予想外
健達はMDbpに応募してから、自分達をプロデュースしてくれそうな企業を探し始めた。
MDbpに参加すれば受講料無料や支援援助など、各プロダクションや芸能事務所、一般企業も各方面のプロを雇ってどうにかMDbpへ食い込もうとする所は多かった。プロで活躍してる中でも個人同士でユニット組んで、プロデュースに成功すればと考えるものも少なくなく、業界内外でTV、ネット、広告など、アピール合戦の嵐であった。
だからよっぽどのことがない限り、プロデュース先が決まらないなどという事態はないはずであった。
だが、何故か健達のチームは尽く断られてしまったのだ。
理由としては、素人の寄せ集め、田舎者ということ。
確かに福島からエントリーしているチームは他になく、多いのは東京、大阪、京都などなど、首都圏、京阪神大都市圏に近い所ではある。
何故、福島からエントリーが他にないかは不明ではあるが、東北地方太平洋沖地震から都市開発は当初は勢いが凄かったはずだったが、何かと取って付けた様に国からの支援金が削られ、3.11の前後は盛り上がるが、当初程の勢いはなく尻窄みしていった。
住民は徐々に増えても開発が遅れれば遅れる程、住める場所が限られ、企業も人が集まらならないと誘致しないと悪循環で、原子力災害の件もあり地震が起こるたびに、様々な計画が浮上しては企画倒れでいつの間にか忘れ去られ住民達も内心では辟易していた。
それだけでなくIT産業が盛んになる事で電力の不足に陥り、原子力推進派と反対派とのせめぎ合いは絶えなかった。
ただ、反対運動が盛んになればなるほど原子力発電所に勤務するのは現地の人間が多かったため、ストライキ状態で実質稼働させるのが難しい状態であった。
その中で、2021年4月、百二十五カ国、一地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現にすることを表明したが日本全体では徐々に浸透し取り組んでいったため、初めの頃はパッとしない状態が続いていた。
ただ大熊町では早くからゼロカーボン宣言活動を行っており2050年に近づくにつれ活性化し、再生可能エネルギーの導入、省エネ住宅、地域新電力の創設などが次々に成功を収めたまでは良かったのだが、新電力に要されるのが太陽光発電であったため、大量の更地が必要で丁度良く更地であった場所がその場所に当てがわれた。
それと合わせ自然を増やしていく活動をすれば、逆を返せば人が住める場所が減っていく事でもあった。
福島は森林、川、海の自然豊かさは活動のお陰で群を抜いたし、自然を取り入れた農業や畜産の独自システムが確立したが、その分、人が多く住めない代わりに農業ロボット産業も盛んで、中心部のいわき市、郡山市、福島市ロボット産業系の企業や大学が多く人口は福島の中では鰻登りではあったが、それに対して大熊町に関しては人口が少なかった。原子力発電所がある地域だからこそ知られていない事実も浸透し辛く、昔の風評被害はいまだに残っているのもまた事実であった。
世界中でIT産業活性化すれば日本もそこに乗り遅れない様に乗っかるのは必然的であるからして、特にVirtual Reality所謂VRは目覚ましく設備さえ整えてしまえば、VRゴーグル無しに日本中、世界各国でもその施設に手ぶらで遊びに行く感覚で行けてしまう空間ができたのだ。
そうすると、人気都市であれば宣伝効果抜群で、実際に現地へ赴き触れてみたいと思わせる仕組みにわざとなっていた。現地へなかなか行けない顧客を取り入れながら、その現地と協力しあって巧みに誘導し循環させどちらかが不利益にならない様にしていたからだ。
ただそれも、財力があればできる事でもあり、自然豊かでのどかであるがソーラーパネルをわざわざ観に来る顧客は少なく、癒し産業なるものもVRで映像、音楽、匂いさえも再現できる時代となれば、福島は悪く言えば地味であって、知られないのもこのせいであるのかもしれない。
それと共に特区指定を国から受けている手前、自然破壊してまで新たな大きな施設を設けるのはなかなか難しく、MDbpのメインの特化型大型ドームを誘致するのも今の段階では許可は降りないだろうと判断され、MDbp参戦する企業からは敬遠されたのかもしれないというのが、傑の見解であった。
何故なら、現状はロボット産業の影響下で選べる職種が少なく都会へと望んで若者離れが進行中で高齢化が徐々に進んでいてそれを食い止めたい気持ちと、地元の良い所は海だけでなく、こじんまりしてるかもしれないがいい所が沢山あってもっと知ってほしくて参戦した訳で、地元から離れて活動するならという条件は無くもなかったが、それでは本末転倒で彼等には受け入れられなかったのだ。
「うっわぁ〜...まじでヤバくね?これで、めぼしい所は全部アウト。え?なんなの?マ、ジ、で!嫌がらせ?」
健達は、健の親が経営している海沿いの景色がいいと評判の老舗旅館に隣接する宿舎の管理室に居た。いつもの溜まり場で、旅館が忙しいと健達はアルバイト要員として借り出されるのでそこに待機する様になったのだ。
管理室は事務所みたいになっており、結構広くデスクだけでなくソファーもあるので待機するには打ってつけでもあった。
そこにいる全員旅館のロゴが心臓当たりに入った紺色の作務衣で、スマートフォンと睨めっこしていた。
健はムスッとした様に急に叫び出して、自分のスマートフォンの御祈りメール、すなわち不採用通知を何度も身過ぎてげんなりし、座っているソファーの上に携帯をぽいっと放り投げた。
「まぁ〜まぁ〜、流石に嫌がらせ、なんてないでっしょ。メリットないじゃん?」
健の隣に座っていた叶大が、ヘラっと気の抜けた笑顔のままソファーに胡座を描いて足先とスマートフォンを両手で持ちながら健により寄り掛かる。
「そーそー、おれらーまー外見そこそこイケてるかもだけど、他はさー...ど素人じゃん?まーでも、健の歌声はすげーって思うけどさー。でも、それだけだしさ、なんかこれといってライバル視される要素ないじゃーん?」
叶翔も叶大と同じ体制で叶大に寄り掛かればドミノ倒しの様になって、健は双子の下敷きになってソファーへだらりと横に寝そべる。
「こらこら、何サボってるのかな?君達は」
反対側のソファーに座って誰かとスマートフォンで話し終えた傑は、呆れた様な目をして溜息を付いて三人を見ているが、口元はニヤニヤとしている。
『だって〜』
三人は息ぴったりに、不貞腐れた声を上げる。
「ふ、まーまー分からないでもないけど、ちょっと親のコネなのが癪に障るけど、話を聞いてもいいって人、見つかったよ」
『まじで!!』
三人はばっと体勢を戻すと、食い気味に前に乗り出してキラキラ輝いた目をしている。
「明日、お昼を食べながら、ゆっくり話そうだってさ」
四人はお互いに視線を合わせるとニッと口角を上げ順番にハイタッチしていき、ガッツポーズに満面の笑顔になった。