第五話 宴のとき
僕達が宿に辿り着いた頃にはすでに敵兵に占領されていた。
どうやらジークの言うとおり僕を狙っているのかも知れなかった。話して見なければ分からないけどジークが言うに団体で動いている敵は引き抜くのが難しいらしかった。それにノエルでさえ首を左右に振り僕の考えを否定していた。僕としては一人も殺したくはないし逃げれるのなら絶対に逃げたい。甘い。甘すぎる考えなのだろうか。
まだまだ明るいから木の影や茂みの後ろに隠れて様子を見ているけどいずれあっちが行動に移しもし気付かれずに通り過ぎられたら村はどうなるんだ。そう。嫌な予感に苛まれながら僕はひたすらに見ていた。本当は見ているだけじゃなくて今すぐにでも出たかった。だけど――。
「セイン! ……行くわよ」
小声ながらしっかりとした声音で言われた。行くのか。戦いを回避出来ないのか。
僕を措いてジークが先頭をノエルが後方につき隠れるのを止めて出ていった。砕かれ折れて使えない両刃直剣を取り出し応戦するつもりのようだった。ノエルの方は短杖を取り出し隠れるのを止めて出ては立ち止まった。短状の尖った先に魔力を集中させ流入しジークに対して身体強化魔法を付与させる為だろう。
何歩も遅れて出た僕は意志の弱さからか従魔帝の力が発揮出来ないでいた。守りたいと言う強い意志がなければ顕現しないなんてどうしてなんだ。哀しいけどこのまま走り続けて短剣で挑むしかない。すかさず短剣を腰から取り出し身構えたままノエルの横を通り過ぎた。今は逃げる訳には行かないから僕が二人を護らなくっちゃ。
「うん!? なんだ!? こいつらは――。ぐ」
ジークは気付かれても怖気ることなく敵を叩き切った。先頭にいるだけあって気付かれるのも早い。本当なら僕が先頭にいなければいけないのにジークに頼り切りなのは自分が許せない。いくら最年長であっても武器があんな状態だとまともに戦えないだろうから僕とノエルが助けないといけない。幸いなことに単独兵が外に四人いるだけだった。残りの敵は宿の中にいそうだ。
「止めは任せた! セイン!」
ジークはそう言うとまた走り出し次の敵兵に向かっていった。ここで止めを刺せることが出来れば残りの敵は三人だ。けど――。急に気分が憂鬱になった僕は止めを刺さずに立ち止まってしまった。こんなことをしたくて旅をしたんじゃない。どうすれば。どうすればいいんだ。
「セイン!?」
後ろからノエルの声が――。ふと顔を上げると目の前に殺されるはずだった最初の敵兵がいた。盾を持たずに振り上げられた両刃直剣は両手でしっかりと柄が握られていた。駄目だ。間に合わない。く――。
「ぐは」
え――。敵兵が力なく倒れ込んでいく。恐る恐る原因を探ろうとしたらジークが眼の先にいた。斬ったんだ、二度も。死んだんだ。殺されたんだ。殺したんだ、ジークが。僕の仲間が。
「ふざけるな! 貴様の夢はなんだ!? ここで諦めるようなら村と共に滅んだらいい!」
「ジーク」
「セイン! 私は知ってるよ。セインの夢。それは――」
皆と平穏に暮らすこと。
「敵だ! 敵襲だぁっ!」
ここで諦めたら逃げる場所なんてない。村の皆に合わせる顔がない。殺すしかない。殺さないと僕の夢が――。
「なくなる」
叶えたい夢がある。諦めたくない夢がある。僕はそれをみすみす見逃すのか。そんなの嫌だ。
「ぐっ!? そうだろう? 進まない奴に明日はない!」
ジークがあんな状態の両刃直剣で二人目の敵兵の斬撃から僕達を護ってくれている? なのに僕は――。
「その夢! 私達と共有しちゃ駄目かな? そんなに一人で叶えないといけないのかな?」
ノエル。
「く!? ……うおおおおっ!?」
やるんだ! やるしかない! ここで進まないは逃げたも同然だから! こんなにも夢の為に頑張ってくれる仲間がいる! 僕の夢はそんなことで崩れ去りはしない! やれ! やるんだ! 全ては皆が平穏に暮らしていける未来の為に! 負けられない! こんなところで負けられないんだ!
「おおおおおっ!?」
二度目の雄叫びで士気を取り戻した僕はまるで天に向かって吠えるような感じだった。足を踏み出した頃には宿から複数の人が出てきていた。怖気付くことはなく走り続けなんとか敵兵の斬りつけを防いでいるジークと重なった。横を通り過ぎてすぐに敵兵の後ろに回り込みつつ最後には短剣で斬りつけた。
「ぐっはっ!?」
二人目の敵兵はその場で沈み込み微動だにしなかった。忘れない、僕の夢は命の上で成り立っていることを。
「おやま。山賊ですか。……いや。その顔は確か――」
新手はいないけど宿から出てきたのはいかにも偉そうな敵だった。一番手的な敵がジークを見つめていた。どうやら見覚えがあるらしかった。
「よう。久しぶりだな。ゲルス隊長」
「ああん? そのため口。……おやま。ジーク殿ではありませんか」
知り合いのようだ。なんか不仲そのもののようだ。
「相も変わらずまだ根に持っているのか、あのことを」
「失礼な! わたくしはけっして根に持つような人ではありませんよ? ジーク殿」
「ならいいんだけどな。それよりもあんたが望むようなところではなかったさ、この先の村は」
「大丈夫ですか? 嘘が顔に出ていますよ? それにわたくし達はこの先に村があるだなんて知りませんよ?」
まずい。このままだと戦うことになりそう。この先に村があることが知られた以上は敵の隊長が逃げるまで戦わないといけない。
「ぐぅっ!?」
「とにかくこれ以上の邪魔立てはおやめなさい。さもなくば――」
ジークが後悔している声を上げた後にゲルス隊長がそう言い残し指を擦り合わせ鳴らした。すると――。
「お呼びですかい? ゲルス隊長」
一際に図体の大きい敵が現れた。見た限りだと凄まじい力技を繰り出しそうだった。
「うむ。さっさとやっつけてしまいなさい、こいつらをハエの如く」
人をハエ呼ばわり。なんかジークが仲良くしたがないのが分かるような気がしてきた。
「分かりました。この副隊長。任命されたからには死力を尽くします」
「では……頼みましたよ?」
「御意」
待てよ。人に任せて自分は高みの見物。なんて最低な隊長なんだ。信じられない。
「相手はあの副隊長か。これは骨が折れるな。二人とも覚悟は決めたか?」
ジークが真ん中に左右に僕とノエルが陣取った。そして僕とノエルは頷き合い覚悟をジークに示した。
「んじゃ始めるぞ。二人とも。ここから叛逆の始まりだ」
「面白い。くるがいい。お前達の夢も希望も全て奪い去ってやろう。さぁ! お前ら! 宴の始まりだぁっ!」
こうして僕、ノエル、ジークは敵の副隊長と戦うことになった。もう大丈夫。弱いところはもう見せない。だって夢は一人で追う物じゃないから。ここにいる仲間と共有してこそに意味がある夢なんだ。だから僕達は負けない。たとえ孤独な道に出遭っても一人じゃないと思えるから戦えるんだ。進んだ先にある夢が実現するまで僕達はけっして諦めようとはしなかった。
2024/3/21 15:54に間違いを正しました。
うむむ。これはもしかしてな展開かも知れない。ぐは。




