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透明  作者: かえる文学
6/10

透明6

 Aは最近、両親が離婚した。Aの弟や妹たちは、みんな母親と一緒に暮らすという。


 Aも迷っていたが、最後は自分も母親と暮らすことを選んだようだ。


 Aの家は地元の企業の役員である母親の方が元々収入が多く、父親が主に家事を担っていた。


 結婚して長い年月が経っていれば、多少のことは乗り越えられるというが、その例外がAの家だったらしい。


 価値観の不一致、ささいな言動、静かに溜まっていたものは一度垣根からあふれだすとあっという間に色んな物を押し潰し、家族の形を変えることになった。


「お父さんにはいつでも会っていいことになってるし、あんまり今と変わらないんじゃないかと思うから、心配しないでね」


 そうは言いながらも、母親と父親のどちらに付いていくかで迷ってる間、Aはずっとぽかーんとしていた。


 いつもどこか上の空で、意識が深い別のところを漂っているのが分かった。


 珍しく二人の会話において私が沢山喋っていたわけだが余計だったかもしれない、でもそれぐらいしか私に出来ることは無かった。


 お父さんがいなくなる分、今まで以上にAが弟や妹たちの面倒を見ることになるのは間違いないだろうし、負担は増すに違いない。


 それでも、最終的に母親と暮らすのを選んでからは、いつものAに戻っていた。


 一方私は、両親と弟と何不自由なく幸せな生活を送っている。弟は年相応に生意気だが、両親は優しく特別な不満はない。


 私は思う。


 自分勝手なエゴと美意識をこじらせたような自分が家庭的に幸せで、素朴で太陽の光の恩恵をまとっている様なAが、家庭的な不幸に襲われるなんておかしいじゃないかと。


 この一点だけで私は確信する。神や絶対者なんていない。


 それじゃあ、あまりに不公平だ。笑顔ややすらぎを与える人にこそ幸せは与えられるべきではないのか?


 弱くて滑稽で、愚かな肉のかたまりである私に今の家族は過ぎる贈り物だ。


 そんなことを考えいつも最終的に辿り着くのは、幸せな調和などは実現不可能であり、存在するのは残酷な不均衡だけというありきたりな結末である。


 そして私は、いつもの欲求へと戻ってくるのだ。不均衡な世ならば、せめて私は透明になりたい。


 不均衡も不条理も強さも弱さも何もかもを透き通し滅却させ、そして誰からも記憶されない「透明」。


 そこには幸せもないかわりに、汚い肉や黒い血、そしてそれが生み出す混沌もまたないのだから。

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