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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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28.少女の想い

「初めまして、フェリア・アルジェントと申します。この度は、私の願いを聞き届けていただき、感謝いたします。」


「ご丁寧に痛み入ります、カール・マイヤーと申します。現在ルートフォード家の執事長を務めております。」


ーこれは傑物ですな。


 相対したフェリアを見て、心の内で感嘆する。

 カールは人を見る目の確かさを評価されているし、自負してもいる。特に他人と比して秀でている能力として、その人間の纏う雰囲気を明確に感じ取れるという事がある。

 例えば優れた人物がオーラを纏っていると表現されたり、高い地位にある者が威厳を纏っている、と言われるようなものに近い。それ自体は多くの人が何となく感じ取っている事ではあるが、それをもっと詳細に、明確に感じ取れるということだ。

 そしてフェリアは、めったにお目にかかることのないレベルの、それこそ歴戦の探索者や、最高位の貴族家当主もかくやと思わせるほどの雰囲気を纏っていた。

 それが他者を圧倒するようなものではなく、しかし他に揺るがせない確かな芯の強さを感じさせるというのが特徴だろうか。

 だが、それだけではウェインの事について、全てを明かす訳には行かない。

 この少女が今どのように感じ、どう行動しようとしているかを知り、ウェインについての全てを明かすことが本当にふさわしい人物かを、見極めなければならない。


「さて、早速本題に参りましょう。フェリア様からいただいた手紙については、私も拝見させていただきました。ですから、そこに書かれていた事は承知していると、そしてその内容について疑ってもいないと思っていただいて結構です。

そして、直接の会談を求めたことは、それだけ重要かつ内密にすべき事柄を話し合いたかった、と考えることが妥当でしょう。その点について、伺いましょう。」

「はい、先の手紙でもお伝えした通り、今回の探索で私達は、ウェインに命を救われました。また、探索だけでなく、その後の国や学院の判断を見るに、おそらくそこでも私達を守ってくれたのだろうと、推測しています。

私は今回の探索で、ウェインの人となりはある程度知ることは出来たと思っています。しかしやはり、あくまで数日間の探索をともにしたという、短い期間の交流しかありません。ウェインの行動に何か報いたいという思いがあるのですが、私はウェインの事についてほとんど知らないと言っていい状態です。

ですので、その為にまずは少しでもウェインの事を知ることが出来たらと、思ったのです。」

「なるほど。」


 フェリアの言葉に、嘘は感じられない。しかし、いくつか気になる点があった。おそらく普通の人間は、そうは受け取らないだろう、と思わせる点が。

 それを含め、必要なことを確かめることにする。


「私どもといたしましても、ウェイン様の事を理解してくださる方が増えるのであれば、事情についてお話しするのは吝かではありません。ですがその内容は、ともすればルートフォード家の命運を左右しかねないレベルの内容でもあります。おいそれとお伝え出来るものではありません。

ですので、いくつか私からの質問に答えていただきたい。」

「何なりと。」

「ではまず初めに、今回の事件に関してウェイン様に下された処分を、どうお思いになりますかな?」

「唾棄すべき判断ですね。」


 その苛烈な言葉に少々驚く。確かに手紙ではその内容に憤っている様子は感じ取れたが、ここまで強い感情をあらわにするとは思わなかった。


「もちろん、その処分の内容だけを見て、感情的に判断している訳ではありません。今回の内容が通知された際に、学院長に直接問いただしました。そこで、何故今回の様な処分に至ったのか、底にある感情を見ることが出来ました。

それ故に、そもそも処分内容について全く賛同出来ないとは感じていましたが、その思惑を考慮したとしても斟酌するべきではないと考えています。」

「なかなか行動力がおありのようですね。それで、あなたは学院長に、どのような感情を見出したのですかな?」

「端的に言えばウェインに対する恐怖と、その恐怖から逃げたいという感情、そして保身ですね。さも自分たちは熟慮の末、学院を守るため、人類を守るための判断を下したのだなどと、都合の良い言い訳は口にしていましたが。

ですが、そこに自らの意思を正しいと信じ貫こうとする強さも、己の至らなさに対する恥も、一人の人間に苦難を押し付ける後ろめたさも、何も感じ取れませんでした。

故に私は、学院長も、そして国の方々も、実際のところは保身を重視して事なかれ主義に走った決断を下した、と判断しています。」

「左様でございますか。」


ー素晴らしい。


 直接学院長から聞き出していることもそうだが、その相手を見る目、そして判断力も確かだ。その内容は、当主であるガイウスが国の担当部署の責任者と直談判した際の見極めと、ほぼ一緒だ。


「さて、次に参りましょう。あなたは探索時だけでなく、その後の処遇についても、ウェイン様に守られたと仰いましたな?何故、そうお考えに?

ウェイン様に直接聞いた訳でもないでしょうし、ウェイン様と学院長のやり取りの内容を聞いた訳でもないでしょう。そのための判断材料が、いささか不足しているように思いますが。」

「私達がダンジョンから脱出し学院に保護される前に、ウェインに念を押されたことが二つあります。一つは、ウェインが今回の件の説明を行うまで、その内容について決して話さないこと。もう一つは、絶対に嘘をつかず、起こった事をありのまま話すことです。

その後の聞き取りの様子、そして私達に下された処分の内容を考えれば、ウェインが私たちを守ってくれたことは、容易に想像がつきます。そう考える理由は二つ。

恐らく、私たちが今回の出来事を先に説明すれば、相当に疑われたでしょう。そして、その事について冷静に考えられるだけの余裕は、あの時の私達にはありませんでした。後になって考えれば疑われてもしょうがないと思えるだけの出来事でしたが、もしそうなっていたら誰一人冷静に対応できなかったでしょう。

学院に対して不信感を持ったり、そうでなくとも何かしらの蟠りが残った事は十分考えられます。場合によっては、そのことにより何かしら不利益がある処分すら下されたかもしれません。しかし、実際の聞き取りでは疑われているどころか、私たちが話す内容を既に知っていて、確認しているだけという様子でした。

それは、ウェインが先んじて全てを説明し、またその内容について証明済みだったからだとしか考えられません。これがまず一点目。」


 フェリアの説明する内容を聞き、更に評価の上方修正を行う。その考え方には筋道が通っており、なおかつ深い洞察力があることを伺わせる。

 その時にここまで感じ取れた訳ではないだろうが、時間を置いてでもここまでしっかりと分析できるのは、すでに学生レベルではない。


「もう一の点は、私たちがウェインの能力や相対した魔族に関連する情報について、守秘義務が誓約書でしか課せられなかった、という点です。これは、冷静に考えてみれば相当におかしな話です。

その情報の機密性は、どう考えても最高レベルのはず。それを一介の学生が知って、誓約書レベルで済むはずがありません。明らかに制約の魔法、それも最高強度のものが施されてしかるべき内容です。

しかし実際に課されたのはお伝えした通り誓約書のみで、おまけに探索カリキュラムについては合格が認めらるなど、明らかに私たちに配慮された様子がある。ウェインへの処分とは、まるで正反対に。

それ故に、ウェインが何かしらの取引を行うような形で、自分が不利益を被ることを了承する代わりに、私たちに累が及ばない様にしたのではないか、と考えたんです。

もっとも、それでも私達が虚偽の報告を行えば、制約の魔法も検討されたのでしょうが。それを予測していたからこそ、ウェインは決して嘘をつくな、と言ったのだと思っています。」

「ふむ……」


 その言葉を疑っている訳ではない、だが最初の回答と比べれば少々違和感がある。確かにその考察力も素晴らしいが、印象として答えが先にあって後から理由付けを行ったように感じなくもない。

 それに、一つ目の理由と比べれば、やや強引な印象もある。その為、もう少し確認しようと口を開く。


「本当にそれだけですかな?確かに嘘は言っておられませんでしょうが、どうももう少し違うところに、本心があるとお見受けしますが?」


 その言葉に、少し困ったような、迷うような表情を見せたが、その思いを口にする。


「たった数日間行動を共にしただけで、こんなことを言うのはおかしいと思われるかもしれませんが……ウェインが、そういう人だと思ったから。」


 その言葉に、カールは驚きに目を見開く。


「私は今回の件で、どれだけウェインに助けられたか分かりません。それは、単に命を救ってもらっただけではなく、精神的な部分でもです。ある時は無言で、ある時は実際に言葉にして、何度も手を差し伸べてくれました。いえ、私だけじゃない。それは、あの探索に臨んだ皆が同様です。」


 カールの様子に気付いているのか、気付いていないのか。自らの心の内を確かめるように、語り続ける。


「私が知る限り、彼ほど優しい人間は滅多にいないと思っています。けれど同時に、自分が持つ力を他人がどのように感じるかも十分に分かっていて。そしてその優しさからかそれを全て受け入れて、いざというときには自分が身を引く準備をしていたように思えたんです。

ウェインにだって望みはあるはずです。自分の能力を隠して学院に通っていた事を考えれば、むしろその力を忌避すらしていたかもしれない。どれだけ強力であろうと、誰もそばにいられない力など、意味が無いのだと。

けれど結局隠し通すことが叶わなくなった時、自分やその周囲にいた私たちに後々何が降りかかるか、最初から予測できていた。だから私たちに何も背負わせないために、全てを自分一人で引き受けて、身を引く決断をしたのではないか。そんな気がしたんです。」

「……ところで、フェリア様は今回の件についてウェイン様には内密に、とのことでしたが、どうしてそのように?」

「それも、同じ所に理由があります。私が味方に付こうとしていることをウェインが知れば、まず断られるだろうと思いましたから。身の上を話すこと自体にあまり抵抗は無いかもしれませんが、それを知ることが私の身に危険を招くことにつながる可能性があるとしたら、きっと何があっても阻止したのではないかと。」


ーああ、ついに。ついにだ。


 フェリアの言葉に、カールは歓喜していた。ポーカーフェイスのためではなく、自然と本心からの笑みが漏れる。

 ついに、ルートフォード家の者以外で、ウェインの本当の姿を見てくれる者が現れた。

 ウェインは自分の能力が持つ意味を考えて、知ってか知らずか他人を自分の内側に入れないようにしていたフシがある。ある程度交流のある人間はそれなりにいたし、探索者の中に親しい者もいなかったわけではない。だが、一定以上の深い関係になった者は皆無だった。

 そもそもそんな態度の人間に対し、本質を知ろうとする人は少ない。それがまだまだ成熟していない学生ともなれば、ウェインの表面的なふるまいの奥に隠され本質など、とても感じ取れるものではなかっただろう。

 それは、多くの人に囲まれながら、その実ずっと孤独に生きているように見えて仕方なかった。せめて自分たちはと必死にウェインの孤独を癒そうと接し続けたが、家族や家族同然の人間だから例外でしかない、という認識を覆すことは出来なかった。


「なるほど、概ね理解しました。それでは最後にもう一つだけ、お尋ねします。

フェリア様は、ウェイン様からたくさんの事を教わった、と仰いましたな。それらの中で、特に大切だと思ったことは何でしょうか?あるいは、それらをまとめると、どういった事になるでしょうか?」

「あがくこと。」


 カールの問いかけに即答した内容が、予想と寸分違わぬ内容であった事に、笑みを深める。


「どれだけ絶望的な状況にあっても、最善を尽くすこと。それが、ウェインから教わった一番大切なことであり、全てに通底していた事です。」


 この少女ならば、全てを託せる。そう思わせるだけのものを、彼女は示した。それは、カールや当主ガイウスの想像すら遥かに超えて。


ーウェイン様、良いご友人をお持ちになりましたな。


 そう心の中でつぶやいて、口を開く。


「分かりました、ありがとうございます。そして、十分でございました。それではお話ししましょう、ウェイン様の過去を。」

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