証村
「ところでアマナス君。体の方はもう大丈夫なの? 応急手当はしたけど……」
「実はまだ違和感があるんですよね」
アマナスは剣を掴んだ方の手を擦りながら答える。
「そうか。じゃあ次の村で、お医者さんに診ておらわないとね」
町を出発した彼らは、そんな会話をしながら歩いていた。
「それにしてもあの剣、何だったんでしょうね?」
「どんな魔物も倒せるって話だし、きっと強力な魔道具なんだろうね」
「すみません。せっかく見つけたのに、俺のせいで回収出来なくしちゃって」
アマナスは眉を八の字にし、口をへの字にして謝る。
「いいんだよ。君が無事ならそれで」
嗚呼、やっぱりこの人の為に頑張りたいと、彼は思うのだった。
日常会話をしていた二人の前に魔物が飛び出して来た。
「!」
アマナスは驚きながらも魔法を放った。すると今までとは違い、一撃で魔物を仕留めることに成功した。
「「これは……」」
二人は唖然とした。今までの魔法とは威力も範囲も桁違いに増えていたからだ。
「アマナス君。今のは?」
「分かりません。ただ、体の内から力が沸いてくるのを感じます」
「それ以外に何か変わったところは?」
「いえ、特には」
それから十分ほど歩いたところで村が見えた。
「見えてきたね。宿より先にお医者さんかな?」
「宿が先で大丈夫ですよ」
症状の軽さから、彼はそう提案した。
「駄目だよ。些細なことから、思わぬ大病に繋がることだってあるんだから」
オーメンは優しいトーンで、それでも真剣な眼差しでそう返す。
「分かりました。じゃあそうします」
そして二人は村の病院へと向かった。
「これは……。よくここまで歩いて来れましたね」
医者は驚きと呆れた表情でそう言った。
「そんなにマズイんですか?」
アマナスは恐る恐る聞いた。
「黒い魔力が混じっています」
「俺、元から黒い魔力持ってるんですけど」
アマナスは気まずそうに答えた。
「不吉の象徴ですか。どうりで……」
「黒い魔力って、悪いものなんですか?」
怒りを押さえつつに聞く。
「魔物と同じ魔力ですからね」
「~~」
彼の顔は、恥と怒りで赤く染まる。
「まぁ元から黒いなら特に問題ありません。強い魔力が流れ込んで、それをモノにするまで、違和感があるくらいでしょう」
それを聞いてアマナスは納得した。だから魔物を倒せたのかと。
「一応、魔力操作が出来る者を紹介しますので、不安ならそっちに診てもらってください」
「ありがとうございます」
「お大事に」
彼は診察室から、オーメンが待つ待合室へ退室した。
「どうだった?」
彼は医者から言われたことを伝えた。
「そうか。ならこのあと魔力操作の治療を受けようか」
断ろうとしたが、彼女の言葉を思い出し、承諾した。
受付に呼ばれ、会計へ。
「納税証明書はお持ちでしょうか?」
「何ですか、納税証明書って?」
「この村独自の制度です」
「それを持ってると、どうなるんですか?」
「医療費が三割負担になったり、学校に行けたり、選挙に参加できたり、色々出来るようになります」
「へぇ。」
スタンプ制度みたいなものか、と彼は思った。
「持ってないので、スタンプでもいいですか?」
「大丈夫ですよ」
「じゃあスタンプで」
「では、三割負担になりまして、お会計三千ゼニーになります」
そう言って、受付のスタッフは、胸に紫の光を当てる。すると紋章が浮き出る。
この紋章…。やっぱりそうだ。出会えて良かった。と、紋章を見たオーメンは思った。
アマナスが会計を済ませて病院を出ようとしたとき、隣で会計をしようとしている少女と、受付の会話が聞こえてきた。
「ツケでお願い!」
驚いたアマナスはそっちを向いた。
「申し訳ございませんが、当院ではツケや掛けは受け付けておりません」
どうやら少女は医療費を払えず、困っているようだ。
こんなとき、オーメンさんならきっと迷わず助けるだろう。そう考えたアマナスは彼女のほうをチラっと見る。
「君、どうかしたの?」
少女は一瞬びっくりしたようだが、藁にも縋る気持ちで、オーメンの問いに答えた。
「実は私、納税証明書を持ってなくて、しかもお金が足りないの」
「そうかい。じゃあお姉さんが代わりに払ってあげよう」
「お姉ちゃんありがとう。」
「気にしないで、私がやりたくてやってるだけだから」
そう言って少女を諭す。
「それで、おいくらですか?」
「三万ゼニーになります」
アマナスの診察料の十倍だが、彼女は嫌な顔一つせず、金を払った。
そして少女と別れ、二人は魔力操作の治療へ向かった。