6.悪夢の終わり Side:ルーシャス
まだパトリシアには会えていない。
俺が手紙を出しても、パトリシアからは会ってくれるという了承は返ってこないのだ。
痺れを切らせて会いに行っても、先触れもなくパトリシアに合うことは叶わずにいる。
ただ、そんな俺を哀れに思ったのか、パトリシアの侍女が私にこっそりと教えてくれた。彼女は今度友人の開く夜会に出席するらしい。婚約者である俺に声も掛けずに。だ。
俺は落ち込んだ。もうこのままパトリシアと会うことも叶わずに死ぬしかないのではないかと思った。
しかし侍女が言うには、パトリシアは俺が贈った髪飾りに合わせた装いをするために夜会に参加するのだと言う。
ならば、何故俺を誘わない?
侍女も、それには疑問を感じているようだが、もしかしたら俺に見せる前に、友人の意見を聞こうとしているのではないか。夜会と言っても一人でも参加出来る気楽なものであるので大丈夫だけれど、パトリシアのことが心配である。だから、できればこっそりと俺も夜会に参加してパトリシアを見守ってくれないか。
そのようなことを俺に願う侍女に俺は心からの感謝を捧げた。
夜会の主催は快く俺を招待してくれた。俺との婚約を解消しようと考えているパトリシアは、おそらく侍女の言うような理由で参加するわけではないだろう。だけれど、俺は侍女の推測を事実であるかのように主催者に話し、可愛い婚約者をこっそりと見守りたいのだと言って内緒での参加を決めた。
夜会に現れたパトリシアのあまりの美しさに俺だけではなく、会場中が見惚れた。
当然だ。女神が更に自身を磨き上げたのだ。その輝きは見慣れぬ者の目を焼き尽くすほど美しいに決まっている。
だから、俺が…隠れて見守ると言った俺が、ついパトリシアの前にひざまづいて愛を乞うてしまうのも仕方のないことだった。
俺はパトリシアをダンスに誘った。
パトリシアは突然現れた俺に驚きながらも、手を取り踊ってくれた。
俺は久しぶりに見たパトリシアに心が浄化されるような幸福を感じた。
パトリシアに再び触れることが出来た喜びは、俺の中を満たしてくれた。
身体の隅々まで光が溢れるような心地でパトリシアとダンスをする。
パトリシアが幸せそうに笑ってくれた。
もうこれ以上何もいらない。
俺は心からそう思った。
だが、幸福な時間にも終わりがある。
音楽が終わり、ダンスを終えた俺は、けれどもパトリシアの手を離さなかった。
「パトリシア、俺を捨てないでくれ。愛してるんだ。君のために出来ることは何でもするからそばにいてほしい」
そう乞う俺にパトリシアは頷いてくれた。
「俺との婚約は続けてくれる?」
パトリシアは笑顔を返してくれた。
俺は思わずパトリシアを抱きしめた。
パトリシアは驚いたように目を瞬いて俺を見つめた。
まるで夢から覚めたような顔をしているパトリシア。
ああ、もう本当にそうだ。まるで悪夢だった。
悪い夢から覚めることが出来た俺は、もう二度と悪夢はごめんだと幸福を噛み締めた。