表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一級称号《従魔帝》を与えられし最強賢者  作者: 結城辰也
第一章 従魔帝の承継者編
6/11

第六話 フーゲンの独断

 凄まじい迫力と共に敵の副隊長が突っ込んできた。


 ここから見ても図体がでかく腕力もありそうだった。残り二名の敵兵は副隊長を信頼しているのか見ているだけだ。


 二番目に動いたのは真ん中にいたジークだった。僕が砕いてしまった両刃直剣の柄を両手で持ち身構えながら走り続けていた。敵の副隊長はジークに任せて僕は右の敵兵を倒しに行こうと後れて走り出した。このまま一直線に行けばいいだけの話だ。


 右の敵兵は僕に狙われていると思ってはいなかった。これは多分だけど僕もジークと同じで敵側の副隊長目当てだと思われていそうだった。敵の副隊長がどれだけの実力かは分からない。でもそれでも僕はジークを信じたかった。三対三ではなく一対三の構図だとなんだか気分が乗らないのは仕方がないことのはずだ。


 敵の副隊長が両腕を重ねて防御態勢に入った。どうやら手腕使いのようだ。小手先に惑わされずに真っ直ぐな攻撃や防御をしてきそうだった。防御すらも突進攻撃に変える凄まじい走りだ。ここからでも分かるんだ。両手腕に鉄か鋼の攻防一体型武器をつけていることが。


 このままだと突進に巻き込まれると思ったのか。ジークは急に立ち止まっていた。その後にどうするかだなんて僕には分からない。だけどここで負けるなんて考えたくもない。


「う!? これは氷か。足が凍り始めている」


 ノエルの氷魔法が敵の副隊長に効いている。だけど止まるほどに凍らせられなかった。凍り付く前に力強く両足が動くので間に合わなかったみたいだ。徐々に詰め寄ってきては敵の副隊長は防御の姿勢のままジークに対し体当たりを仕出かした。


「ぐっ!?」


 防ぎ切れないほどの衝撃がジークを襲い踏ん張っても踏ん張ってもどんどん後ろに下がっていった。思わず僕は角を曲がるように方向転換し応戦しようとした。いくら頑丈でも後方からは防ぎ切れないはずだと無意識に感じ取り走り続けた。


「卑怯なハエめ。気付いてないとでも思ったか」


 気付かれていてもいなくてもジークを見捨てる僕じゃない。とにかくここは――。よし。なんとか背中を捉えることが出来た。後は斬りつけるだけだ。好機なことに敵の副隊長はジークに取りつくだけで精一杯のようだった。だからここは――。


「っ!? 気をつけて! 二人とも!」


 馬鹿だった。馬鹿な僕だ。精一杯なのはジークと僕だけだったみたいだ。無我夢中な短剣の一振りを堅い守りに防がれた。気付いた時には吸い込まれるように片腕で防御されていた。


「う、嘘でしょ?」


 非力過ぎた。それもそうだと気付かされた時にはもうすでに遅すぎた。


「フハハ! 甘い! 甘いぞ! その甘さを呪うがいい!」


 この状態では逆転は難しいとしか言いようがなかった。本当に僕達は甘すぎたようだ。


「甘いのはあんたも一緒なんだから」


 この声は――。ノエル。顔を向けさせる余裕はないけど期待が持てる言い草だ。ノエルの発言から推測すると背後を取ったのかも知れなかった。


「なに!?」


 実に驚いたような声だ。動揺が広がったのか急に走り出す音が聞こえ始めてきた。後ろから聞こえてくる足音は多分だけど残りの敵兵に違いない。ここで討ち取らねば尾を引く。頼む。止めを刺してくれ。


「私に背中を見せたが最後の時。二人とも離れて」


 なにを仕出かすかは僕でも分からないけど言われたとおりに後ろ跳びで離れた。風切り音が聞こえた後に敵の副隊長が感電していた。どうやらノエルが尖った先の短杖から感電させる鞭を出現させ打ち込み痺れさせたようだ。


「ぐ」


 さすがの図体でも感電に弱いのか敵の副隊長は気を失ったように地面に倒れ込んだ。それを見てしまったのか残りの敵兵は進むのを止めた。代わりに悲鳴が聞こえその後にまた足音が聞こえ遠ざかっていく感じがした。僕が振り返ると視線の先にはゲルス隊長のみだった。


「フーゲン。お前は嫌いじゃなかったよ。……さてと」

「ひぃっ!?」

「残りはあいつだけね」

「ああ。いいか。これで最後だ。心して掛かれ。二人とも」

「ば、馬鹿な!? あのフーゲンがやられたのですか!?」

「散々な目に遭うのは僕達じゃない! お前だ! ゲルス!」

「ひぃいいっ!? ……なんてね。出てきなさい。坊や」

「呼んだ? ゲルス小父さん?」

「くっ!? その姿は!? 執行隊か!? これはまずい!? 実にまずいぞ!」

「え。私達のなにがまずいの? ジーク!」

「まずジーク兄さんの裏切りを確認。これより暗殺します。以上」

「やはりくるか! 二人とも素早い攻撃と回避に気をつけろ!」

「駄目!? 私の目では追えない!?」

「狙いは俺か。く。倒せるのか、こんな編成で」


 凄まじい速さで迫り消えたり現れたりしている。落雷のような走り方だった。どんどん近付いてくるそれはついにジークの顔面目掛けて一突きの振り下ろし攻撃を繰り出した。避け切れないと感じたのかジークは微動だにしなかった。


「ぐ」


 このままでは突き刺さると思われたけどだれかがジークを後ろにやり前に立った。その仁王立ちをしながら防御していたのはなんと気を失っていたはずのフーゲンだった。


「な!? 防がれた!? それもフーゲンに!?」

「なにをしているのですか!? フーゲン!?」

「これは俺の独断だ。ここは俺様に任せてお前達は逃げろ! いいか。ジーク! 俺様のことを忘れるなよ?」

「フーゲン。ああ! ……今のうちだ! 逃げるぞ! 二人とも! こっちだ!」

「なにを血迷ったのですか!? フーゲンよ? わたくしを殺すつもりですか!?」

「ゲルス隊長。俺は今のあんたが大嫌いだ。俺は昔の三人に戻りたいだけだ。一度交えた拳は漢の絆だ。だがあんたは人遣いが荒いだけの無能になり下がった」

「な、なにを? わたくしに楯突くとは! 坊や! こいつもやってしまいなさい!」

「分かった。あのさ。フーゲン。一人で挑むの? 可愛そうに」

「坊や。お前の耳は節穴か。俺様には聞こえるぜ。大勢の足音がな」

「まさかこの足音は――」

「村の連中だろうよ。さしずめ自警団と言ったところだろうな。俺様は一人じゃねぇ」

「お前達! ここはフーゲンに任せるんだ! いいな? 行くぞ!」


 こうしてフーゲンのお陰もあり僕達は魔の手から逃げ出すことに成功した。ほんの短い時間だったけど僕はジークの言ったフーゲンへの言葉の意味を知った。この恩は一生忘れてはいけないと僕も含めきっと二人は感謝しているはずだ。そんな僕達は辛くも山に入り込んでいくのだった。

2024/3/21 15:47に間違いを正しました。うーん。手が滑り過ぎたな。

ノエルってサブタイトルに書いてあるのに。はは。あはははは。ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ