5.あなたの幸せを願う Side:パトリシア
私ではルーシャス様には釣り合わないと言われ、私は深く納得をした。
ルーシャス様はこの国の宝と呼んでも良いような素晴らしい男性だ。
けれども私は、今まで誰からも婚約を申し入れられたこともなく、デートに誘われたことすらないようなただの伯爵令嬢だ。
家族は可愛がってくれるけれど、得意と言えるものもない私のような女がルーシャス様の婚約者だなんて、確かに許されることではなかった。
ルーシャス様の愛を疑ったりはしていない。
こんな私ですらルーシャス様は愛を注いでくださるのだ。
きっともっと素晴らしい女性がルーシャス様の隣にいれば、もっとルーシャス様を幸福へと導くことができるだろう。
私は鏡の中を見つめた。
兄達が褒めてくれるからと、着飾ることもせずにいた私。
ヴァイオリンを弾く時は、髪を上げていたけれど、普段は下ろしたまま。
ルーシャス様がくださった髪飾りは、私の髪に付けられて幸せだと言えるかしら。
私はルーシャス様に頂いた髪飾りを見つめた。
ルーシャス様からの初めての贈り物。
例え婚約を解消しても私にとって一生の宝物だ。
私はそれをしばらく見つめていた。
そっと髪に当ててみる。
私の宝物をせめてもう少し幸せにしてやりたかった。
私は侍女を呼んだ。
「この髪飾りに合うように髪を編むことはできる?」
侍女は笑顔で髪を様々に編み上げてくれた。
どれもが髪飾りによく似合い。そして今までの私ではないような私が鏡の中に現れた。
「せっかくですからこれに似合うドレスを新調いたしましょう」
笑顔でそういう侍女に同意を返したのは、思わずのことだった。
あまりに鏡の中の私が見慣れなかったので、もっと違う私を見たくなったのだ。
だけど、婚約の解消を申し入れたのだからルーシャス様はもう私に会いには来ないだろう。
もちろんそれでいい。それがルーシャス様の幸せにつながるのだから。
けれど、少しだけ…
せっかくルーシャス様から頂いた髪飾りだから、前よりもそれが似合う私を見て欲しいと思ってしまった。