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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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6.探索初日(フェリア視点)

ーおかしい


 探索を開始して2時間ほどたったころ、フェリアは予想とは大きく違う探索に、困惑を隠せなかった。探索が上手く行っていないのではない、逆だ。あまりにも上手く行き過ぎているのだ。

 ダンジョン特有のトラップにかからないことに関しては、感知役のエッダが予想より優れていた、ということで間違いはない。

 しかし、それは想定を大幅に超えるものではないし、そもそもこのダンジョンがあまりトラップの多いタイプではなく、感知や解除の難易度も大して高くない。

 もちろん無視して良い物ではないが、魔法学院の生徒で感知が得意な者であれば、問題なく感知及び解除できるレベルの罠しか存在しないのだ。

 おかしいのは魔物との戦闘が、あまりにも簡単に終わってしまうことである。

 その理由も分からない訳ではない、簡単に言えばアタッカーの攻撃の命中率が高いから、ということになる。

 だが、自分たちの実力では、そうなるはずはないのだ。


 魔物との戦闘において、集団戦を行う場合様々なスタイルがある。

 代表的な戦術で言うと、総合職が全員の場合では、全員がアタッカーを務め相手の攻撃は各々で対応する火力重視・高機動型。

 近接職が含まれる場合は主に近接職が相手の注意を引いて足止めし、残りのメンバーが攻撃や補助を行うバランス型。因みにこの戦法は、総合職のみでも採用される事もある。

 総合職と後衛職が混在し近接職がいない場合は遠距離からのせん滅をメインに、それが叶わない場合は総合職が機動力をメインに立ち回りつつ後衛が補助する遠距離・支援優先型などがある。

 どの戦法が優れているかは一概に言えず、それぞれ一長一短がある。

 火力重視の場合はフレンドリーファイアを常に注意しなければならず、練度が足りなければむしろ攻撃の手数が減り火力が落ちるし、相手の攻撃を躱せない時の被害が大きい。

 バランス型の場合は安定しやすいが、近接職と魔物が密着している場合が多い関係で、どうしても攻撃機会が減る事になるし、近接職の負担も大きい。また、連携が上手くできていなければ、そもそも攻撃機会を確保する事自体が難しくなる。

 遠距離型の場合は上手くはまれば一方的に蹂躙することが可能だが、相手をこちらが先に発見していることが前提となる上、崩れたときに非常に脆い。不測の事態も発生しやすく、よほど熟知している場所を探索するのでなければ、採用されることは少ない。


 今回のメンバーの構成としてウェインが近接職なので、バランス型の戦術を採用している。

 総合職が5人で近接職1人というのはバランスとしては決して良くはないし、そもそも総合職は近接職を下に見る傾向にある。

 今回のメンバーでも、フェリアがリーダーとしてバランス型の戦術をとることを宣言したが、一応反対意見は出なかったものの不満気な者がいた。多分、戦闘が思わしく行かなければ、戦術変更を言い出したであろうことは想像に難くない。

 それなのに、蓋を開けてみれば全く反対の結果である。


 恐らく、フェリア以外のメンバーは、そこまで疑問に思っていないだろう。あるいは、自分の能力が思っていたよりも高いと、自信を深めてすらいるかもしれない。

 だが、フェリアは己の能力がどの程度か、ということをこれまでの経験で明確に突きつけられている。

 魔法学院の中では最上位クラスではあるが、探索者から見れば駆け出しもいいところ。

 自らの能力を磨くために参加したいくつかの実戦でも、ベテランの探索者の支援を受けてですら思うような働きはできなかった。

 特に、フレンドリーファイアをしない・させないためのポジション取りや、近接職を巻き込まないための射線の確保などは、本当に難しかった。

 また、少しでも集中力を切らせば、せっかく近接職が作り出してくれた攻撃機会を逃してしまい、いたずらに戦闘を長引かせてしまう。

 その時の探索者に言わせればフェリア自身の能力が低いのではない、むしろ育成途中である事を考えればかなり動けている方だという評価は貰った。

 だが、実際に一緒に活動した探索者を見れば、あまりの違いに落ち込まずにはいられなかった。


 そして、魔法学院の中等部では、フェリアのように自ら進んで実戦の経験を積もうとする人間は少数派だ。普通の学生は、学院でのカリキュラムをこなすのに精一杯で、とてもそんな余裕は無いのである。

 だからこそ、今回の探索カリキュラムは、一筋縄では行かないと思っていた。

 相対する魔物はどれも最下級の相手ばかりだが、それでも何度も失敗を繰り返し、パーティーとして成長しなければ成功は覚束ないはずだと。

 実際にこのカリキュラムを一発で突破する割合は、非常に低い。

 しかも、それまでの成績が優秀だった生徒で編成されたパーティーでも、結構な確率で初回は失敗する。

 おそらく、それまでのカリキュラムで得た自信が悪く作用し、探索中に問題点を修正できずに終わってしまうからだろう。


 それなのに、まるで以前の経験が嘘のように魔物を処理できているこの現実。

 これまでの経験は一体何だったのだと思うほどに、いとも簡単に攻撃を当てられる、いや当てられてしまう。

 その真の理由は薄々分かっている。それは参加している自分を含めた総合職5人の実力が要因ではない。

 ウェインの近接職としての能力が、おそらくずば抜けているのだと。

 だが、フェリアも攻撃に参加しながらだと、やはり全体をしっかりと把握するにはまだまだ能力が足りない。

 だからこそ、次の戦闘では支援に徹し、全体の把握に務めることにした。


 そして挑んだ次の戦闘で、ようやく何が起こっているかを把握した訳だが、目の前で起こっている事だというのに信じられなかった。

 ウェインの近接職としての能力がずば抜けている、どころの話ではない。

 しっかりと魔物を抑えながら、味方の攻撃準備が整ったら、まるでそれが予知できていたかのようなタイミングで攻撃機会を作り出す。

 そして味方の攻撃により、自分から注意がそれかけた魔物を間髪入れずに抑え込む。

 それだけでなく、味方への被害が及びにくいよう魔物を誘導し、自らのポジションもこまめに修正する。

 挙句には、味方が攻撃しやすいポジションになるよう魔物を誘導する。

 つまり、ウェイン以外の人間が何も考えずに攻撃しても、それが成立するように戦闘をコントロールしているのである。

 それを実際に行うとなれば、どれだけ難しいかは想像に難くない。

 何せ、いくら最下級の魔物とはいえ十分に脅威になりうるような攻撃を捌きながら、味方4人(フェリアが参加していた時は5人)の攻撃が入り乱れるのだ。

 各々の得意とする魔法も違えば、発動タイミングもバラバラ。その組み合わせのパターンは膨大で、とてもではないが予めパターン化できるようなものではない。

 第一、その為の打ち合わせや取り決めなど全く行っていない。

 となれば、戦闘中に魔物だけでなく常に味方の状況を把握しながら、その殆どをアドリブで組み立てているはずである。

 最初はただの偶然かと思ったが、戦闘が進んでいけば明らかに意図的だと考えざるを得ないほど再現性が高い。と言うか、再現性が高いどころか、味方が攻撃をキャンセルせざるを得なかったり、遅らせなければならないということが殆ど発生していない。

 確かに感知力が高ければ、他者の魔法の準備や発動タイミング等は、ある程度把握できる。だが、それを魔物の攻撃を捌きながら4~5人分全て把握するなど、はっきり言って人間業ではない。

 他のメンバーも、実に気持ち良く魔法を使っているように見える。

 それはそうだろう、自分が特別な動きをしなくとも、ただ魔法を準備し放つだけで確実にダメージを与えられるのだから。


 だがフェリアからすればそれは、あまりにも非現実的な事態なのだ。ウェインの実力には、もはや寒気すら覚える。

 以前実戦に参加した時の近接職のベテラン探索者ですら、ここまでの動きは出来ていなかったのではないか。

 むろんそれは、相対する魔物のレベルの違いもあるので、より上位の魔物に対してウェインが同様に動けるか未知数ではある。

 しかし、その時に教えてもらった話では、ある程度一緒に戦闘をし癖をつかんだメンバーでなければ、攻撃機会を多く作り出すのは難しくなるとのことだった。

 また、単に魔物の攻撃を捌くことよりも、仲間の攻撃機会をしっかりと作り出しタイミングを合わせる方が難しいとも。

 それなのに、ウェインは初めて戦闘を共にする仲間であるにもかかわらず、まるで全て台本通りと言わんばかりに、敵味方の状況を把握し、魔物をコントロールし、攻撃機会を作り出している。

 そのことを考えれば、おそらくこのダンジョンで遭遇する魔物より相当上のレベルであっても、同じ様に動けるのではないかとすら思える。

 一体どれほどの経験を積み重ねれば、ここまでの領域に至れるのか。


 ウェインの共通理論における成績は確かにずば抜けていて、これまで一度たりともトップの座を譲ったことがない。

 一応同点首位になれた生徒は僅かにいるが、それは互いが満点だったからであり、単にこれ以上は測定不能という結果でしかなかった。

 しかし一方で、共通実技においてはかなり平凡で、せいぜい平均をやや超えているくらいだろう。

 学院では実技を重視する人間が多く、それは将来就く職や現状で求められる人材を考えればむしろ当然と言える考え方でもある。

 だからこそウェインは、ある程度の評価は得られているものの、そこまで優秀という評価は得られていない。

 専門実技についてはこれまた断トツのトップであることは聞いていたが、共通実技の成績から判断して他と比較して大きく抜きん出ているとまでは思っていなかった。

 しかしこうして一緒に戦ってみれば嫌でもわかる。彼の実力は互いの特性が違うということを考慮しても、自分たちとは隔絶しているレベルにある。


 学院内でそこまで評判にならなかったのは、パーティーでの動きを試すようなカリキュラムが殆ど無いからだろう。

 基本中等部までは、個人としての力量が重視され、評価も単独で行うものが大半を占める。

 それならば、ウェインの能力はいくら近接職の中では抜きん出たトップだったとしても、他コースではそこまで耳目を集めなかった事にも頷ける。

 どれほどずば抜けた能力を持っていようと評価項目が無ければ測定できないし、あったとしてもその基準が低ければ、最高値を超えた部分は測定不能にしかならないからだ。


 気が付けば、ウェインの動きをずっと追っていた、あるいは見とれていたと言ってもいいかもしれない。

 そして、その動きの中に多くの学ばなければならないことが詰まっている。

 観察を始めて最初の戦闘は途中で我を忘れて見入ってしまったが、次の戦闘から自分がどうすればいいかを真剣に考えながら動いた。

 とりあえず意識したのは、「自分がやりたいこと」だけを考えないということである。

 以前探索者と一緒に実戦に臨んだときは、あくまで「自分がどうすべきか」という事にしか頭が回らなかった。

 だが、今日のウェインの動きを見ていれば、「仲間がどうしたいか、どうしようとしているか」を考えて動いているのが明白である。

 それならば、攻撃する側もそのことを意識するだけで、違うはずだ。


 そう考えて臨んでみれば、いかにこれまで自分が独りよがりだったかを思い知らされる。

 例えば、誰かが攻撃準備を整えた時に自分も攻撃のタイミングを合わせれば、ウェインが攻撃機会を作り出さなければならない機会が減る。そうすればウェインの負担がそれだけ減り、また効率が上がるはずである。

 まあ、全員のタイミングが一致することはまた別の問題があるが、かといって全員がバラバラなのはやはり効率が悪いだろう。

 幸いなことに、その程度ならすぐに対応できる技術が自分にはある。

 魔法を準備する際に速度を重視して構築したり、準備を終えた魔法をすぐに放たずにある程度保持したりすることも可能なのだ。

 この程度のことは、少し考えればすぐに思いつくことだし、さして難しいことでもない。

 ウェインのように全員の状況を確認する必要はなく、誰か任意の一人のタイミングに合わせればいいのだから。

 それなのに、これまでそういう風に頭が回っていなかった。

 それは、どうすれば上手く連携できるかを考えていたようで、実際にはまだまだ自分の事ばかり考えていたということであろう。

 以前探索者と一緒に実戦に赴いた際に、上手く動けている探索者の真似をしようとしても、良い結果に繋がらなかったのは当たり前だ。

 上辺だけの行動を真似しようとしても、その根幹にある考え方を理解していないのでは、上手く行くはずが無い。


 一度きっかけをつかんでからは、次々に改善すべき点が見つかった。

 例えば単純に最速で攻撃するだけではなく、「あえて攻撃しない」という時間を作ること。

 攻撃だけではなく純粋な支援を行う時間を作ること。

 攻撃に緩急をつけることで、魔物の対応力を意図的に下げること。

 やればやるだけ戦闘の効率が上がり、全体の消耗も抑えられるようになっていく。


 さらに言えば、近接職として動いているウェインをサポートすることもまた非常に大事なのだと気づかされる。

 本来一番消耗が大きい役回りのはずで、あくまでウェインの実力が異常に高いからこそ当たり前のように状況が成立しているに過ぎない。

 例えばこれがフェリアたちと同レベルの近接職であれば、あっという間に消耗し、何度も休憩を挟まなければならなかっただろう。

 それどころか、近接職が魔物を抑えられなかったり、そこまで行かずとも倒すのにひどく時間がかかったりしたことはまず間違いない。

 もっと言えば、そういった状況がさらに悪化することで、大きな負傷を負う者が出ても不思議ではない。

 戦術として近接職が魔物を抑え、ほかのメンバーが攻撃や支援に回るといっても、近接職が魔物を抑えられるのが当たり前、と考えること自体が危険なのだ。

 近接職が仲間に被害が行かないように、攻撃機会を生み出せるように立ち回るのと同じように、仲間もまた近接職に負担が集中しないように、あるいは戦線を支えられるように協力しなければ、いずれ破綻してしまう。

 今回自分達はバランス型の戦略を採用しているが、おそらく他の戦術を取ってもまた違った注意が必要なことが、たくさんあるのだろう。

 おそらく、この点について理解の浅いチームが、このカリキュラムを突破できずに終わるのだ。


 それにウェインとて、自分達の様な未熟なメンバーばかりでは、常に盤石に戦況をコントロールするのは難しいようだ。

 よくよく観察してみれば、悪い偶然が重なったりして僅かながらも状況が崩れかける瞬間があった。

 もちろんそんな場合もウェインが瞬時に対応していたが、無理をさせていることに変わりはないし、個人の力量で強引に問題点を抑え込んだに過ぎない。

 まあそれを言い出せば、殆どの問題をウェイン一人で解決しているような状況ではあるのだが……

 状況がここまで進んでしまって気付くのは、あまりにも遅すぎる。今にして思えば、探索開始前に多くの打ち合わせや認識のすり合わせが必要だったのだろう。

 誰が何を得意としているかといった大雑把な情報だけではなく、何が出来て何が出来ないのかの詳細や、戦闘時の立ち回りの決めごとなど、いくらでも確認しなければならないことはあったはずだ。

 自分たちがやった程度の話し合いでは、殆ど何も話していないのと同じである。ウェインがミーティングの終わりにあえて確認したのも、当たり前であろう。

 あまり強く主張しなかったのは、ウェイン自身の能力が非常に高いので、それでも問題が無いように戦況をコントロール出来ると踏んだからなのだろうが。


 だが、こうなってしまってからでは手遅れだ。なまじ探索が上手くいっているために、改善点を話し合うという雰囲気にもなりにくい。

 何より、この状況の殆どがウェインの実力によるものという事実は、フェリア以外の4人の総合職は決して認めないはずだ。

 それならば、せめて自分だけでももっと立ち回りを改善すれば、少しはウェインの負担を減らせるかもしれない。

 まずは、やれるだけのことをやってみようと、強く決意するフェリアだった。

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