13.まさに自業自得 Side:パトリシア
ルーシャス様と一緒に演奏会に呼ばれるようになった私は、まさに幸福の絶頂だった。
ルーシャス様と音を合わせることは、心までルーシャス様と溶け合うようだった。
私の演奏ではルーシャス様の力量に見合わないのではないかという気持ちがなくなったわけではない。けれどあまりに甘美な体験に私は溺れてしまった。
だから私がこう言われてしまったのは、まさに自業自得なのだ。
「あなたと演奏ばかりしているから、ルーシャス様は新しい論文を発表できないのではないかしら。ルーシャス様の足を引っ張るあなたなんて、ルーシャス様の婚約者として失格だわ」
本当にその通りだ。
ルーシャス様はその気になれば国王から直接お言葉を頂いた論文を更に深く掘り下げるような研究だって可能なはずだ。
私は実際のところルーシャス様の論文の素晴らしさすら十分には理解できていないではないか。
そんな私がルーシャス様の婚約者だなんて、あっていいはずがない。
私はルーシャス様に婚約の解消を申し入れた。
私はその日から毎日ルーシャス様の論文を読んだ。
何度も読むうちに、今までは凄いなと感嘆するばかりだった箇所についても、どうしてルーシャス様はそう考えるに至ったのか、何がきっかけでこの論文に着手することになったのか。
色々なことが気になり出した。
とはいえルーシャス様に聞くわけにもいかない。
私はルーシャス様に婚約の解消を申し入れているのだから。
私は関連のある分野の本を次々と読んだ。読んでいるうちに学院で学んでいる講義内容についても理解が深まった。今まで講義で分からなかったところは、理解するための情報が欠けていたのだ。興味を持って情報を集めれば、分からなかったところを数珠繋ぎのように、次々と理解できるようになった。
私は講義が楽しくなって、講師に質問するようになった。
講師たちは私に言った。
「さすがルーシャス様の婚約者だ。ルーシャス様にそっくりですね」と。
聞けば、ルーシャス様も在学中に講師たちに質問を繰り返したのだとか、その行動が巡り巡って論文に繋がっていった。
なぜ、そこからあの論文に繋がるのかまでは私には理解できなかったけれど、ルーシャス様にそっくりだと言われたことは嬉しかった。
そして私は首位の成績で王立学院を卒業した。