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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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5.前途多難(ウェイン視点)

 集合し互いの荷物に問題が無いかのチェックを行い、ウェインとフェリアは頭を抱えていた。要因は、メンバーの内ハリエットとケネスが持ち込んだ食糧である。念のため、ということで各自の装備チェックで問題が発覚したのだ。

 通常今回のようなダンジョン探索の場合、国が開発した携帯食を持参するのが鉄板である。これは極めてコンパクトでかさばらないながら非常に高い栄養価を誇り、味もまずまずでそれなりの満足感も得られ、おまけに常温で長期の保管が可能という非常に優れたものだ。

 ただでさえ大きなストレスがかかる生存圏外での活動において、食事というのは馬鹿にできない。特にその活動がある程度長期なるのであればなおさらである。

 だからこそ国は威信をかけて研究開発を行い、優れた携帯食を開発したのであり、未だなお継続して研究・改善中だ。

 ウェインたちのような駆け出しにとっては他に選択肢はないレベルの品物で、今回の探索においても皆これを持ってくるだろうと思っていた。

 確かに価格的には高価であるが、逆に言えばそこ以外には文句もつけようが無いほどに優れた品物なのだから。

 だがそのお金を惜しんだのか、準備を忘れていたのかは知らないが、2人が持参したのは携帯食では無く保存食。

 確かに言葉のニュアンスだけを見れば似たような品に思えるのかもしれないが、その内容においては天と地の差がある品物なのである。


「ちょっと、二人して何よその態度は!」

「そうだぜ、言いたいことがあるならはっきり言えよ!」


 そんなウェインとフェリアの態度に、納得がいかないのか声を荒げる二人。

 どちらかというと、総合職の中でもさらにトップクラスであり、このチームのリーダーであるフェリアならともかく、ウェインまでもがそんな態度を取ったことに腹を立てているようではあるが。

 だが、こんなことをされれば呆れもする。総合職というのは成績上位者の集まりだったはずなのだが。


「・・・まあ、論より証拠か、その保存食を出してくれ。」


 ウェインの言葉にまだ納得がいってないながらも、買ってきたものを取り出す二人。その包みを解き中を確認すると、両方とも出てきたのは堅パンと干し肉である。

 保存食の中では一番オーソドックスなものなので、そういう意味では妥当だろうか。何の慰めにもならないが。


「じゃあ、これを食ってみろ。」


 心の中で食えるものならな、と言いつつナイフでわずかに削り取り取り、二人に差し出す。それを口にした直後に血相を変え吐き出す二人。


「ちょっ!何これ辛っ!」

「なんだこれ、まるで石じゃねえか!噛めるかこんなもん!」


 そう言いながら、同時に口に含んだものを吐き出す二人。

 まあ当たり前だ、そもそもその二つの保存食は調理して食べることが前提の代物で、そのまま食べられるような代物では無い。

 堅パンの方は硬すぎて鉄板の異名を持つほどだしし、干し肉の方は塩と香辛料がいる。

 事前にそのことを抗議されれば食べることは勘弁してやったが、知らないからこそ買ってきたのだろうし、言われるがまま口に含んだのだろう、自業自得である。


「当然だな、それらは単に食料として保存する事だけを考えて作られてて、実際に食べる場合は何かしら手を加えないとまともに食える様な代物じゃない。

さて、そこで聞くが、二人ともそれらを食べられるよう調理するための準備を、きちんとしてあるのか?」

 そんな二人をジト目で睨みながら問い詰めると、明らかにひるんだ顔をする。当然、準備などできているはずもないだろう。

 というか、もしそのつもりなら、その他にも食材や調味料を持ち込んでいる。


「・・・くそ、あのおやじだましやがったな!」

「そ、そうよ!後で文句を言って・・・」

「そんな訳あるか!」


 そう責任を転嫁し購入した店のせいにしようとする二人を一喝する。その剣幕にびくりとし、思わず伺うような目でウェインを見る。

 口ではそういいつつも、流石に自分達に非があったこと位は内心分かっているのだろう。


「いくら駆け出しとはいえ、探索者志望、それも王立魔法学院の生徒を騙そうなんて人間はいないし、携帯食を扱っているのは国直属の許可された機関のみだ。

この町で俺たちが購入出来る所は、それこそ探索者協会か、学院の購買部に依頼して取り寄せてもらうしかない。そして、そのどちらでも保存食なんて扱ってないし、保存食を扱ってるような店では携帯食を販売できない。

そもそも、許可された人間以外は購入に申請が必要な代物で、他の商品を間違えて買うなんて事態が起きるか。大方、注文するのを忘れていて、気付いた時にはこの探索に間に合わないタイミングだったとか、そんなところだろう。

第一、自分が購入する物の確認を自分ですることなんざ、探索者じゃなくたって当たり前だ。それを怠ったばかりか、他人が指摘するまで気づかない時点ですでに相当まずいが、あまつさえその責任を転嫁するのは論外にも程がある。」


 その言葉に、流石に反論できずに黙り込む二人。

 だが、ここで二人をこれ以上問い詰めたところで、状況が好転するわけでもない。


「まあ、これ以上はここで言ってもしょうがない事ではあるが……

リーダー、どうする?」


そういって、フェリアに判断をゆだねる。


「どうするもなにも……ここまで来てしまっている以上、選択肢は二つしかないわ。

二人には諦めてもらってその食糧で今回の探索に臨むか、現時点でギブアップを宣言し今回の探索を諦めるか。少なくとも、今から準備をやり直すことは間違いなく許されないわ。

私としては、無理に探索に臨む危険性を考えれば、出来ればギブアップを選択したいのだけれど……」


 迷いながらも発したフェリアの言葉に感心する。

 明らかに自分の責任で起こった事態ではなく、しかも一部だけの問題に見える事柄を、正確に評価し判断している。

 確かにまともな食料を持参していない人間が二人いるという事態は、いきなり探索を中止する程かと疑問に思う者もいるかもしれない。

 だが、短く見積もっても3日は帰れない探索に臨む以上、それは明らかに致命的な事態だ。それなりに苛酷になるだろう探索で3日もろくに食べるものが無い人間がいる、という時点でも相当にまずいし、それが引き起こす事態を予想すれば猶更リスクは取るべきではない。

 空腹からくる集中力の低下、連携の乱れ、チーム内の不和の発生、それらは容易にチームを危機に陥れるだろう。

 それが、明らかに経験不足の自分たちの様な駆け出しであればなおさらである。


 因みに、それぞれの感情を抜きに最も探索を成功に導きやすい方法は、全員で携帯食を分け合うことである。4人分で6人に分配となればかなり不足気味にはなるが耐えられないほどではないし、念のために余剰分を持ってきている人間がいればそれなりに賄える。

しかし、いきなりそれを提案するとしっかりと準備してきた人間からの反発は強いので、協力して何とか解決しよう、という雰囲気にならなければ提案は難しいだろう。

 フェリアが先にギブアップを提案したのも、恐らくそのためだ。

 だが悲しいかな、自分たちが未熟であればこそ、それだけ的確な判断を出来る人間ばかりではないだろう。特にエリートコースにあり、熾烈な競争の最中である総合職コースの人間であれば、なおさらである。


「ちょっと、それはいくら何でもあんまりじゃない!?」

「そうだよ、第一持ってきたものがまずかったといっても、食べられるものではあるんでしょ?だったら、二人には悪いけどそれで我慢してもらって、探索に臨むべきだと思うな。」


 残りのエッダとニコが発した言葉にフェリアは苦渋の表情を浮かべ、保存食を持ってきた二人は絶望的な表情を浮かべる。

 まあ確かに、保存食は食べられるか食べられないかで言えば、食べられる方には分類される。だが、あれで3日間何とかしろという言葉がどれだけ無茶な要求かは、実際に口にしてみなければわ分からないろう。

 しかし、だからと言って自身には全く落ち度はないのに、他の人間のミスにより挑戦前に諦める、ということに納得できないという心情ももっともではある。

 そして、ここまで助け合おうという意思がなければ、ここでいくら議論しても良い案は出まい。


「はあ、しょうがない、夕食時に食べる分については、俺が何とかしよう。こんな事態想定していなかったから、普通の食料のストックがあまりなくて3日間となるとかなり心もとないし、探索の効率を考えれば昼食は大分我慢してもらうことになるが……

ただ調味料と水についてはある程度余裕があるから、何とかなるだろう。」


 妥協案として、そう申し出る。そのウェインの言葉に驚いたのか、皆の視線が集中する。


「まさか……調理器具を持って来てるの?」

「簡易的な物だがな。ただまあ、特殊な処理をしなけれならない食材とかならともかく、保存食程度ならばどうとでもなる。」

「え……でも、そんな大層な荷物を持っているようには見えないよ?一体どこに?」

「これを持っているからな。」


 そういって見せたバッグに、更に疑惑の視線を向ける4人。そこまで大きなバッグではないし、中身が詰まっているようにも見えないだろうからだ。

 だが、フェリアだけは違ったようだ。


「それ……ひょっとして容量拡張付き?」

「さすがだな、見ただけで察するか。ああ、厳密に言えば容量拡張と重量軽減のハイブリッドタイプだな。普段はもう少し色々と入れてるんだが、レギュレーションの関係で減らしている。

とはいえ、別に調理関連の器具は関係なかったからいつも所持している物と変わらないし、この程度であれば問題なく対処できる。」

「でもそれ、違反にならないかい?大丈夫?」

「問題ない、事前に持ち込むことを申請し、中身もチェックの上で正式に許可されている。

そもそもレギュレーションは、それぞれの実力を正確に測るために強力な武具を持ち込むことを制限した決まりが殆どだからな。」


 魔法により装備や道具の性能を上げるという試みは無数にあり、カバンであれば容量拡張、重量軽減といった魔法がメインストリームだ。

 容量拡張はその名の通り見た目の大きさよりも多くの荷物を入れられるようになり、重量軽減は中に入れた物の重さを軽減してくれるという、どちらも探索者にとっては無くてはならないレベルの魔法付与である。

 もっとも、容量拡張も重量軽減もその程度により加速度的に難易度が上がってゆく。その為、一つあたりの付与する能力はそこそこのところで妥協し、二つを重ね合わせることで利便性を増す事が一般的だ。

 ウェインが持っている物は重量軽減がそこそこで、容量拡張が大きめのバッグである。もちろんこれだって十分に高価な代物ではあるのだが、それでも現実的な価格で買える範囲のものではある。

 何故ウェインがこれを持ってきたかと言えば、仮登録している探索者協会での活動に使用している物を、そのまま持ってきたからだ。

 今回のカリキュラムはここまでの性能が必要な探索ではないが、いちいち性能が劣るカバンをこの探索の為に新たに用意する意味が無かったのである。

 他のメンバーに説明した通り、持ち込みが禁止されている物は置いてきてあるが、そうで無い物は普段の探索時と同じなのが幸いした形だ。


 ちなみに極めて希少な品になるが、中には更にえげつない能力を持ったバッグも存在する。

 もっとも、そんな品は天文学的な価格になるし、そもそも相当な信頼を勝ち得た人間でなければ購入できず、ウェインたちの様な駆け出し未満にとっては縁のない品である。


 基本探索は、自分のことは自分で面倒を見るのが原則であり、ウェインがやろうとしていることはあまり褒められたことではない。

 だがしかし、今回に限っては妥協するしかないだろう。そうでなければそもそも探索自体を行うことが困難となれば、背に腹は代えられない。


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