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第一級称号《従魔帝》を与えられし最強賢者  作者: 結城辰也
第一章 従魔帝の承継者編
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第十一話 策士家の罠

 僕達はキコルさんに案内してもらいようやく次の村に辿り着いた。


 あれからシェイドは見掛けてないから今は安心出来ていた。なによりもキコルさんのお膳立てによって本当に宿屋が無料で泊まれた。顔が利くとはこう言うことをさしていたのかと感心したくらいだ。ちなみに女性を一人には出来ないと大部屋を用意してくれた。なんて太っ腹なんだと心の中が清らかになっていった。


「仕切りがあると気が楽だな」


 窓際の椅子に座っているジークの言うとおりだ。大部屋の真ん中に仕切りの壁があってノエルは反対側にいた。今頃はベッドの上で寝ていると思う。あれだけのことが起きたんだ。疲れ切っていてもなんら不思議じゃない。


「キコルには頭が上がらないな。この恩は忘れない」


 確かにそうだ。ジークと同じで僕もキコルさんに感謝していた。返事をしないのは僕がベッドに座るかなと思わせておきながら仰向けで寝ていたからだ。なんだか即効で眠りにつけそうだった。まずいな。このままだと深い睡眠になりそうだ。当分は起きないかも知れない。


「だがなにやら胸騒ぎがする。なにも起きなければいいが」


 本当に今の時間にこられたら暗殺されても可笑しくない。でもキコルさんはきっとそんな人じゃないと思う。そんなキコルさんは山小屋に帰っていったっぽかった。あそこは宿じゃなくてキコルさんの山小屋だから今後は間違えないようにしないといけない。


「二人とも……起きてる?」


 ノエルの声だ。ちょっと驚いた僕は眠りにつくのをやめて起き上がった。ベッドの上で座る形になったけどノエルを確認するだけなら十分だ。


「起きている。なんだ? 眠れなかったのか?」


 ジークは自分のことよりもノエルのことを気遣った。出会って間がないのにこんなにも頼りになるなんて今後も頼もしいな。


「うん。なんだか嫌な予感がして」


 嫌な予感か。ジークの予感と言い僕には理解出来そうにない。


「ノエルもか。俺もだがどうする? ここを離れるか?」


 離れたらキコルさんに失礼だけど僕よりも二人の勘の方が当てになる。だからここは――。


「そうだね。ここは一緒に外の様子でも見てこようよ」


 キコルさんには悪いけどもう決めたことだから。


「そうね。二人とも……有難う」


 こんなのお安いご用だしジークも無言のまま賛同しているっぽかった。


「それじゃ外に行こう! 二人とも!」


 風に当たると気持ちが良くなるとも感じ僕は率先していた。この出来事がなにを齎すかは分からないけど僕は二人を信じたい。なにも起きなければそれはそれでいいしなにか不都合なことが起きたとしても僕達なら乗り越えられそうだと感じた。二人の不吉な予感ははたして当たるのかなんて今の僕には分からないことだった。


ーーーーー


 宿屋から外に出てみた。なんだか様子が違っていた。初めて村にきた時はあんなに歓迎されていたのに今は村人達が宿屋を半分だけ囲むようにいた。


「なに? これ?」


 ノエルの言葉は的を得ていた。僕からしても困惑しかない。これはどう言うことなんだろうか。


「売られたんだ、キコルに」


 馬鹿な発言なら他でしてほしい。そんなはず――。


「人聞きの悪い、仲間になったとは言っていませんから」


 キコルさんの声だ。村人の中に紛れていた。しかも最前列の真ん中にいた。よくよく見るとキコルさん以外の村人達は農具を武器として持っていた。全員じゃないけど相手をするならこれはきつい。


「教えてくれ。何者なんだ? キコルは?」


 僕もジークと一緒で知りたい。何者なんだ? キコルさんは。


「ふぅ。やれやれ。いいでしょう。執行隊隊長トラヴィスと言えば分かるのではないかな?」


 驚いた、偽名な上に身分まで違っていたなんて。嘘だと言いたいけど本人が言っているなら信じちゃうかも知れない。


「トラヴィス。聴いたことがある、その実力は四賢帝を狙えるほどだと」


 分からない。四賢帝ってなに?


「そうだよ!」


 この声はシェイドか。姿が見えないけどどこにいるんだろう?


「さすがはトラヴィス隊長だよ。ここまで賢いなんて嫉妬の嵐だよ。悔しいな」


 左右に村人達が退いていた。道なりが出来上がりそこをシェイドが歩いていた。


「仕留め損ねたがやはり罠を張るに限るな。まんまと引っかかったのだから」


 キコルさん。どうして。


「どうして? どうして嘘を? 僕はキコルさんのことを信じていたのに!」


 そうだよ。あんなの信じたくない。だって――。


「うるさいぞ! トラヴィスだと言っている! おい! いくら犠牲を払ってもいい! こいつらを殺してしまえ! お前達!」


 なんで? どうして? こんなの酷いよ。村人達もどうしてなんだ? どうして。


「悪いな、三人とも。これも生き延びるためなんだ」


 自分達の保身のためって信じたくない。こんなにも切ない出来事があるだなんて。


「フハハ! いい気味だね! 散々手こずらせてくれたね! あの時は有難う! 倍返しだよ!」


 苦しいほどに追い詰められた僕達が逃げ込めるところなんてもう他になかった。どうすれば。


「おい! お前達! 入れ! 今すぐに入って裏にある勝手口から逃げるんだ!」


 宿屋の店主が扉を開けてくれた。これはなんて恩返しをすればいいんだ。


「行くぞ! 二人とも!」


 ジークの言葉に僕とノエルはうん! と頷きながら返した。即行動し宿屋に入り込んだ。


「ぐっ!? なにをしている!? 追え! 追えっ! 追えぇ!」


 扉が閉まったら外の音が聞こえなくなった。最後に聞こえたのはなんとも見苦しいトラヴィスの声だった。こんなにも人を疑わないといけないだなんてなんとも皮肉交じりだと感じた。


「勝手口はあの扉の先だ! いいか! ここは護ってやる! だからお前達はさっさと行け! 早く!」


 宿屋の店主が言うに勝手口は本当にあるようだ。良かった。このまま閉じこもることになんてなったらこっちが持たない。


「分かった! 行くぞ! 二人とも!」


 またジークの後にうん! と頷きながら言った。その後は無言になり勝手口を目指した。この感じからして裏に回り込むには間に合わないと感じていた。これなら逃げ切れると信じ僕達はひたすらに裏にある勝手口を目指したのだった。

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