27.一通の手紙
ルートフォード家当主であるガイウスは、執事長であるカールを呼び出していた。それは、ある件について意見を求めたかったからである。
「カール来たか、実は少し相談したいことがあってな。」
「それは珍しい、どのような内容でございましょうか?」
先日、ルートフォード家に届けられたガイウス宛の手紙を、カールに渡す。その内容は、予想だにしなかったものだった。
差出人はフェリア・アルジェントとなっているが、個人の手紙ではなく正式にアルジェント家から出されたものを示す家紋の封蝋がなされている。
つまり、この内容はアルジェント家も認めたものであるということだ。
内容は、フェリア・アルジェントがウェインと一緒に探索に赴いたパーティーの一員だったことや、その探索の中でウェインに幾度となく助けられたことに対する感謝。それなのに最後に見たウェインの能力に恐怖を抱いてしまい、ろくに礼すら言えなかったことに対する懺悔等が記されていた。
最後に今回のウェインの処遇に対する憤りが綴られており、ウェインには内密に、ルートフォード家の誰かに話を聞かせてもらえないか、という頼みが書かれていた。
その内容と、後はアルジェント家やフェリア本人の評判と合わせれば、こちらを騙すような意図はないのではないかと判断できる。むしろ、ここまで誠実な手紙は無いと言っても良い位だ。
だが、ウェインのドレイン能力を知って、それでもなおウェインの側に立とうとしていることが、信じられない。
確かに自分達は、ウェインの能力があっても変わらぬ愛情を注いでいる。だがそれは、ウェインという人間を家族としてよく知っているからこそでもある。
また、どうしようもなく皆と離れて過ごさなければならなかった時に、どれほどの努力を要されたかももそばで見てきた。
あまりに強すぎる力は、時として大きな不幸をも引き寄せる。本人がどれだけ望んでいなくとも、否応無しにだ。
ウェインは、まだ幼いと言ってよい時期にそれに立ち向かわねばならなかった。それこそ、どれほど精神的にタフな大人であっても、とても耐えられないような理不尽にだ。
だからこそルートフォード家は、家族のみならず全ての使用人を含め、あれほどに恐るべき能力があったとしても、ウェインを受け入れられていると言える。
また、今回の判断に異を唱えるという事は、国や学院に対して真っ向から対立する事をも意味する。
それが、若輩ゆえの感情論であるならば、まだ話は分かる。しかし、アルジェント家がこの手紙を送ることを認めているという事は、アルジェント家としてもフェリアを支持しているという事だ。
つまりは、フェリアの意見に理を認めているという事である。
貴族家は、国に対して、人類に対して大きな責任を負う。だからこそ、そこに明確な理が無い限り、異を唱えることは許されない。
しかも、アルジェント家は直接の利害関係にない第三者の立場だ。それを押してなお異を唱えなければならないと判断したという事であり、またフェリア自身がアルジェント家に、そこまでの判断をさせる程の行動を起こしたという事でもある。
「どう思う。」
「会うべきですな。文面を見る限り、嘘をついていたり、こちらをたばかるような意図はない、と考えます。この内容は、貴族的な礼儀、言質をとられないための言い回し、そういった物をかなぐり捨てて、ひたすらに素直に書き綴った様に見受けられます。
もちろんこちらの内情を打ち明けるかどうかは、フェリア嬢を見極める必要がありましょうが……」
目を通したカールの答えは、自分と同じ結論だった。ならば、取るべき行動は決まっている
「そうか……頼めるか?」
「仰せのままに。」
人を見極めるという面において、カール程優れた人間はそういない。本来で有れば自分が会いたいのだが、今回のウェインの件に関しては少々動き過ぎた。
その上で更に今までさほど交流が無かった貴族家と会談するとなると、面倒な意味でとらえられてしまう可能性がある。
どのような形であろうと、自分が会ってしまえばその内容に関わらず、会ったという事実そのものが意味を持ってしまいかねないのだ。
それは、先方にとっても望ましいことではないだろう。
そういったこともあって、カールは今回の件に関してうってつけの人間といえる。
また、彼はウェインのことを家族をのぞけば、いやむしろある意味家族以上によく知る人物である。彼の判断ならば、皆が信じられる。
そして、ルートフォード家の誰もが望み、しかし叶わないだろうと半ば諦めていた事が、実現するかもしれない。




