシアが俺にそう告げた。