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MDb  作者: 雨月 そら
7/7

現状

 健達はピンパに追い立てたれ、ロングインターバルを経て鶴ヶ城を一周して蓮のいる場所へと戻ってきた。

 ピンパの追い込みは相当だったらしく健達はその場に崩れ落ちて両手を地面に付くと、ゼェハァゼェハァと大滝の汗を流して苦しそうに荒い息を吐き出している。


 「あー...初日から、やってくれるね、先生〜」


 「え?でも、レンちゃんが、追い込めって〜ぇ」


 「ほどほどって、言ったつもりなんだがな」


 「そうだっけ?まぁ、いい絵が撮れたっしょ?」


 ピンパは健達とはまるで違い余裕な態度で、ケタケタ笑いながら上空を飛んで帰って行くドローンを指差した。


 「...ん?...あぁ......まあまあだな」


 蓮はピンパが指差したドローンを見てから、携帯を取り出し何か操作した後に画面を数分見てから少し満足げに笑う。


 「...にしても、随分、ビューが跳ね上がったな」


 「そりゃ〜もう、準備万端ですから〜。何せ仕込みは、バッチリだも〜ん」


 ピースをするピンパに対して、少し怪訝な顔を蓮はする。


 「ノーンノーン!ヤラセじゃないよ〜ん。今、中高生で流行ってる、チックタックの動画配信サービスで事前の話題作りしておいたんだよ〜ん」


 「この子らでか?」


 「はぁ?この子らで、バスる訳ないっしょ。俺、よ、俺」


 「はぁ?」


 蓮の顔色が変わってピンパの首に腕を回すと強引に引っ張って、話が聞こえないように健達から遠く離れた。


 「おい、どういうつもりだ!」


 蓮は怒りを抑えながらも、聞こえないように小声で話す。ただ、顔はかなり険しい。


 「ちょ...ね...だーいじょうぶ、だーいじょぶ。このことは、たっくんも承知してるって。要はね、本物のピンパのモノマネする、謎の体育教師って感じでやった訳よね〜」


 力任せに首を締め付けられた状態のピンパは苦しそうな顔で、ポンポンと蓮の腕を軽く叩いて諌めてから同じく小声で話してからウインクする。


 「はぁ?」


 「大人気ミーチュー専属のミーチューバーのピンパが、敵対してるチックタックで配信しないし、あっちはピンクのパンダの着ぐるみを着た素人、こっちはただのしがない学校の先生よ?」


 「全く意味が分からん。中身は変わってないだろ?それで何が、大丈夫だ」


 「まーまー、そんな怖い顔しないでぇ。ピンパの素性も顔もバレてないじゃん?それにピンパって俺より背がだ〜いぶ、高いんだよね?」


 ピンパは普段、ミーチューブの撮影の時は四六時中ピンクのパンダの着ぐるみを着ている。背の高さで割り出される可能性も危惧して、ピンクのパンダの時は底上げしているのである。

 もう何年もバレずに来れたのは、MDbsメンバーの手厚いサポートとあってこそ。MDbsメンバーには芸能関係に顔が利く人物がいるということでもある。ただそれだけではなく、ピンパ本人もかなりの徹底ぶりなので、現在進行形でバレたことは皆無と言っていい。

 

 ピンクパンダが素性を隠して何故そんなにも有名になったかといえば、ピンクのパンダの着ぐるみを着ているにも関わらず、上手くダンスを踊ったからである。これは、一昔前大人気だったのテレビの教育番組に出てた、踊って歌える緑の怪物のかっちゃんぴんを彷彿とさせ、日本で最初にブレイク。


 と言っても事前に一昔前にブレークした事を再ブレイクするように仕掛けたのもある。それがあって、かっちゃぴんが再ブレイク中に、なんかパチモンがアメリカから出て来たというところから一気に炎上。

 それもそのはず、かっちゃぴんはプロの人じゃないかと囁かれていた程の腕前だったわけである。だがピンパはプロと分かってしまうと非常に都合が悪く、上手いけど素人と思わせるように演出しているのである。

 プロなら見せ場という場面で絶対にしないことをわざと失敗して、明るく可愛くお茶目に誤魔しつつも最後まで頑張る姿を見せていたのである。時には踊り疲れて苦しそうに倒れ込み、動画が終わる演出までしていた。


 それくらいであれば、他にも似たような輩はいたのでブレイクするはずもない。徹底的に違ったのは、可愛らしいフォルムには似つかわしくない低音ボイスで、尚且つ他のパチモンより群を抜いて抜群に歌が上手かったからだ。


 当然、それは全て計算上である。


 炎上するように仕向けたのもそうだし、動画も初めはただピンクのパンダが無言でパントマイムしながらダンスするだけしか流さなかった。

 他のパチモンと同様炎上して逆の意味で盛り上がりまくったピーク時に、ピンパが最後まで健気に歌う姿の動画を流したのである。

 元が一世を風靡したアイドルのメインボーカルだったのだ、アンチだったはずの人間が一気にファンへと転じた。

 人気に火がつきそうになると不定期更新で本数もさほど多い方ではなかったのだが、ある種プロモみたいに動画を次々にガンガン流した。不定期更新も、その後動画を休みなく毎日更新されたのは撮り溜めていて、計画的だったのである。

 そこでのピンパは、チャーミングでトークも上手く、行動力があってバイクでアメリカ横断はするは、無人島で一ヶ月一人で過ごすなど、ピンクのパンダのままで実際にやってのけたのである。

 ここまでくれば神掛かってると話題が話題を呼んで、日本から世界に拡散されていき、今の絶対的人気ポジションが確立したのある。


 そういうわけで、昨日のモニター越しの声はピンパとして使用しているもので本物ではないし、今喋ってる声も蝶ネクタイの変声機で変えているので、本物ではない。

 なにしろ声が少し特徴的で高めであり、特に日本でアイドルとして活動してた手前、声でバレるのは重々承知していたのだ。

 背丈以外は、肉体改造したために体格はかなり筋肉質になって痩せていた当時とは似ても似つかなくなった。髪も、渡米する前は真っ黒ショートのいかにも真面目そうないいとこの坊ちゃんスタイルに付随したファッションだったので、こんな奇抜い見た目になってるとは思いもしないだろう。


 アメリカでは日本の芸能界の煩わしさを避けるため、本名を伏せ名前を変え、顔半分が隠れるようなでっかく厳ついサングラスをして顔出しNGでやってきた。それにアメリカ国籍を取得していたし、英語が得意で日本語が不得意なフリをしてずっとアメリカではやってきた。

 そもそも事務所を辞めてから日本の芸能関係者とは縁を切り全く連絡を取っていなかったし、その経緯を知るMDbsメンバー以外が気づくなんてことは到底難しい話なのである。



 「にしてもだ、何か気づいてバレるかもしれないだろ?」


 「まーまー...まずは、これ、見てよ」


 リュックから携帯を取り出して、チックタックを再生する。そこには細身でピンク頭をツインテールにし、一昔前のどこぞの学校指定の地味な緑ジャージを身に纏って、ピンクのパンダの仮面で顔を隠した女性にしか見えない高校生くらいの子が踊っている。何故高校生かと思ったかといえば、声がまず可愛らしい女性の声で、蓮の偏見かもしれないが若々しくはしゃいでいる感じや動作がそう見えるのだ。背が低い分、体育教師と言われてもピンと来ないといった感じだ。


 「え?は?」


 「まー...うちのお高い機材と優秀な編集ソフトがあるじゃん?あれだと完全に編集したの分からないから、それでちょこちょこっと変えたんだなぁ〜。それをこうして、流した訳よ」


 「...あぁ...なるほど...そういうことか」


 「そ。でもって、こちらのピンクちゃんが謎すぎてただ今ブレーク中。こんな女性で踊れて、尚且つ、優しそうで美女じゃないかって噂が勝手に一人歩きしてるわけ。それと、福島出身ですって最初に自己紹介しただけで、この子に関する情報は一切公開されないし、この動画だけしか上がらないしと謎すぎて、憶測が憶測を呼んでもしや実在しない今流行りのAIかも、とまで囁かれているわけ。そんな話題の子がよ、配信最後に彼らの応援よろしくねぇ〜って言って彼らの配信アドレス流したもんだからねぇ。ってこと。それにさ、まー、相も変わらずよ、ピンクちゃんを真似る輩が男女問わず、たっくさーんいるのよ。一人こんなのが居ても、真似てる奴かな?ぐらいなんだよね」


 「...ふ〜ん。ちゃっかり、ユーザー名が福島観光大使とかになってるしな...お前のお得意のを仕掛けたわけか。なるほど...まぁ...AIだと信じてくれてればいいけでな...にしてもだ、その格好はいかにも...ピンパではない以前のお前を彷彿とさせる。まさか、本人が彼らにレッスンしてましたという事実を当てる気か?」


 「ないわ〜。もう...表舞台に立つ気も、さらさらないしねぇ。そ、れ、に、ジャーン」


 「えあぁ??」


 奇声を挙げそうになった蓮の口を、ピンパが必死に両手で塞いだ。


 「ちょっと!」


 「お前、ちょっと」


 「バカだな...特殊メイクだよ」


 手を離しながらいつになく焦っている蓮をおかしそうに小さく笑って、耳元で小さく囁く。


 「...ばぁ...そうか」


 「髪は地毛だけどね」


 「...いいのか...この...色は、お前の意地じゃ...」


 蓮は地面に落ちたピンクのズラとピンクのパンダのお面を一度見てから、ピンパの顔を複雑そうな顔をして見る。


 「はいはい、辛気臭い...もう、いいんだ。これが新たな、決意だから」


 「...そうか」


 「いや〜、イケメンで可愛くなったっしょ?金髪碧眼堀深い顔立ちのいかにも白人って感じの顔立ちで」


 「...まぁ...そんなムキムキしてなかったら...ある種、昔のお前と一緒で可愛かったかもしれんがな。まぁ、今は可愛くはないが、カッコ良くはなったんじゃないか?」


 「じゃ、いーじゃんね」


 ピンパはスルッと蓮の腕から抜けると、健達の元へとさっさと戻って行った。それを少し見届けてから、蓮もゆっくりと健達の方へと戻って行った。



 戻ってみれば、健達は無様に地面にうつ伏せていた。仕方なく、へとへとになった健達を蓮の車に乗せて旅館へ帰った。当然、ピンパは自分の派手派手の車で旅館へと付いて行ったのである。

 健達は車の中ですやーっと眠ってしまい、旅館に着くとやっと目を覚ましたのだが、まだ眠いようでフラフラしながら自分達の部屋へと帰っていき、靴を脱いで少し歩いていたが畳の上にばたりと倒れるように次々と俯して寝てしまった。


 「おいおい...大丈夫かね...これ」


 心配になって付いて来た蓮は、ゾンビみたいに歩いて倒れて行った健達を見て心配が上乗せされる。


 「ん〜?大丈夫だよ。練習には、ついてこれたし。普通なら、ついてこれない」


 「ん?」


 「一応、どこまでできるか今日、見ておきたかったんだよね。遅刻しないか、俺が遅れて来ても何もしないでぼーっとしてないか、どっちも大丈夫だったし、それから朝早いのに不貞腐れて練習サボらないかとかね、それも大丈夫。後はもう気合いの持ちようだからさ」


 「で?」


 「だいぶ...負けん気が強いね。元々、運動神経は良さそうだし、資料見る限りでは体力も結構あるよ。ただ...ダンスセンスがあるかは、動画見る感じだとなくもないが今は求めてるレベルには達してない。ズブの素人は、確かにそう。プロに教わった経験、ないんだろうな。まぁでも、足腰は丈夫だし、バランス感覚もいいし、双子は特にダンスのセンスあるかもしれないな」


 「なら、後の二人は?」


 「お前、何故このチームが選ばれたか、覚えてないの?」


 「...歌か」


 「そう。健は、ずば抜けてる。男として高音がかなり高い所まで出せるのも、魅力だな。優は、合わせるが上手く、状況判断力も優れてる。リーダーとして、引っ張るには最適だしね。それに声が甘く切ない響きがあって、女性ウケしやすい。優は、でも、メインボーカルとしてはありきたりなところがあって弱いが、健とのハモリはかなり美しく響き合う。そこに、双子のダンスがキマれば、なくもない」


 「で、そこまでいくのに...今回の大会まで間に合うか?」


 「ん〜...五分五分かな」


 「...まぁ...と言っても、他の全国から集められたチームも、強敵揃いだからな」


 「勿論それも含めての、五分五分。予選落ちたらそもそも、っていうね」


 「やめてくれよ、ここまでして予選落ちなんて笑えもしないし...それだと面白くない」


 「大丈夫だよ。そのために、練りに練って準備したんだし。東北ブロックは抑えておいたんだし、予選はまず落ちることはないでしょ」


 「...まぁ、それもそうか。予選はある種、投票集め。投票数が上がれば上がるほど、応援する人間が多ければ多いほど、予選通過は有利。だが、その後は、MDbsでの対決だ。そうやすやすと、勝たせてはもらえないだろうよ」


 「まぁ...そこまでには、魅せられるほどのパフォーマンスができるようにしておくさ」


 「よろしく頼むぞ、ピース」


 「りょーかーい」


 二人は全く起きる気配のない健達を横目に、少しワクワクした目をしながら部屋を後にした。

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