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4.新しい婚約者だと Side:ルーシャス

 新しい婚約者だと?

 俺がパトリシアに婚約解消されそうだという嫌味か。思わず舌打ちしそうになった俺は、しかし何故この女はパトリシアに婚約解消されそうだと知っている?と冷静に自分に問いかけた。


 俺はもしかしたらようやくヒントを見つけたのかもしれない。

 彼女はパトリシアから何か相談でもされたのか?


 しかしすぐに違うと気づいた。

 彼女はパトリシアのことを終始見下すように喋るのだ。

 俺のパトリシアに向かって。だ。


 パトリシアが婚約解消を口にしたのは、この女が原因ではないか?

 俺の前で喋り続ける女の、聞くに堪えない話を聞くうちに、俺はそう確信した。


 俺は冷静に調査をし、パトリシアと話をしなければ。と思った。

 パトリシアと俺の婚約を阻むものがあるならば、余さず浮き彫りにして、潰し切らなくてはならないのだ。対処は冷静に行わなければならないだろう。


 しかし…

我慢できなかった。


 目の前の女は、どんどんパトリシアのことを貶し続ける。俺が口を挟まないことを同意とでも思ったのか?そんな女を我慢できるはずがなかった。


 気がついた時には俺の殺気に晒された女は蹲っていた。

 俺は女を睨みつけると口を開いた。

 「貴様…俺のパトリシアに何をした」


 俺のパトリシアを罵ったのだ。殺されて然るべきだろう。

 しかし俺はパトリシアが何をされたのか。状況を確認するために殺さないでいる。


 俺は自分の冷静さを自分で讃えることで、女への殺意をやり過ごした。


 だが女は返事をしない。

 蹲って震える女に、俺は舌打ちをした。


 もしも手元に剣があればおそらく俺は抜いていただろう。

 今日はピアノを弾くためにパーティーを訪れた。

 だからピアノに不要な剣を置いてきたのだが失敗だった。


 いつまでも泣くばかりの女をどうするか考えていると、悲鳴が聞こえた。

 目の前の女ではない。別の女の悲鳴だ。


 俺は悲鳴に目を向けた。

 二人の女がこちらを見て凍りついていた。


 「な…なかなか戻らなかったので…様子を見に…」

 「いえ…私たちはすぐに戻ります…」


 「お前たち、この女の友人か?」


 「はい!」「いいえ!」


 返事は分かれたがまあいい。


 「こいつが…」言いかけた俺は言葉を変えた。「お前たち…俺のパトリシアに何をした?」


 「ひっ…」


 俺は後から現れた二人の女を見た。

 「な…何も…パトリシア様に危害など何もかけたりはしていません…」


 震えながらも返事をした女を信用したわけではない。

 俺は隣の女に目をやった。

 友人ではないと答えた女だ。


 「…っ…何も…ただ…クラリス様が…ハーディング様とパトリシア様では釣り合いが取れないと仰って…それを…その…パトリシア様にお伝えに…」


 「ほう…」

 俺は蹲ったまま身動きすらしなくなった女を見下ろした。

 確かに俺ではパトリシアに釣り合わないと言われても仕方がないかもしれない。

 俺は彼女に婚約の申し入れをするだけで3年も掛かったのだ。だがしかし、彼女に婚約を申し入れる権利を得たのもまた俺だけなのだ。釣り合わないと言うのは事実かもしれないが、俺は彼女を譲る気はないし、彼女に釣り合う男になるために努力は惜しまないつもりだ。


 俺は女を見下ろしたまま言った。

 「パトリシアに釣り合う婚約者になれるように、俺は今後も努力しよう」

 「え…」


 友人だと言った方の女が声を漏らした。

 口を手に当てて俺を驚いたように見ている。


 俺には無理だとでも言いたいのか。

 しかし誰に何と言われようともパトリシアは譲らない。

 

 「しかし…今後はパトリシアに近づかないで頂きたい」

 俺が告げると女たちは首を縦に振った。何度も壊れたように。


 足元の女は動かなかったが同意したと判断することにした。


 俺は女たちに動かない女を任せると会場を後にした。


 状況は理解した。


 俺はパトリシアに会いに行かなくてはならない。


 大好きな俺のパトリシア。俺のそばからいなくならないでくれ。

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