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透明  作者: かえる文学
3/10

透明3

 その日の午後、急に雨が降った。


 朝見た天気予報ではしっかりお日様マークが出ていたので、お日様に不急の事態が起きたか、あるいは気まぐれで機嫌を損ねたんだろう。


 まあ生きてればそういう日もある。


 私はいわゆる備えあれば憂いなしのタイプで、常に鞄の中には折り畳み傘が入っている。


 自分が雨に濡れると、汚い肉体の輪郭が浮き出てくるようで嫌なこと。


 逆に傘を伝う雨のしずくの音は、美しい流れの中に自分も加わったような気にさせてくれること。


 以上の理由から、私はどんなに晴れていても鞄に傘を入れるようにしているのだ。


 教室の前でAを待ち、一緒に下駄箱に向かう。私が靴を履き終えて、後ろを向くとAが鞄をガサゴソ探っている。


「やばいなあ、傘忘れちゃったよー」


 目をまあるくさせ、足をバタバタさせながら鞄をひっくり返しているAは見ていて愉快だ。


 例えるとするなら、一度も飛べたことがないのに必死に氷の上で羽をもちゃもちゃしているペンギンのイメージだ。


「そうなんだ、私二つ持ってるから貸してあげるよ」


「えっ、まじか。ありがとう!」


 傘をAに渡し、歩き出す。しかし、すぐに足を止める。


「あっ、しまった私、図書室に本返すの忘れてたよ」


「本?」


「うん、弟たちの分も借りなきゃいけないから、選ぶのに結構時間かかるかも・・・なので先に帰ってて。」


 私は踵を返し、下駄箱で靴から上履きに履き替える。校舎の2階に行く階段に向かいつつ背後からちらっとAを覗き見る。


 さっきまでバタバタしていたペンギンは、急に足をどう動かすか忘れてしまった様にぽかーんと下駄箱前で突っ立っている。


 私は視線を元に戻し廊下を直進する。


 しばらく歩いて階段に辿り着く。そしてその段差に足をかける直前にもう一度だけ振り返る。


 すると、歩き方を思い出したらしいペンギンが、つらつらと下駄箱から出ていくのが見えたのだった。

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