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孤独の果て  作者: 伽藍堂
33/37

32.追う者と後に続く者①

話の中でも書いてありますが、前回の終わりから3年が経過しております。

「ごめんなさい、どうも席が足りないみたいでね。相席お願いできるかしら。」

「どうぞー。」


 絶賛悩み中だったレミリア・ルートフォードは、かけられた言葉に上の空で答える。今いるこのカフェは、非常に人気で席が埋まりやすく、よく相席が発生するので特に気にならない。

 先ほど店内が大きくざわついた気がしたが、すぐに収まったので大したことではなかったのだろう。


 悩んでいるのは、魔法学院中等部卒業に必要な探索カリキュラムである。

 最初の探索は思い出したくもないくらいに、惨憺たる結果だった。その反省を生かし、様々な準備をして挑んだはずの2回目、しかし殆ど前進が見られないくらいの失敗。

 自分たちの実力不足なのはこれほどに無いまでに思い知らされている、だが、足りないものが何なのかが分からない。

 少なくとも、突破しているメンバーを見れば、魔法に関する腕が足りていない、ということはないはずだ。

 となれば別の何かということになるのだろうが、いくらこれまで学んだ事を思い返してみても、答えが見つからない。だがしかし、今のままでは次の探索も同じ結果に終わる可能性が高い。


「一体何が駄目だったんだろ……」


 ぐるぐるとあてどない思考をめぐらせ、答えが見えないまま、独り悩んでいると。


「何かお悩みかしら?」

「ふえ?」


 唐突にかけられた質問に少々妙な声を発し、その質問を投げかけた相手、先ほど相席を頼まれた人物に初めて焦点を合わせる。

 女性から見ても思わず見とれてしまうほどの端正な顔立ち、意志の強そうな瞳、何より特徴的な輝くような銀髪。

 王立魔法学院高等部の制服を来たその女性は、間違いなく学院史上最高の天才と謡われるフェリア・アルジェントその人だった。


「フェ、フェリア・アルジェント様!?」

「周りに人がいるから、大声は謹んでね。そんなにうるさく言われない場所ではあるけれど。」


 苦笑しながらそうたしなめられ、慌てて口をふさぐ。だが、あまりに唐突の事過ぎて、頭は混乱したままである。


「それで、どうやらとてもお悩みの様だったけど、私に出来ることならば相談に乗るわよ?」

「い、いえ!フェリア様に助けていただくようなことでは……!」

「王立魔法学院では身分は関係なくが原則だから、様は要らないわよ。」


 そう言われ、何と呼べばいいか、慌てながら考えた結果……


「で、では、フェリア先輩、で」

「それで構わないわ。」


 さん付けでは何とも砕けすぎた感じがしてしまい、ひとまず当たり障りがなさそうな呼び方を提案する。

 そんな慌てた上に、がちがちに緊張しているレミリアに苦笑しながら、了承を返すフェリア。


「それで……と、そういえば貴女の名前を聞いてなかったわね。教えてもらっていいかしら?」

「は、はい、レミリア・ルートフォードと申します。」

「ルートフォード?」


 その名前にフェリアが反応する。


「もしかして……ウェインの妹さん?」

「はい。」


 その言葉に、肯定を返す。

 何故兄を知っているのか、とは問わない。兄がこの町にいられなくなった理由である、3年前の中等部の探索カリキュラムにおいて、同じパーティーだったことを知っていたからだ。

 その際に起こった事件において、フェリアただ一人が一貫して兄の味方であろうとしたことも。


「……もしかしたら、人には聞かせられない話も出るかもしれないわね。少し場所を変えようかしら。レミリアさんは、この後の予定は大丈夫?」

「あ、はい。問題ありません。」

「じゃあ、行きましょうか。」

「わ、分かりました。」


 あっさりと告げられた言葉に、思わず了承を返す。

 いくら相手から誘ってもらからとはいえ、目の前の人物はあまりに有名、かつ優秀な女性だ。そんな相手に自分だけの為に時間をとってもらうことは、流石に厚かましいのではないか、畏れ多いのではないかと思うも好奇心には勝てなかった。

 何しろ、自分の大好きな兄が、学院での最後の時間を共に過ごした人なのだ。そして、兄の真の能力を知って、それでも兄の側に立とうとしたことも聞いている。

 いつか話してみたいと思っていた人との、思いがけなく訪れた絶好の機会を、断るというのは少々難しかったのだ。


「ここなら大丈夫でしょう。ただ、念には念を入れましょうか」


 そう言いながら案内されたのは、ちゃんとした個室が準備されているカフェ兼レストランであった。個室に入り、更に対盗聴用の遮音結界まで張る念の入れようである。

 そしてその際の魔法の構築は、見とれるほどに美しく、そしてどこか懐かしかった。その理由を探し、兄が自分に魔法を見せてくれた時のものに、どこか似ていることに思い当たる。


「しかし、割と深刻に悩んでいる様子で気になって声をかけてみれば、まさかウェインの妹さんとはね。これも何かの縁かしら。」


 そんなことを考えているとそう声をかけられ、慌ててフェリアに意識を戻す。

 ただでさえこんな自分の為に貴重な時間を割いてくれているのだ、自分が原因で無駄にすることは無い様にしなければ。


「そんなに、深刻そうに見えましたか?」


 一体自分はどんな様子だったのか気になり、恐る恐る尋ねてみると。


「焦点は定まってないし、無意識かもしれないけど心の声が色々と漏れてるしでね。まあ、表情を見るに極めて深刻という訳ではなさそうだったけれど、放っておくのもそれはそれで気が咎めそうな感じだったから。」

「あうう……」


 それは、レミリアの幼少よりの癖だった。考え事をしていると、ついつい無意識に口に出てしまうのだ。

 最近では気を付けていたこともあって治まっていたのだが、どうやら悩みが大きかったために再び顔を出してしまったらしい。


「それで、改めてになるけれど、どんな悩みなのか聞いていいのかしら?」

「ええと、実は……」


 そう問われ、少々気が引けるものの悩みを打ち明ける。すると……


「なるほど中東部卒業に必要な、探索カリキュラムか。あれ、突破するのに結構個人差が出ちゃうからね。それも、魔法の腕とは関係なく。

おまけに、一人、二人がちゃんと動けていても、残りのメンバー次第ではどうしようも無くなっちゃうこともあるし。」

「そうなんですか?」


 少し砕けた口調でそう話すフェリアに対し、問いかける。

 基本的に、このカリキュラムは今まで習っていたことを理解していれば、問題なく突破出来るとしか説明されない。もしつまずくことがあるのなら、それはどこかに見落としがあるのだと。

 実際に挑むダンジョンの説明を受けても、これならよほどひどいパーティーでない限り、突破できるだろうとレミリアも思った。

 しかし蓋を開けてみれば全く違う現実に直面し、何か隠された意図があるのかと思っていた。そして、フェリアの話し方から推測するに、やはり何かあるようだ。


「ええ、でも学院が説明する、これまで学んだことを理解していれば、問題なく突破できるというのもまあ間違ってはいないわ。それは言うなれば、理論と現実の乖離ということになるのだけど。」


 その言葉を、一言も漏らすまいと意識を集中する。

 何しろ目の前の女性は、一発でこの探索カリキュラムを突破し、後に史上最高の天才と呼ばれるまでになった女性なのだ。

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