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透明  作者: かえる文学
2/10

透明2

 友人Aは、私とは正反対なタイプで、愛嬌もあり活発な子だ。


 私と同じく部活には入っておらず(いわゆる帰宅部)帰り道が同じこともあり、自然と仲良くなった。


 最初の頃は、落ち着きが無く多動的で、考えるよりも行動を優先するようなタイプの彼女は、私の透明的価値観とは相容れないなあと思ったものだった。


 しかし、同じ時間を過ごすにつれて、彼女の行動は、まるで自由自在にエラをはためかせて泳ぎ回る魚のように思えてきて、いつの間にかそれを近くで見ているのをとても楽しく感じている自分に気付いたのだった。


 自分の価値観とは全く別の魅力を持ち、肉体の持つ弾力性を全身で表しているような彼女に対する好奇心は、一緒に過ごせば過ごすほどに高まり、気が付くとたまに一緒に帰る知人から、いつも一緒にいる友人へお互いステップアップしていた。


 この前の夏休みも、Aはふらっと自分の好きなアニメの聖地巡礼に出かけた。


 そしてその帰りにたまたま寄ったお城で、城主の荒々しく今にも動き出しそうな像を見たり、偉業を滔々と語る音声ガイダンスを聞いてるうちに、その武将に夢中になってしまったらしい。


 そしてそれ以降は作品の聖地巡礼だけでなく、彼女のライフワークに各地のお城巡りが加わったのだった。


 さらに言えばAはアウトドア一辺倒ではなく読書家でもあった。


 知り合った当時から、ジャンルを問わず色んな本を読む雑食タイプの読書家だったのだが、彼女いわく「とうとう禁断の近代文学に手を出したのだ」と最近、大げさな表情で打ち明けられた。


 一体何が「とうとう」で「禁断」なのかを尋ねてみたところ、難しそうなのと同時に、はまってしまったらどっぷりと沈んで抜け出せなくなりそうということで、手を出すタイミングを見極めていたのだという回答が返ってきた。


 Aはその後続けて


「覚悟を決めた以上、私は徹底的に対峙するよ」


 と言ったのだが、まあるい顔のくせして眼をカッと見開くものだから、何かの間違いで日が昇る時間に起きた為、眼がギンギンになったフクロウみたいで思わず笑ってしまった。


 それ以来、よくAと近代文学の話をするようになったのだが


「芥川はねー、前期と後期で全然作風が違うんだよー」


 などと得意げに言う彼女の顔を見てると、不思議と心臓の奥の方がぽかぽかとしてくるのだった。


「私は、前期のほうが好きかなあ、後期は救いがなくて辛いんだよね」


 そんな話を聞きながら、この前借りた本を読み終わったことを思い出す。私はAに芥川氏の前期と後期のおすすめの短編集をそれぞれ一つずつ借りたのだった。


 読み終えた旨を伝え、本を取り出しAに渡す。


 すると本を受け取ったAがじーっとこちらを見ている、そのあと大げさに肩を落とすA。


「はあ、いいなあ」


「どうしたの」


「私って、兄弟の一番上だからさあ。どうしても動作とか言葉とか乱暴になるじゃない。お母さんにも、お前は女の子の顔をしているだけで、中身は落ち着きのない男だといわれちゃってさあ」


「そうかなあ」


「そうだよ、それに比べて、君はなんていうか細いし透明感ていうのがあるよなあ。お母さんが、少しは見習えって言う気持ちも分かるんだよなあ」


 溜息をついて歩くAの横で私の体温が急激に上がる。


「そんなことないよ。私なんて、中身が無いのに、なのに中身は沢山詰まってて、全然清潔じゃないもの!」


 あまりに慌てていたため、ついわけのわからないことを口走ってしまう。


 それをきょとんとした顔をして聞いていたAが、唐突にふふっと笑う。


「たまにわけのわからないことを言うよね。清潔じゃないってお風呂はちゃんと入ってるんだろね」


 彼女が茶化した様子でいうのをさえぎる私。


「ちゃんと入ってるよ!清潔じゃないっていうのはなんというか、精神上というか形而上というか」


「また覚えたばっかの言葉使っちゃって」


 結局、顔のほてりがおさまらないまま、終始Aに会話のペースを持っていかれたまま彼女と別れる。


 透明感がある


 それは自分が求めている言葉で、それを初めて他人から言われたのだ。


 そう私は想像以上に嬉しかったのである。取り乱した恥ずかしさと、嬉しさがごちゃまぜのまま、流れるように足を動かす。


 気付いた時には、私の体は家の玄関をくぐっていた。

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