レイ
「なんも無いけど、あがってよ」
リコの家はバラックのような平屋だった。
「「お邪魔します」」
二人が家に入ると、そこには廃墟のようにボロボロの景色が広がっていた。
「ねえリコちゃん。私たちは、魔力分配器を使うための裁判をするじゃない?」
リコはコクりと頷く。
「味方になるわけだから、貴女が抱える前提について、私達は知らないといけないの」
「分かった。私のこと、ちゃんと話すよ」
「ありがとう」
彼女は少し考えをまとめてから、ゆっくりと口を開いた。
十二年前。
「ごめんね。レイ。私が病気になんてかからなければ、こんな迷惑はかけなかったのに」
「迷惑だなんて思ってないよ。それより、元気になったら、また村の外に連れていってよ」
「ああ。きっと連れていくよ」
リコの母レイは13歳にして、父が他界し、母は病に伏せていた。
「お金、無くなってきちゃったな」
レイは母に聞こえないよう、小さく呟いた。
父の遺産と、母の僅かながらの収入で何とかやりくりしてきたが、今回ばかりは懐に響いた。
以前からレイの母はよく床に伏せていたが、今回はいつになく症状が重く、期間も長い。薬代もかかる。
「働ける場所、探さないと」
郵便局、八百屋、花屋、病院。色々な店を回った。しかし、まだ小さい彼女を雇ってくれる場所など、どこにもなかった。ある一つを除けば。
エンジェル。それが彼女が働ける、唯一の風俗店だった。
「本日より、ここで働かせていただくことになりました、レイです。よろしくお願いします」
さすがに嬢たちも、驚きを隠せない。
「店長、ちょっと。」
最年長の琴が店長と店端でヒソヒソ話す。
「まだ子どもじゃないですか」
「そういう需要は確かにあるし、彼女も覚悟のうえだ」
「それでも違法じゃないですか」
「ここに来る客も脛に傷のある人ばかりだ。告発の心配はいらないよ」
はぁと溜め息をついて
「どうなっても知りませんよ」
「ご忠告感謝するよ」
そして彼女はレイを見てこう言った。
「お嬢ちゃん。一人になろうとしないでね」
「? はい」
その日の最後の客が帰った。
「お疲れさま。よく頑張ったね。水どうぞ」
琴はレイに労いの言葉をかける。
「ありがとうございます」
水を一口飲む。沈黙が流れる。
「……もう遅いかもしれないけど、やっぱり、もう一回店長と話してこようか?」
「いえ、大丈夫です。私はもう泣きませんから」
レイは涙の跡がついた顔を引き締め、はっきりとした声でそう言った。
「そう……。じゃあこれで最後にするから、ちゃんと聞いてね」
琴はレイと目を合わせた。
「一人になろうとしないでね」
「はい。私は一人じゃありません」