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第1話 夢オチだったらどれだけ素晴らしいか

「おはよっ!」

「痛っ!!」

 後ろから声が聞こえたと同時にバシッとした衝撃に襲われる

 振り向くと背中を平手で叩いた犯人がいかにも楽しそうな笑みを浮かべるが立っていた。

 見た目は普通に美人。スタイルは良くてタイプ的には大和撫子ではなくボーイッシュな感じ。ただしそのビジュアル以上に目立つのが赤い髪、そして右目を覆う眼帯だ。

 大学入学直後から色んな意味で人目を惹く見た目から話題ではあったが、入学から1年たった今でも浮いた話はほとんど聞かない。 

 噂では雑誌モデルに選ばれた事もある学内1のイケメンに言い寄られたらしいが、その後についての話を聞かない&夜間は頻繁にゲームにログインしているのを見ると進展はなかったようだ

「あれ?返事がない、ただの屍のようだ」

 更にからかうような表情を見せる

「朝一発目から暴力かよ?」

 こちらがちょっと恨めしい目で見てやると

「ただのスキンシップじゃんw」

 軽く流される

 このやり取りを傍から見てどんな関係に見えるかは知ったことではないが、個人的には悪くないと思っている。少なくとも同じゲームが好きでゲーム内でもチームを組んでる人間が同級生であれば居心地がいいのは間違いないだろう。

 時間を確認するためにスマホを見るとまだ1限目が終わるまで15分ほどある。思ったよりも早く着いてしまったか、と思いながら立ちっぱなしは辛いのでひとまずは植え込みそばにあるベンチに腰掛けることにした。

「次のイベントっていつからだっけ?」

 ベンチに座ると同時にゲームの話が振られる

「たしか現地時間で来週の火曜日だったからこっちでは来週の水曜日の明け方に開始だと思うけど」

「なんだ来週か~」

 明らかにテンションが下がった反応が返ってくる

「その分、イベントに向けて準備できると思えばいいじゃん」

「それはそうなんだけど・・・」

 ポジティブな要素を提案したがまだちょっと不満気だ

「あー、次のイベントは何を狙うんだ?」

 とりあえず話を掘り進める

「ん~、今回のイベントカラーはあまり趣味じゃないから普段使い用のモンスターの育成と資源集めかな。そっちは?」

「俺はボス戦用のモンスターのステータス厳選の予定」

 イベント期間中はイベント期間限定のカラーを持ったモンスターが出るし、普段ならテイムに1時間かかったりするのが半分の時間で終わったり、1回で回収出来る資源の量が倍になったりと色んな倍率が掛かってゲームを有利に進める上で大切な期間だ。だからこそ目的をもって効率良く進めるのが大切だったりする。

「あ、終わったみたい」

 そんな声と共に講堂のドアが開き人がぞろぞろと出てくる。ゲーム談義をしてるだけで上手い具合に時間が潰れたようだ。

「じゃあ俺たちも行くか」

 そう言ってバッグを持ってベンチから立ち上がった瞬間、フラッとした。慌てて左足で踏ん張ろうとしても踏ん張りが効かない。これは膝が抜けたか?と思ったが違う。まるで地面の感触がない。

 そのまま地面に倒れるかと思ったらそれも違う。足元に先ほどまではなかったマンホールくらいの穴が開いてる。気がする。確認出来る状況じゃない。

 このままじゃ落ちると思い手を伸ばす。

 運良く左手の指先が淵に引っかかる

「あ・・・・・・・」

 だが所詮は一般人の指先で全体重を支える事は出来ない。一瞬だけ引っかかった指先がスルリと滑り落ちる。

 死ぬ、なんて考える余裕すらなかった。ただ、遠ざかる穴の淵から見えるアイツの驚いた顔だけはしっかりと目に焼き付いた。









 気づいた時にはうつ伏せに倒れていた。

 左頬には冷たく固い感触があり、うっすら目を開けると土の地面が見える。そして何故か少し明るい。

 次に怪我をしてないか右腕、左腕、右足、左足を順番にゆっくり動かす。落ちてる途中の記憶がないとはいえ受け身も取れない状況だったからどこか骨折しててもおかしくない。おかしくない、と思ったのだが

「そもそもが痛くない?!」

 そんな独り言が漏れてしまうくらい怪我一つ負ってない。

 ゆっくりと身体を起こしながら周りを見渡す。見渡して状況を確認して気付く。

「なんで空があるんだ?」

 左右にはレンガ造りの壁が見える。そして上を見ると雲ひとつない快晴の空が広がっている。確かに穴に落ちたはずなのに。いや、

「さっきのが夢だった?」

 落ちた事自体の夢オチ説を考えたがそれならこの場所はどこだ?。

 舗装がされてない剥き出しの地面。左右にあるレンガ作りの壁。うっすら差し込む陽の光。どうやら路地裏らしい。

「いや、これ自体が夢か?」

 右手で思いっきり頬をつねる。どうやら夢じゃないらしく普通に痛い・・・・。

 記憶を辿って場所を割り出そうとしたが、少なくとも大学の敷地内はどこもきちんと舗装されていてこんな地面が剥き出しではないし、大学周辺を思い出しても少なくとも行動範囲内でレンガ造りの建物を見た事がない。

「どこなんだよ、ここ・・・・」

 不安を帯びた言葉が思わず口から溢れる。

 そんな時、ふと耳を澄ますと正面から人の声が聞こえてくる。それによく見れば人が往来してるのも見える。どうやら少し進めば人通りがあるらしい。

 一瞬、どうしたものか迷ったが

「よしっ!」

 とりあえず通りに出る事にした。通りに出れば見覚えのある景色が見えるかもしれないし、分からなくても歩いてる人にここがどこなのか訊けばいい。

 十五メートル、十三メートル、十一メートル、徐々に通りに近づいていく。

 九メートル、七メートル、五メートル、近いはずなのに何故か遠く感じる。

 三メートル、一メートル、遂に一歩踏み出せば通りに出る距離になる。

 その一歩を踏み出して通りに出た。

「・・・・・・・」

 出た瞬間に言葉を失った。

 通りに出れば見慣れた道路が広がってると思っていた。車が走っていると思ってた。スーツを着て忙しなく歩いてるサラリーマンがいると思ってたし、高校の制服を着崩してスマホを弄りながら歩いてる学生がいると思ってた。

 だが目の前に広がるのは舗装されてない剥き出しの地面、アニメやラノベにある昔のヨーロッパのような石やレンガで造られた建物、シンプルな服装をして歩く人、そして

「ここはハロウィンのコスプレ会場か?」

 よく見えなかったが動物の耳や尻尾のようなものを出しながら歩いてる人も見かける。

 ハロウィンなら3ヶ月くらい前に終わったから遅すぎるし、フライングにしても早すぎる。

 とにかく目の前にある予想外の現実を認識しなかった。出来なかった。脳が認識するのを拒否した。それほど混乱した。

 それでも目の前の現実は変わらない。そして最初は認識を拒否していた脳も徐々に現実を受け入れる。受け入れた途端、怖くなって走って路地裏の元いた場所まで引き返した。

「ハァ、ハァ・・・・・」

 わずか十五メートル程度走っただけなのに息が切れる。右手で額の汗を拭う。冷や汗が止まらない。

 夢であって欲しいと頬をつねるが気付いたらベッドの上だった、なんて事はなく痛みだけが返ってくる。

 先ほど見た光景は何か映画やドラマの為に作られたもの、と都合の良い解釈にしたいが本能が実際に存在するものと訴えてる。

「異世界転生ものの主人公かよ」

 半ば自虐的に言葉を絞り出す。

 これがアニメやラノベの主人公ならそれまでのつまらない日常を捨てて見知らぬ異世界に心躍らせて満喫した異世界ライフを送るのだろうが、実際に自分の世界観が通じない世界にいきなり送られるのは恐怖でしかない。きっとあの主人公達はメンタルが化け物か壊れている。

「落ち着け・・・落ち着け・・・」

 自分自身に暗示をかけるかのようにつぶやく。

 まずはこの状況になるまでの流れを思い出す。朝は講義に遅れないように起きて大学に向かった。着いてすぐに声をかけられて講義まで時間があったからベンチに座ってゲーム談義で時間潰し。1限目の講義が終わって講堂に移動しようとベンチから立ち上がった瞬間に落ちた。そして気付いたらこの路地裏で現在に至る。

「全ての元凶はあの穴か」

 アニメみたいに死んだ覚えもないし、「お前を異世界へ送る」と宣う神や女神に会った記憶もない。それならあの穴が次元の裂け目だったと思った方がまだ納得出来る。

「どうするのが正解だ?」

 仮にあの穴が次元の裂け目でこの世界に来たとして戻る手段はあるのか?この世界の住人に俺はどう見られる?扱われる?言葉は通じる?そんな考えがグルグルと頭の中を巡る。

 一分か、二分か、三分か、どれだけ悩んだろう。いや、実際は三十秒程度だったかもしれない。

「フーッ・・・・よしっ!」

 大きく息を吐いて、気合を入れるために頬を叩く。そして通りの方を見る。

 元の世界に戻るにしてもこの世界で生きていくにしても先ずはこの世界の住人と友好関係を築いていくしかない。

 とりあえず通りの方に足を進める。

 路地への入口から軽く様子を伺う。歩いている人の顔を見る限り極端に痩せていたり不健康そうにしている者はいない。どうやら少なくともこの街?が飢饉に襲われていたり治安が極端に悪いことはなさそうだ。

「まずは街を見て回るか」

 まだ明るい内に今いる街の全貌を軽くでもいいので掴んでおきたい。財布に入ってる日本の通貨が使えるはずがないので出来れば救済してくれそうな施設、特にその可能性が高い教会のような宗教施設を見つける事が出来ればベストだ。






「疲れた・・・・」

 スマホを見る限りかれこれ2時間くらい歩いただろうか?

 歩き始めてしばらく進むと中央に大きな噴水がある広場に出た。そこが一番人の行き来が多く道も十字に伸びていたのでここがおそらく街の中心的な場所なのだろう。

 そのまま直進していったところ、そんなに歩かないうちに徐々に店が減っていき宿屋や一般家庭のような雰囲気の建物が増えてきた。そしてそのまま進んで行くと街の端にたどり着いたようで大きな城壁と門を見ることができた。噴水の場所にも城壁と門、そしてその奥には城のような建物が見えるのでひょっとしたらこの街は城下町なのかもしれない

 現在は来た道を戻って来て噴水に腰掛けて休憩している

 歩いている時にはお目当ての教会がなく逆方向だったか?と思ったが

「あるにはあったけどあの雰囲気じゃ・・・・」

 教会らしき建物は広場の城門付近にあった。あったのだが、何やら入口付近に鎧を着た一団が居て物々しい雰囲気を醸し出しておりとても近づける雰囲気ではない。

 空を見れば陽がだいぶ傾いており日が暮れるのも時間の問題だ。所々に警備兵みたいなのが居て治安は悪くなさそうに見えるが(考えようによっては治安が悪いから警備兵がいる可能性も)見知らぬ土地でいきなり野宿というのは避けたい。

 「ひとまず待ってみるか」

 とりあえずあの一団が退けるまで待つかと時間潰しの為にスマホを取り出すが当然ながら圏外だ。

 「そりゃそうだよなぁ」

 はぁぁぁ、とため息をついてスマホを仕舞った時にふと暗くなる。そして

 「ため息なんか吐いて君どうしたん?」

 突然声をかけられた。

 顔を上げると目の前に男が立ってた。髪は金髪で耳くらいの長さで揃えてあって目はいわゆるキツネ目、でもキツネ耳はない普通の人間。顔のバランスは整っていてイケメンの部類に入る

 「あ、いや・・・・・」

 声をかけられる事を想定してなかったので声が出ない。そもそもなんでコイツは日本語を喋ってる?やっぱりここは日本のどこかで映画かドラマの撮影なのか?

 「ああ、ごめんな。いきなり声かけられてビックリよな」

 キツネ目の男は固まってる俺にあくまでフレンドリーに話しかけてくる。

 「いやぁ、この辺であまり見かけん服装してる君が俯いてため息なんか吐いとるからどないしたんかな?って」

 とりあえず心配をしてくれてるらしい

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