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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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33.追う者と後に続く者②

「そうね、レミリアさん達は、探索時に魔物との戦闘で、どのような戦術を採っていたのかしら。」

「ええと、一回目も二回目も皆総合職だったので、全員アタッカーを……」

「なるほど、火力と機動力重視型か。じゃあその戦術について話していきましょう。」


 そういって、ノートとペンを取り出すフェリア。

 

「まず前提ね。基本的に魔物は、その力の強大さからパーティーで当たらなければならない。まあ、ウェインの様に災害級の魔物ですら単騎でいとも簡単に薙ぎ払いかねないようなケースもあるけれど、それはあくまで例外として。そのために必要なことは、分かるわよね?」

「はい、パーティーの連携、です。」

「そう、それが学院で習うことだし、あまりにも当たり前のことだから、多くの人がそれを聞いた時に、そんな当然のこと自分は理解していると思ってしまうわ。ただ、この連携というのが思っている以上に難しいことなのよ。」


 そういってノートに簡単な図を書くフェリア。大きな円が一つと小さな円が六つ。大きな円が魔物、小さな円が自分たちだろう。


「先ほど聞いた通り、全員がアタッカーを務めるという戦術で説明していくわね。まず、この戦術を取る時に、仲間と連携して気を付けなければならないことは何かしら?」

「ええと、一か所に固まらないこと。魔物の攻撃を各自で捌けるように、油断しないこと。そして、仲間に魔法を当てないよう気をつけること、でしょうか?」

「ええ、それで合ってるわ。では、その考えのもと、チームはどのように動くかしら。あるいは、前回の探索での戦闘時に、仲間はどのように動こうとしていたかしら?」


 そう問われ、答えに詰まる。そこまで考えていなかったし、失敗に終わった探索の時も、よく考えてみれば自分の事ばかり考えていて、仲間の動きがあまり見えてなかったかもしれない。


「やっぱり、そこで詰まってるか。まず、散開しようとチームはこう動く……図だと説明しにくわね、こうしましょうか。」


 そういって持っていたノートの紙をいくつか破り、大きな球体一つ、小さな球体6つを作る。そして、大きな球体には一本目印で線を入れてある。


「この大きな球体が魔物で、目印がついているところが正面ね。まず、チームは一か所にまとまっていては駄目なので、散開しようと動く。」


 そういって、魔物の周囲に散らばるように小さな級を動かす。ここまではレミリアも分かるし、仲間の動きを追えていたと思う。


「さて、人間の心理として、魔物と戦闘するときに、自分は攻撃のターゲットになりたくない、と考えるわ。次に、魔物に攻撃を当てやすい位置から攻撃したいと考える。両方を満たすポジションで最適な場所は、魔物の背後ね。」


 とんとんと、大きな球体の目印とは逆の方向を指で指し示す。それもまた理解できるし、自分も無意識にそう考えて動いていたような気がする。


「ところが、この考えは当然6人いるパーティーメンバー全員が抱く可能性が高いわ。まあ、全員が同じように動く訳ではないけれど、事前に打ち合わせをしていなければ、行動が重なってしまう人間が出てくる。これが最初の衝突で、良ポジションの奪い合いね。」


 そう言って、6つの小さな級のうち3つを、魔物の背後に動かす。


「しかしそうは言っても、一か所に固まってはいけない事もまた、それぞれで理解している。だから、一番良いポジションは諦めて、次に良いポジションを探す。そこに出遅れた人間は、また次のポジションへ、という形ね。」


 そういって、小さな級を魔物の真後ろから、やや側面に回った位置、完全な側面、斜め前方、正面と順次配置していく。

 そして、魔物を取り囲むような配置が完成した。


「さて、これで一番最初のポジションが大体決まったわ。魔物を全員で取り囲み攻撃するというのは、一見非常に有利なように思えるけど、大きな欠点もまた併せ持っている。何かわかるかしら?」


「ええと……?」


 一生懸命頭を巡らすが、思い浮かばない。四方八方から攻撃できるのだから、魔物も躱しにくいように思え、よい配置だと思うだが……


「そうね、わかりやすいようにこれを使いましょうか。これは、それぞれのメンバーの射線だと思ってちょうだい。」


 そういって取り出した定規を、メンバーのうち一人と魔物を結ぶように置く、すると、その向こうにいるメンバーともまた、結ばれてしまうことに気づく。

 他のメンバーにしても似たようなもので、仮に重ならなかったとしてもそれぞれの射線に近い人間が多い。


「もしかして……魔物が回避したり魔法を外した時に、フレンドリーファイアが起きやすくなる……んですか?」

「正解、これが第二の衝突、フレンドリーファイアの発生ね。直接は当たらずとも、攻撃魔法が近くを通過するだけで危機感を抱かせてしまう。しかも、魔物が回避行動をするまでその体が視線を遮っていている事も多くて、反応に遅れやすくもなるわ。」


 満足そうにうなずき、更に説明を続けるフェリア。

 確かに失敗した探索時の戦闘は、何度かひやりとする場面があった。自分の注意が足りてなかっただけかと思ったが、根本的な問題があったらしい。


「さて、先ほど言ったように、魔物の攻撃に出来ればさらされたくない、というのは誰もが抱く思いよね。となると、魔物の背後に回ろうとまではしなくとも、正面に立ちたい、立ち続けたいなんて人間はいないわよね。」


 そう言って、魔物の正面から級を動かし、魔物の正面からメンバーがいなくなる。


「魔物は攻撃したいわけだから、当然に向きを変えたり移動することになる。そうなるとメンバー全員の魔物に対する相対的な位置が変わることになる。」


 そう言って魔物の向きを変える。先ほど魔物の真後ろにいたメンバーは魔物の斜め後ろ後方に、斜め後ろ後方にいた人間は真後ろに、という風に変化する。


「ここで何人かは、無意識に今までいた魔物との相対的なポジションを維持しようとする。特に真後ろを確保していた仲間は、もう一度真後ろをとろうとする可能性が高い。しかし、そこにはすでに他の仲間がいる上、その仲間は魔物の真後ろという好ポジションになったのだから、その場所をキープする可能性が高い。

ここで第三の衝突が起こる。魔物の行動が要因の状況変化による、新たなポジションの奪い合いね。あとこれに加えて、魔物の正面から逃れようとした人間は、別の人間とポジションが近くなったりもするわ。」


 気が付けば、食い入るようにフェリアが動かす戦況の変化を見つめている。それは非常にわかりやすい、しかし今までに無い視点からの説明だった。


「魔物が誰かを改めて正面に捉えて攻撃したとしましょう。まあ当然それはその仲間が凌ぐことになるわけだけれど、わざわざ敵の攻撃を受け続けたい、という人間もまたいないわよね。そういう訳で、その仲間は魔物の正面から逃れるように動くわ。」


 そう言って、魔物の正面から更に球を移動する。


「魔物は攻撃を続けるために、当然再び向きを変えることになる。もちろん場合によっては単に向きを変えるだけではなく、移動もするでしょう。そして対象となった人間は魔物の正面から逃れようと動き……とこれが繰り返されることにより、魔物は頻繁に向きを変えたり予想しない動きをしたりするわ。

そうなると今度はさらに重大な問題が起こる。不安定な魔物の行動による、各種衝突の多発化ね。ここに至るまでに何の対策も取らなければ、先に挙げたような衝突が多くなりすぎて解消出来なくなったり、下手をすると連鎖していったりするわ。」


 ぐるぐると魔物の球を不規則動かす、それにより味方の相対的なポジションが頻繁に変わる。

 それに合わせて小さな級の方は動かしていないが、実際の場ではてんでバラバラに動くだろうことが容易に想像がつく。


「こうなってしまうと、もはやチームとしての連携はほぼ望めない。それぞれが自分のことだけしか考えられなくなり、攻撃も防御も上手くいかなくなる。また、度重なる行動の衝突と連鎖により、自分の処理能力を超えてしまう人も出てくるでしょう。そして、やがて均衡すら保てなくなり戦線が崩壊する。

これはあくまで一つの例でしかないけれど、実際の場で連携が崩れそうになるケースはいくらでも発生する。そこで冷静な人間がいれば立て直せる可能性もあるけれど、そもそもそういった事態に陥ってしまっている時点で、かなり望みは薄いわね。」


 確かに、フェリアの言う通りだ。自分たちが挑んだ探索では、魔物との戦闘が後半になればなるほど、チームが混乱していた。レミリアも、自分の事を考えるのに精いっぱいで、どうすれば立て直せるのか、という事を一応考えようとはしていたが、自分がどうするかという事しか考えられていなかった。

 今から思い返してみれば、連携を意識するどころか、周囲の仲間の事に句を配る事すら出来ていなかったような気がする。


「実際の戦闘の場で連携して動くには、考えなければならないことは本当にたくさんあるわ。それも一人一人が個別に考えているだけでは駄目で、お互いの意思疎通が図れていなければならない。本当は探索に挑む前に、何度もパーティーとしての慣熟訓練を行った方が良い位ね。」


 自分は、連携という言葉の意味を、全く理解していなかったのだと思い知らされる。

 学院で仲間との連携がカギになる、という説明を受けたとき、何でそんな当たり前の事をわざわざ言うのだろう?と訝ったものだ。仲間と行動するのだから、協力し合うのは当然ではないかと。

 だが、実際の現場でその言葉撮りに協力し連携して動くということは、自分の想像をはるかに超えて、把握しなければならない事がたくさんあるのだ。

 これに気付けるかどうかが、このカリキュラムを突破出来るかどうかを決めるのだろう。

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