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第一級称号《従魔帝》を与えられし最強賢者  作者: 結城辰也
第一章 従魔帝の承継者編
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第一話 呪われた少年の決意

 雲一つない晴れ渡った日常風景。ありきたりな毎日に飽き飽きする日々。


 なんとしてでも村人から魔獣使いなりたい僕は今日も森に行きスライムを手懐けようとしていた。


 何事も小さな一歩からだと自分に言い聞かし()()()に仲間にさせようとしていた。今は昼ご飯の為に村へ帰っている最中だ。


 魔紋。


 スライムを従魔にさせるために必要な紋様は僕にはなかった。生まれ付きのせいで周りからは期待されなかった。


 それでも僕は懸命に夢を抱き続けた。最弱な魔獣使いでもいい。馬鹿にされてもいい。僕は皆と平穏に暮らしたいだけなんだ。


 森の丘。


 帰る最中に立ち寄って眺める風景は日常を忘れさせてくれる。まるで絵画でも見ているようだった。なによりも僕が生まれ育った村がある。今日もまた和ませてくれるのかな。


 夢中で丘を登り絶景を楽しもうと目線をやった瞬間だった。


「え!?」


 村の上空に暗雲がありここまで凄まじい落雷音が鳴り響いていた。僕は慌てた。その時になぜか帰らないといけないような気がしていた。


ーーーーー


 近付けば近付くほどに落雷の音が激しくなり立ち昇る煙があった。あの煙はきっと落雷による火災が原因だろうと思い僕の心に不穏な影を落とし込んでいた。


 暗雲から落ちる雷に気をつけようと思いながら燃え盛る家屋らに臆することなく村に入り込んだ。暗い中で炎に照らされ村の中央にある円形状の公園に辿り着いた。


 立ち止まり辺りを見るも元凶の姿はなかった。それどころか。急に僕の右手が紫炎に包まれた。


「ようやくだ。ようやく見つけたぞ。少年よ。さぁ。受け取るが良い」


 思念の声が頭痛と共に襲い掛かってきた。紫炎に包まれた右手よりも頭痛が気になり両手で抱え込む僕は硬直したかのような衝動に駆られ眠るように気を失い倒れ込んだ。


ーーーーー


 ベッドの上で目を覚ますと焦点が合わずしばらく安静にしなければいけないと感じた。だけどどこからか村長の声が聞こえてきた。


「おほん! コレ! こっちを見んか!」


 村長と目線が合うと焦点が合い怪訝そうに僕を見ていた。まるで犯人はお前だと言われたかのような気分だった。


「災禍の王よ。悪いことは言わん。この村から出ていきなさい」


 突然の言葉に理解が追い付かなかった。


「なにを……言って――」

「良いか! 紫炎の魔紋はのう! 災禍の証なんじゃよ!」


 ますます分からなかった。災禍の王? 紫炎の魔紋? 災禍の――。


「無紋とはまさかと思っておったが本当とはのう。すでにお主の処遇は決まっておる」

「僕の……処遇?」

「死刑じゃよ。じゃが儂らにその権限はない。故にするべきことはお主を追放することじゃ」


 死刑? 追放? 本当なら過剰に言い返しそうな場面なのに僕は間抜けなままだった。


「これも世界の(ことわり)なんじゃよ。……良いか! 今日中に支度し出ていきなさい! これ以上に悪いことは言わせんといてくれ!」


 世界の理って――。あの紫炎がそこまでのことなの? ちょっとずつ冷静になってきたけどまだ分からない。自分の置かれた環境が――。


「ふぅ。やれやれじゃのう。評議会に報告せねばならんのじゃよ。そうなればお主の命は狙われ続けることになる。災禍の王が覚醒する前に刺客がお主の前に必ず現れるじゃろうて」


 評議会? 僕の命が狙われる? 刺客によって? 駄目だ。もう訳が分からない。ただ言えることは今の村長に悪意は感じない。むしろ僕を助けてくれているような気がした。


「じゃがのう。今のお主は本気を出せばじゃが間違いなく最強格の力を得ておる。一筋縄ではいかんだろう。故に儂はその力を恐れておるのじゃよ。どうか分かっておくれ。セインや」


 分からない、急に言われても。理解に苦しむ。だけど村長の必死な説得に僕は静かに頷いてしまっていた。自然に身を任せていたら追放を受け入れていたようだった。


「そうか。……セイン。なにも力尽くで追い出さんから安心しなさい。むしろ幼馴染のノエルに会いなさい。最後の別れとしてのう」


 ノエル……か。唯一の理解者だけど凄くお転婆で普段はなにを考えているのかが分からない。行動第一主義者かも知れない。僕は不器用で真っ直ぐなところに好感を持っていた。たまに見せる好き避けに惑わされることもあったけど今は大の親友だ。恋になるかなんて相手次第だし今の僕には早過ぎだ。それにしても――。


「最後の別れ」


 そう言うとなんだか切なくなっていく。まるでもう逢えないみたいじゃないか。僕の夢は皆と平穏に暮らすことなんだ。こんなことで諦めたくはない。だから――。


「良いかのう。それじゃあのう。セイン。達者で――」

「僕! 帰ってきますから! 今は無理でも! いつかは絶対に!」


 突然の声に村長は驚いていた。上半身を起こし訴えかけるように放った言葉は見事に突き刺さったようだ。反論されるは承知の上だ。でもそれでも僕は皆と平穏に暮らしたい。絶対に!


「うむ。儂も鬼ではない。良いじゃろう。セインや。必ず呪いを解いて帰って来なさい。凱旋(がいせん)を果たした暁には村総出で祝ってやろう」


 凱旋と言う聞き慣れない言葉でもなんとなく分かった僕は最大の夢を叶える為に紫炎の魔紋を打ち消す方法を探りに旅に出ることにした。


 果たしてこんな僕に旅路の神様は微笑んでくてるのだろうか。一人で行くは心細いけどもう決めたことだから仕方がなかった。最後の別れは切ないけどそれまでに支度をしないといけない。


 必ず最後の別れを守り村の皆と再会するんだ、絶対に。だから――。だから――。


「分かりました! 僕! 旅に出ます! そして必ず帰ってきますから! それまで村長こそお元気で!」


 僕の言葉に最後の最後に村長は頬を緩ませ笑顔になってくれた。初めてだ、こんなにも感情が揺さぶられたのは。これが人から託されるということなのかな。えへへ。


「うむ。それじゃあ儂はそろそろ失礼する。これからお(いとま)とはいかんから大変じゃよ。ほほ」


 村長は笑い声を上げながらベッドから離れ部屋から出ていった。急に静かになったけど僕の心は激励の言葉で一杯だ。自ら鼓舞した部分もあるけどそれでも諦めたくはない。今の僕にできることは旅に出てこの呪いの解き方を探ることだ。その為にはまず情報収集が大事だ。素性を隠して行動するのは難しそうだけどやるしかない。


「よし! まずは図書館に向かおう! 人から訊くは苦手なので自分で調べよう!」


 この時代に生まれたことを僕はようやく良かったと理解し始めた。だって図書館の本は人が作った物だから。卑怯だと言われても今の僕に人に訊く力はない。それならさっさと図書館に向かった方が賢明だ。


 と言うことで()()な僕は外の状態も分からないままにベッドから出ては外に行くために部屋を飛び出した。旅支度をする前の情報収集は欠かせないと慌てるように外に向かった。無我夢中だったから外が悲惨な状況だとはこの時の僕はなにも思わなかった。呆然とした頃にはもう遅かったようだった。

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