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2.婚約解消してください Side:パトリシア

 私の婚約者ーーールーシャス=ハーディング様はこの世でもっとも素敵な方だ。


 私が初めて彼を見たのは、とあるパーティーだった。


 私はその時、兄の添え物として初めて人前でヴァイオリンを演奏した。

 とても緊張して朝からガチガチに緊張していた私を兄は励ましてくれた。

 勇気づけられて会場までは行くことができたけれど、だんだんとまた緊張してしまって、私は泣きそうだった。

 けれど演奏会が始まった時、私は瞳を瞬かせた。最初に現れたのが兄と同じくらいの歳の男の子だったからだ。

 彼は一人でピアノの前に座った。

 彼のピアノはとても素晴らしかった。

 そして彼のピアノは私を緊張から解き放ってくれた。

 おかげで私は失敗することなくヴァイオリンを弾くことが出来た。


 私はまだ幼くて、演奏に呼ばれるのでなければパーティーには行けなかったから、彼と会える機会はなかったけれど、何度か彼のピアノをパーティーで聞く機会はあって、それはいつも私を幸せにしてくれた。


 彼はしかし、素晴らしいピアニストであるだけではなく頭脳も素晴らしかった。

 王立学院在学中に発表した論文が我が国と隣国で高く評価された。

 

 そんな彼は入学した当初はそれほど目立った成績ではなかったそうなのだが、一度首位に立つとそれを卒業まで守り切った。

 当然、学院中の女性たちが彼に注目した。


 国王からお言葉を頂ける学生など前代未聞だ。モテないはずがない。


 更には彼には騎士でもないのに近衛騎士からスカウトがあったという噂まであるのだ。

 

 ハーディング侯爵家の令息というご身分。整ったお顔立ち。素晴らしいピアノの腕前。学者よりも優れた頭脳。そして近衛騎士にも認められる強さ。


 存在していることが信じられないような素晴らしい男性だ。


 その彼が、私に婚約を申し込んだのだ。

 私に否やがあろうはずがない。


 夢ではないかと確かめること三度。

 どうやら現実だと理解してから噛み締めた幸福。


 初めてのデートは夢心地で、何度も思い返しては心をときめかせた。

 二人で参加した初めての夜会では、彼のリードでダンスを踊り、こんなにもダンスは楽しいものなのだと初めて知った。

 正装したルーシャス様はとても凛々しく、ルーシャス様から贈って頂いたドレスで隣に立てたことは私にとって生涯の思い出になると思った。


 そう、私はこの思い出を生涯の思い出として身を引こう。


 夜会で私とルーシャス様が連れ立つところを見た彼女たちは、私に言った。

 「あなたなんかハーディング様とは釣り合わない」と。



 その通りだと思った。

 絶世の美女というわけでもなく、ヴァイオリンの腕など平凡なものだ。兄は褒めてくれるけれど、兄の演奏を聞けば自分の腕が大したことなどないことは分かる。学院の成績も悪くはないが良くもなく、もしも戦うことがあったらきっとルーシャス様の足手纏いになるだろう。

 他に優れたものなどないし、家だって伯爵家だ。

 侯爵家のルーシャス様と釣り合わないと言われたら、その通りだ。



 私は彼女たちの言葉を聞いて納得した。


 私の大切なルーシャス様を私のような平凡な女と婚約させているわけにはいかない。


 私はルーシャス様に素敵な思い出を頂いた。

 それだけで十分だし、身に余る幸運だ。


 だから私は身を引くことにした。

 「ルーシャス様、私との婚約を解消してください」

 


 私は大好きなルーシャス様に自由を差し上げます。

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