34.追う者と後に続く者③
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「もちろん、戦闘中にだけ連携を気を付けていれば良い訳ではないわ。まずは事前によく話し合い、戦闘で起こりうるケースをなるべく想定し、どう対応するのかを決めておく。戦闘が終わったらその都度話し合い、事前の想定がどうなったのかをチェックする。良かった点があれば皆で共有し、悪かった点があれば修正するための新たな対策を話し合う。
そういった細かなコミュニケーションを何度も繰り返すことで、初めて連携して動くということが成り立つの。もっとも、戦闘時に起こりうる事態はそれこそ無数にあるから、全てのケースを想定するのは非現実的で、ある程度のアドリブはどうしても必要だけどね。それでも、大まかな方針を立て、重大なリスクを孕む行動を防ぐだけでも、相当に変わるわ。」
確かにそれはそうだ。
そ れに、常に想定外のことが起こりうる事を考えていなければ、いざというときに適切な行動が取れなくなりそうだ。全てを想定通りに相手を追い詰めることが出来れば理想なのかもしれないが、それを目指すことは危うさも増してしまう気がする。
特にレミリア達のように未熟者の集まりでは、猶更無理がある。大事なのは、想定外の事態が起こることも考え、更にその場合の判断の優先順位を決めておくことだろう。
「そして、戦闘が終わったら全員にねぎらいの言葉をかけるような、気遣いもなるべくした方がいい。話し合いをするときに、お互いが冷静だったりポジティブな状態なら受け入れられる事が、ネガティブだったり上手くいかなかった犯人探しの様な雰囲気だと、むしろ更なる諍いの種になったりするからね。
確かに連携が大事と言葉で言うと、とてもシンプルで簡単そうに聞こえる。けれど実際には、経験や知識はもちろん、観察力、状況判断力、コミュニケーション力等、多くの能力が試されることなの。そして、その探求に終わりはないわ。
一度連携が出来れば、次はその連携を安定して出来るようにする。次に、さらに高度な連携を目指す。他にも、自分にできることが変化すれば、当然連携の仕方にも幅が生まれ、新たな可能性が生まれるわ。連携は確かに基本ではあるけれど、簡単だということも、単純だということも意味しない。常にその質が問われる、ある意味究極の技術でもあるのよ。」
話を聞きながら、自分の中に新しい感情が生まれている事に気付く。それは、自分が出来なかった、気付かなかった事への落ち込みよりも、凄いという興奮の方が強い。
何より、もし自分がそれを出来るようになったら、一体どんな景色が見えるのだろう?とワクワクする。
「ふふ、良かった。どうやら、悩みを晴らすのに役立てたみたいね。」
その言葉に凝視していた説明のための模型から顔を上げると、微笑んでいるフェリアの姿があった。この人は本当に凄い人なんだ、と改めて実感する。
もちろん情報として聞いた事を疑っていたわけではないが、こうして凄さを実際に目の当たりすると、やはり尊敬を覚えずにはいられない。
「ええっと、この事態を起こさないためには、何に気を付ければいいんでしょうか?」
「いくつか方法はあるけれど、一番取り組みやすいのは、魔物の動きにあまり左右されずにお互いの位置関係を維持することね。もちろん、魔物に近づきすぎたら距離を離したりといったことは必要だけど、向きを変えるくらいのことではポジションを変えない。常に味方の位置を把握し、お互いの射線に入らないこと、近付きすぎないことを重視する。
あと、魔物に対する配置も、せいぜい半円状位にした方がいいでしょうね。そうすれば、魔物の行動もある程度制限されて、大きな状況の変化が起こる可能性を減らせるし、フレンドリーファイアも起きにくい。まあ、これはバランス型の戦術に近いけれど、例え全員が総合職だったとしてもこのやり方が最初は一番やりやすいと思うわ。
これだけでもだいぶ違うと思うけれど、正面にいる人が固定されがちになってしまうから、近接職がいない場合は特にそこは事前に相談した方がいいわね。同じ人が立ち続けるのか、どこかでスイッチするのか。もちろん魔物がターゲットを変える場合も想定して、どうするかを決めておかなければいけない。反射的に魔物の正面から逃れようと動いてしまうと、また衝突が始まってしまう可能性があるからね。」
こちらの質問に対しても、明瞭な答えが返ってくる。それは非常にわかりやすく、言われてみれば自分のレベルでも、しっかり意識さえすればすぐに実践できそうだった。
「ちなみに、他にもやり方ってあるんですか。」
「もちろん。相手の特性や仲間の特性にもよるけれど、他にも様々なやり方があるわ。
例えば、先ほど私が説明した方法とは全く逆に、全員が常に魔物の周囲を移動しながら攻撃する戦術。互いのポジションを目まぐるしく変えることで、相手に的を絞らせず翻弄する訳ね。本来、火力重視・機動力重視の戦術は、このやり方を指すわ。ただこの方法は、ある程度お互いの癖を把握していて、連携できるようになっているパーティーじゃないと難しい。
お互いのポジションが目まぐるしく変わるというのは、メリットもあればデメリットもある。相手の予想外の動きに対応できなかったり、ふとした瞬間に味方の射線に入ってしまったりとかね。また、状況が目まぐるしく変わるのは自分たちも同じで瞬時の判断を求められるし、スタミナや集中力の消耗も激しいからね。」
そうなのか、と感嘆するもこちらはすぐに、いやこの探索では実践するのは難しそうだ。本来は、全員総合職だからというだけの理由で簡単に選択できる戦術では無いのだろう。
まずは最初に教えてもらった方法を試すのが、自分たちにとっては現実的だろう。
「こういう踏み込んだ連携の話って授業では習わなかったと思うんですけど、多分学院はこのことを重視しているからこそ、このカリキュラムがありますよね?何で授業で教えないんでしょう……」
「学院はどうやら、自分たちで気付かなければ身につかない、と考えているようね。だから、表面的な説明はするものの、その実践の仕方までは教えないとしているみたい。まあ、その意図も理解できない訳ではないけれど。」
「フェリア先輩は、違う意見なんですか?」
その言葉に否定的なニュアンスを感じ取り、質問してみる。
「ええ、私は大抵の物事を身につけるには、自分で気付くか他人に教えて貰うかで大きな差はつかないと思っているわ。大切なのは、真の意味を理解するまで、身につくまで反復すること。それこそ、全く意識せずとも自然と体が動くようなレベルまで、ね。
それに教えてもらった知識を自分で実践してみれば、身についているかどうかなんてすぐにわかることだし。だから、もし既に答えがわかっている問題なら、さっさと教えてそこから実践し、実際に自分が出来るようになるまで反復した方が効率がいい。
教えてもらって頭で理解したから、もう自分は大丈夫だと思って実践も反復もしない人間は、自力で正解にたどり着くために必要な試行錯誤が出来るかどうかも怪しいでしょうしね。」
「なるほど。」
今まで悩み、憂鬱だった気持ちが嘘のように晴れている。代わりにあるのはワクワクした気持ちと、もっと多くを知りたいと思う好奇心。
ただ、この場でフェリアに教えてもらうのは、ここまでだろう。
もちろん聞けば教えてくれるだろうが、ただでさえ相手の好意で助けてもらえたのだ。流石にこれ以上は図々しいと思うし、何より自分で考えたり試行錯誤することが大事じゃないということでは無いのだから。




