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第一級称号《従魔帝》を与えられし最強賢者  作者: 結城辰也
第一章 従魔帝の承継者編
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第八話 従魔帝の力

 ヌシの雄叫びが終わった頃にはすでに目線が合うところで立ち止まっていた。


 三番手にいる僕はせめてジークのいる二番手に入りたいと無理な入り込みをする。一番手は案内役のキコルさんだ。本当は一番手にまで行きたかったけどさすがに出しゃばるのも良くないと感じ取り控え目に行動した。それに二番手でも二番手なりにヌシが見れていた。ヌシの正体。それは――。


「ふぅ。あれは確かトリケラタウロスと呼ばれる魔獣。草食ですが縄張り意識が強く怒らせると突進してきます」


 すでにトリケラタウロスは怒っており今にも突進しそうだ。鼻息も荒く足裏の(ひづめ)で地面を引っ掻いていた。僕とジークの身長を足しても届かないくらいに高かった。


「どうやらあの二名の兵士が怒らせたようですね」


 二名の兵士もいるんだ。ここからだとキコルさんと被って見れない。ただ言えることは――。


「おや? 恐怖の余りに声も出さないで逃げてしまいましたね」


 嘘でしょ。なんて無責任なんだ。と言うことはその怒りを僕達だけで静めないといけないのか。どうしたらそんなことが出来るようになるのだろう。分からない。


「む。どうやら怒りの矛先はこちらに変わったようですね」


 気付かれたのか。だとしたら短剣を引き抜かないと。


「皆。準備は出来ましたか。……では始めるとしましょう。戦いの時です」


 返事をすることなく無言のまま戦闘が始まった。多分だけど一人も武器の取り出しを忘れてないよね。


「きます!」


 僕でも分かる、トリケラタウロスが突っ込んできているのを。突進の後に走り出したのは僕とジークだった。一緒に行動はせずに離れ離れとなった。三番手にいるノエルが急に気になった僕は立ち止まり振り返った。するとノエルはどちらにも行かずに立ち往生していた。


「ノエル!」


 頭が真っ白になった。先頭にいるキコルさんですらジークの方へと避けているのに。


「あ、足が」


 よくよく見るとノエルの両足が小刻みに震えていた。気付かなかった。最後尾のまま放っておくなんて僕はなんて最低なんだ。短杖も出さずにノエルは突っ立っている。ここは僕が――。


 なんとしてでも護りたいとノエルの前に急いだ。く。一緒に避けるには間に合いそうにない。こんなことになるなら振り向いて確認しておけば良かった。なのに僕はなんで無視なんかを――。


 駄目だ。前に立ち塞がるよりも突き飛ばした方が早い。だからここは――。


「ごめん! ノエル!」


 僕は全力でノエルの元へ向かい勢いのままに横から突き飛ばした。あ。終わった。僕の人生はここで終わるんだ。もう止められないんだ。嫌だ。そんなのは。頼むよ。起きてくれ。奇跡よ。起きてくれ。起きてくれぇっ。


「我の力を使え。主よ」


 閉じた両瞼の僅かな隙間から紫の光が入り込んできた。この時の僕は両手を前に突き出していた。


「……あれ?」


 いつまで経っても体当たりをしてこない。恐る恐る両瞼を開けるとトリケラタウロスの動きが止まっていた。なにが起きたのかなんて分からないけど助かったように感じた。


「なにが起きたんだ?」


 ジークも僕と同じだった。ただ言えることは未だに手が紫に光っていることだ。まさかこれは――。


「紫炎の魔紋?」


 ノエルの言い方を変えれば従魔帝の力になる。まさかそんな力が。ここは確かめてみよう。


「トリケラタウロスに告ぐ! 大人しくどこかに行け! 今すぐに!」


 どうなんだ?


「う、嘘だろ? 言うことを聞くのか?」


 ジークの驚きは僕にも分かる、張本人ですら衝撃の事実だから。


「去っていった。おお。おおっ! おおおおおっ!?」


 そう言うとジークは驚きを越えてさらに言い放っていた。良かった。トリケラタウロスを見失うと異様な歓喜がやってきた。最高とまで喜んでいたのはやはりジークだった。意外な一面はさておいといて手の光は納まった。これを奇跡の言葉で言い表すにはなにかが違うような気がした。だからここは――。


「これが……従魔帝の力?」


 手の平を見る。紫炎の魔紋は手の甲にあるのにどうしてか違うところを見続けていた。


「ふぅ。なにはともあれ助かりましたね。一時はどうなるかと」


 キコルさんの言葉よりも先に手の平を見ることを止めた。確かに――。


「ってノエル!?」


 倒れ込むくらいに突き飛ばしたから大事になってなければいいけど。どうなんだろう。ノエルの方を向き目線を送るとすでに立ち上がり近付いてきては足を止めた。


「セイン。私は無事よ。その……有難う」


 ノエルは助かったけどなんだか複雑な心境のようだった。目線を合わせてくれない。確かに見過ごすことが出来ないような事案だと言える。でもそれでも僕とノエルは外に出たことがないんだ。だから――。だから――。


「僕こそ有難う! ノエルのお陰で今の僕があるから! だから一緒に夢を叶えよう! ね? ノエル」


 決死の言葉にどれだけの効果があるかだなんて分からない。でもそれでも一緒に夢を叶えることを諦めない。踏ん張ってほしい、かつての僕のように。


「セイン」


 気を取り戻してほしい。あの頃のノエルに戻ってほしい。こんな頼りない僕でも助けたい願望はある。だからここは耐え凌ぐべき場面だ。ノエルの心が整理されるまで待ち続けるんだ。


「うん! セイン? 一緒に夢……叶えようね?」


 僕の夢は変わった。昔は村の皆と平穏に暮らしたいだったけど今は仲間と一緒に平穏になる暮らしを叶えたいになった。まだ旅は始まったばかりだけど外に出ると夢が変わるだなんて考えもしなかった。良くも悪くも僕達なら早計かもしれないけど叶えられそうな気がした。


「そろそろいいですか? 余りに時間が押すと夕方になりますよ? ここは急ぎましょう!」


 キコルさんの言うとおりだ。僕達は三人ともキコルさんに対して頷き無言の賛同に至った。これから向かう場所はキコルさんの知る二番目の村だ。果たして僕達は無事に山を越えることが出来るのだろうか。

2,024/3/21 15:37に間違いを正しました。ぐは。恥ずかしいな、これは。

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