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孤独の果て  作者: 伽藍堂
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25.実家での一幕

「以上が、今回起こった事件に関する詳細です。どんな処分があるかは判然としませんが、例の魔族に関する守秘義務が課せられるのはもちろん、ほぼ確実に俺の退学処分も決定されるでしょう。

必然的にこの家を、いや、この町すらも出ていかなければならない事態になる可能性が高いです。申し訳ありませんでした。」

「顔を上げなさい、ウェイン。」


 今回の出来事について詳細を報告し頭を下げると、ルートフォード家当主である父ガイウスからそう声がかけれる。

 顔を上げると、穏やかに微笑んでいる父の姿があった。


「何故、謝る必要がある。お前は生き残るために最善を尽くし、そして仲間を救ったのだろう?しかもその後に何が待ち受けているかも理解した上で、自らの身を顧みずに。

それはルートフォード家の者として、貴族として、何より人として何ら恥じるものでは無い。むしろ、誇っていいことだ。胸を張りなさい。」

「……ありがとうございます。」


 本当に自分は、良い家族に恵まれたと思う。

 自分のこの能力が発現してからも、全く分け隔てなく接してくれた。能力をコントロールできていなかった時期は命の危険が有ったので、流石に距離を取らざるを得なかったが、その間も、コントロール能力を身に付けてからも、確かな愛情を注がれている。


「だがしかし、結果としてお前に関する処分は、おそらく予測の通りになるだろう。この後に担当部署になるであろう国の機関とは、直接話し合いの場を持つつもりではあるが、それでもな。

どれだけ本人がコントロールできており、周囲を害する危険は無いといっても、今の国や学院では受け入れられる度量はあるまい。」


 そう、若干苦々しげにこぼす。

 ウェインほどの実力や、またその持ち帰った魔結晶、魔族、そして奈落に関する情報は、絶対に無視できるものではない。こんな情報を持っているのは人類の中でウェイン一人だけだろうし、同等の情報を手に入れるためにどれだけの時間がかかるかも分からない。

 だが、ウェインの持っているドレイン能力は、知られてしまえば周囲にパニックを引き起こすことは必至。絶対に切り捨てることは出来ないが、かといって無条件に受け入れられるものでもない、国の上層部は恐らくはそういった心境であろう。


「だが、持ち帰ったものとそれに付随する情報が重大すぎて、決して切り捨てることもできない。いざというときに最後の頼みの綱となりうる者を、簡単に切り捨てる愚か者は流石にいまい。

まあ落としどころとしては、探索者としての身分を与えたうえで、未踏領域の調査の最前線への配属というところか。お前が以前から考えていた、いざという時の選択肢の一つだが、恐らく奴らが一番望む配属先でもあるだろう。

私たちとしては抗議してもいいし、何なら国に対して反旗を翻すことすら辞さないが……」

「それは全力でやめてください。」


 ルートフォード家は魔法の名門として、軍事的な面で人類の先頭に立つ役割を期待される貴族家であり、精神的な拠り所ともなる家だ。例えば災害急の魔物の発生時なども、ガイウス自らが率先して対処に当たっており、無事事態を収束させている。

 そんな家に生まれて、魔法に関する育成機関を退学という事態になれば、その家名を名乗り続けることは難しい。

 また、魔法学院やあるいは国が自分の能力を知ったときに、ある程度枷を嵌めておきたい、更に出来れば隔離しておきたい、と考えると予測していた。

 確かに抗おうと思えば、究極的には全ての要求、圧力を突っぱねることは出来るだろう。だが仮にそれを実行したとて、事態は何も好転しない。ただいたずらに争い、何も得るものは無く双方が多くの物を失うだけだ。

 

 ゆえに、抗っても望まぬ結果を招く可能性が高いのならば、いっそある程度の不利益は受け入れ、その代わりに自らの希望もある程度通したい、という考えのもと選んだのが開拓従事者なのだ。

 そして、そのことに対して家族が納得しないだろう事も予想できたが、実際に行動されてしまうと自分の目論見が水の泡となってしまう。


 因みに探索者における開拓従事者とは未踏領域、それも危険度が高いと目される場所に調査に赴く者たちのことだ。極めて不人気であり、常に慢性的な人不足に悩まされている探索者の中でも、特に顕著な職種である。

 だから、国としてはそこがルートフォード家より提示されれば、二つ返事で受け入れるだろう。何しろ一番人が足りず、また集まりにくい所に、厄介ごとの種が望んで赴いてくれるのだから。

 探索者であるのだからある程度は国の管理下に置けるということでもあるし、未踏領域の調査の最前線にいるので、必然的に人が多い都市とは離れた場所を拠点ともしている。

 恐らく国側では、これ以上の条件はそうそう作り出せないだろう。


「分かっているよ、お前が何を望んでいるかも、何を思って行動したのかもな。お前は、私たち家族をはじめとしたルートフォード家と、一緒にいた仲間5人に害が及ばない様にしたかったのだろう?そして、自分が何かの諍いのきっかけになりたくないと。

特に私たちルートフォード家と国の間に軋轢が生じては、人類にとって大打撃だからな。」


 叶わないな、と思う。どうやら自分の考えは、ほぼ全てお見通しだったらしい。

 最後に放った学院長に対しての言葉は、父の指摘したした通りのものだ。

 あの時ウェインは学院長に対して、処分を受け入れると言った。それは、処分の内容に対して、実家を説得する気があるという意味も持たせたものだ。

 ルートフォード家は、現在の人類の状況では欠かすことのできない、重要な役割を担った家だ。ウェインの事があったからといっておいそれと処分できないし、代わりの家をすぐに見つけることも困難だ。

 だから、その処分が自分に対するものだけで最小限の範囲にとどめるならば、悪いようにはしないことを示唆したのである。


 だが、どんな場所にだって腐敗はつきものだ。これだけ人類が危機の中にあり、一丸となることが求められるような状況でも、既得権益に固執するもの、権力争いに走る者が存在することも事実。

 その為、国や学院がそれぞれに対して無暗に枷を嵌めようとするならば、それを食い破る意思を示した。

 ウェインやルートフォード家そのものを敵に回すリスクを考えれば、普通の感覚ならばウェインの要求を飲んだ方が良いと考えるだろう。

 結果として、ウェイン一人に処分が集まってしまうことになるが、これはもう仕方のないことだ。むしろ自身の能力の性質を考えれば、ここまで持たせただけでも上出来だったと言って良いのだから。


「だから私たちも、お前の意思を汲んで行動する。口惜しいがな。

それでは、この後は引き続き家にいなさい。あとどのくらい時間が残されているか分からない以上、皆もそれを望むだろう。特に母さんや弟妹がな。最後に、そのくらいの我儘は許されていい。」

「ありがとうございます。」


 その言葉は有難かった。自分としても、何の区切りやけじめもつけぬまま、この家から去ることは出来れば避けたかったからだ。

 恐らく、そう遠くないうちにこの町を出なければならず、下手をすれば二度と戻ってこれないかもしれない。

 だからそこ、残された時間を大切に使おうと考えるウェインだった。

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