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MDb  作者: 雨月 そら
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田舎からテッペン目指せ

 日本では少子化、高齢化に伴い、AI技術、産業ロボットの飛躍的向上が余儀なくされた。


 その中で劇的飛躍したのが、エンターテイメント産業。特にAIアイドルという、フォログラムとアメリカの大学で開発が進んでいたエアーによる触感が実用化され、それらが併合された彼等は歳を取らない身近な存在として今や、芸能界での需要性はトップクラスとなっていた。

 歌唱力、ダンス、ファンサービス、どれを取ってもAIならではの膨大な知識を分析し身に付けた彼等は人間に引けを取らないまでになったのだ。特に歌唱力は群を抜いて、今や独占的になりつつあり、AIの歌を耳にしない日はない。


 AIアイドルの一番の利点は、特定の人間への恋愛感情を持たず結婚もしない、ゴシップネタなりようがなく、より人間に近い姿に具現化されている為に、永遠にファンの恋人的存在で夢を魅せれるという点である。

 

 彼等が活躍する特別施設のドームも今や各主要都市には必ずあり、映画館の需要が衰退してきたのをいい事に彼等を具現化できるフォログラムスクリーンへと変え、わざわざ遠くまで赴かなくても自分の住んでいる地域で、すぐ彼等に会えるという環境になったのだ。


 そもそもそれを実現可能にしたのは、日本、アメリカ、中国、韓国、インドといったIT産業国の名だたる企業から出資を受けた新進気鋭の企業ChemW(ケミュー)こと、


 Chemistry Works。


 AIアイドル産業を確立してから日本だけでなく世界での知名度は高く、今や日本産業の要の車さえも抜く勢いである。


 ただ、日本を拠点とした日本企業で日本人のCEOである事は分かっているが、AIテクノロジー技術開発でAIアイドルの生みの親ということぐらいで謎が多い企業であった。

 様々な国の政治的関与もあると噂されるが、実際の所はゴシップネタでしかない。


 その中で人間の需要性は低くなっていくのは当たり前の事で、特に生身のアイドルは需要性が短く全てのアイドルが、AIアイドルが取って変わる日も近いとされ、人間がアイドルを目指すのは難しい時代となっていた。


 その為、昔からある芸能プロダクションは大打撃で、倒産、倒産寸前となっていく企業も少なくなく、その情勢に反旗を翻す為にあるプロジェクトを共同で立ち上げたのである。

 初めは、音楽のジャンルは問わず、音楽とダンスを取り入れ、年齢制限十八歳までの義務教育課程の子供達を対象にグループで、アイドルを育成するという案が出たが、AIアイドル産業の方が優勢で出資する企業がなく企画倒れとなった。

 それが何故か、ChemWのCEOが興味を示し拾い上げたのである。

 ただし、ただアイドルをただ育成しても面白くないと、全国の義務教育課程の子供全てを対象に四人構成のチーム制とここまでは方向性は然程変わらなかったが、大きな違いすれば、音楽とダンスでバトルするという点だった。


 それが、


 music dance battle project


 通称、MDbpである。


 ChemWが新規開発したリアル体感型ゲームMDbで、曲と歌声とダンスをゲーム内で実際に繰り広げるとカラオケの判定機能の様に機械判定される。チーム対戦型で、チーム毎にマスコットというのが存在し、その判定結果の数値でそのマスコットが対戦チームのマスコットを攻撃開始、マスコットのHPがゼロになった時点で負けという仕組みになっている。

 ざっくり言えば、音ゲーとモンスターバトルが融合したようなものとCEOは言っていたが、プレイヤー自身が歌い踊る訳であるからそれなりに難易度は高いゲームである。


 その新規ゲーム発表イベントとして企画に盛り込まれたのが、MDbpである。このプロジェクトには通常のゲームの中には搭載されていない、誰でもそのゲームのレギュラー会員となれば一般参加型の人気投票が投票ができるというもの。投票は、応援ポイントとして加算されていきチームのマスコットの強化ができたり、HP回復アイテム購入できたり、衣裳さえも、アイドル達の様々な支援をファンができる様になっている。

 つまり、人気が出れば出るほどそういった支援が受けやすい形となっていて、勝ち進めることが出来るという仕組みなっている。


 そして今、その第一回、MDbpトーナメントに参加する為の候補生が募集開始されたのである。


 候補生は人数年齢制限が満たしていれば男女関係なく参加できる。ただし、曲提供、ボイトレ、ダンスレッスンは各協賛する企業や個人と契約し無償で受けられるものとし、その契約が取れない場合は自分達の実力でどうにかするしかないという参加だけであれば敷居は低いが、勝ち残るにはかなり厳しい条件であった。

 ただ、今や日本のトップ企業と言っても過言ではないChemWが主催となれば、勝ち進めれば将来有利、安泰と考える若者は多く参加は予想以上となる見込みとどこの報道関係も取り上げて、日本は今、祭り状態であった。



 . . . . .


 佐藤 (けん)十六歳、福島大熊町在住の高校一年生は今まさにMDbpへ参加申し込みをしようと、放課後数人しかいない教室で学校のタブレット端末から応募サイトの応募ボタンを押そうと人差し指をプルプル振るわせていた。


 この佐藤健は、全く歌もダンスも何もかも未経験の素人で、一番最初は渋っていたのに、親友達に乗せられ、本日もれなく他の若者同様参加する運びとなった。

 ただ彼は、根っからのお人好しでお調子者。今時、絶滅危惧種と噂されるヤンキーがする様な格好で、頭はリーゼントの金髪、制服ではなく背中には天下無双と白字で刺繍されている黒い特攻服を着て、腹には包帯が巻かれている。その見かけだけでいえば厳つそうに見えるが実際は、背が低く、ベビーフェイスなので全くもって迫力はなく、服に着せられている。


 身なりだけは何処かへ喧嘩をしにいくのかという場違いな格好で、緊張しながらポチっと応募ボタン押すとやっと緊張が解れたのか、教室の椅子にドカっと手足を放り出す様に乱暴に座った。


 「やぁーと、終わったーーー!。緊張するー、やっぱぁ〜!」


 健は大きな声を出しながら、両手を上にう〜んと大きく伸ばしてから勢いよく両手を下すと両肘パンっと軽快に叩いて肩の力を抜くとほっとため息をつく。


 「ただ...応募ボタン押すだけでしょ。何でそんな緊張するのさ?」


 そう言ったのは、前の席の椅子に逆向きで座り両手を背もたれの上に乗せた健よりもずっと背に高い所謂インテリアといった感じの黒髪ツーブロック、黒縁眼鏡を掛けた、シルバーグレーのガーディガン、真っ白なワイシャツ、ネイビーと白のチャックのネクタイに、グレーのズボンという健とは対象的な普通の制服を着た青年。健の緊張した姿が可笑しいのか、遠慮なしに笑っている。

 彼は、竜石堂(たつしどう) (すぐる)。資産家の次男坊。健と従兄弟で家が隣同士だったので兄弟の様に育った仲であり、同い年だが健の兄的存在でもある。


 「そーだよ、ケンちゃん、そんなんでビビってたらだーめよぉ〜」


 「そーそー、俺らがいればぁ〜、大丈夫っしょ」


 教室の引き戸から入ってきた、中の二人より背の高く中性的な瓜二つの顔の青年が傑と同じ制服を着てヘラヘラ笑いながら入ってくる。

 健と傑と幼稚園からの腐れ縁の一卵性の双子で、髪の色とピアスとほくろの位置以外はほぼ外見は一緒である。

 最初に喋ったのは、ピンクベージュのマッシュヘア、右耳にイヤーカフとチェーンで繋がったシルバーリングピアスにグレーのカラコンを入れて、口の左下に小さなほくろがある、兄の星 叶大(かなた)

 続いて喋ったのが、ブルーアッシュのマッシュヘア、右耳に兄と色違いの黒のピアス、口の右下に小さなほくろがある、弟の叶翔(かなと)であった。

 双子はネクタイを少し緩め、カーディガンを少しだぼついた大きめなものを着て指先がちょこっと出しているから、背は高いものの可愛らしさが垣間見れて薄ら浮かべてる笑顔のお陰もあり柔らかいイメージである。


 双子は健の後ろ回ると、二人とも片手を出して健の髪を犬でも撫でるみたいにくしゃくしゃと掻き回す。


 「ちょ、やめてよ!今日、じっちゃに教えてもらって折角セットしたのにぃーーー!!」


 「「あ〜、やっぱり〜」」


 双子の手をぺちぺち軽く叩いて振り払うと頭を抱えて嘆いている健に、シンクロして戻した片手で口元を隠しながらクスクス双子は笑っている。


 「僕はね、朝やめなよって言ったんだけど、聞かなくて」


 お手上げとでもいうように両手を上げて軽く苦笑をする傑を、少し頬を膨らませムッと健は睨む。


 「一世一代の大勝負なんだからさー、気合い入れたんじゃん!おかしくない、でしょ?」


 健は腕を組んで背もたれに持たれながら顔を上にあげて双子に同意を求めて見上げるが、双子も傑と同じ表情で軽くお手上げのポーズで軽く首を振る。


 「え!!!だって、じっちゃが漢ならコレだぁ、着てけぇ!!って...マジかぁぁ...」


 健はまんまと祖父に騙された事に、先程までの元気が削がれて一人魂が抜けたような惚けた顔して明後日の方向を見ている。


 「ま、その格好でも許してくれる先生や同級生に感謝しなよぉ〜ケンちゃん。ってことだよね〜、叶翔ぉ〜」


 「そっそぉ〜」


 双子は残念とてもでもいうようにポンポンと肩同時に叩き、健を目を細め哀れんだように見下ろしている。


 「ま、それはいいとして、だ。応募は無事できた訳だし、ここからが真剣勝負、でしょ」


 傑はニッと珍しく子供っぽく笑うと身体を前に乗り出して、握り拳を縦にして前に出す。けれど、健は今だに惚けたままである。


 「「いつまで、ボケてんの!!」」


 双子に思い切りパァーンといい音響かせて背中を叩かれた健は、ビクッと身体を跳ねらせ思わず椅子から落ちそうになるのを持ち前の身軽さで立て直す。


 「いたぁーーー!!ちょ!!」


 「「まぁ〜まぁ〜。それより、待ってるってー、よっ!」」


 文句を喚こうとする健を、双子は両側から人差し指で健の頬をグリグリしてからかった後に二人で健の手首を持って強引に前に出させる。

 驚きながらもそれでやっと気づいた健は元気いっぱいにニカっと八重歯二本を見せて笑い、傑と同じに握り拳を作る。その後ろから追い被さる様に、双子も握り拳を前に出して、四人は拳を合わせると親指をピッと真っ直ぐ立てた。


 『田舎からテッペン取るぞぉー!!イェーイ!!!』


 四人は一斉に元気に叫びながら合わせた拳を上にあげる。

 その時の四人はとても楽しそうで、いい笑みであった。

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