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1人

 レイが入店してから一年が経った。

 すっかり仕事にも慣れ、順調に売上を伸ばしていたが、母の病態は、一向によくならない。

「レイさん。お母さんのことですが、もう長くは持たないでしょう。最期にやりたいことをやらせてあげてください」

 無慈悲にも医者はそう告げる。

「……分かりました」

 どうにもならないことなど、沢山あった。これもそのうちの一つだと、彼女は自分が思うよりもあっさりと、その事実を受け入れてしまった。


「ねえ母さん。何かやりたいことはない? 」

 料理を作りながら質問する。

「レイ」

 彼女の母はか細い声で名前をよんだ。

「もう私のことはいいから、自分のために生きなさい」

「母さんを放っておくなんて、出来ないよ」

 レイは背を向けたままそう言う。

「お金のこともそうだけど、レイには子どもらしいことをさせてやれなかったから、これからはもう少し子どもっぽいことをして欲しいんだよ」

 それはきっと間が悪かったのだろう。

「子供っぽくって何? 私は自分で考えてこうしてるの。それを今更、変えられるわけないでしょ」

 彼女は静かに怒った。

「ごめんね」

「……謝らないでよ」


 次の日。その時は来た。

「レイ。昨日はごめんね」

「もういいよ。私もちょっとキツい言い方しちゃったし」

「多分これが最期だから、ちゃんと聞いておくれ」

「最期なんて言わないでよ」

 震える声で願った。

「私がいなくなってもレイは一人じゃない。貴女は優しい子だから、味方になってくれる人はきっと現れる。一人じゃ無理なことも、支えてくれる人がいれば何とかなる。だから、背負い過ぎないでね」

 言い終わると彼女は目を閉じた。

「母さん……。お母さーん!」

 彼女はわんわん泣いた。その日は午後から仕事だったが、無断欠勤した。


 泣き疲れ、眠っていた。朝日はウザいくらい眩しかった。

 彼女は店に行き、昨日休んだことを謝り、数日休みを貰うことを伝えた。理由は聞かれたが、答えなかった。

 役所に届け出を出し、母親の遺体を指定の場所に運んで貰った。

 翌日には葬式と埋葬が終った。


 葬儀を終え、帰宅した。

 ほんの少し前まで、母が横たわっていた布団が目にはいる。しかしそこに母はいない。

「ごめんね。迷惑ばかりかけて」

 母はよくそんなことを言っていた。

 母の面影を思い浮かべ、彼女は泣いた。

「私は、一人だ」

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