24.それ以外の者
フェリアは、聞き取りを担当した教官に全てを正直に話していた。最初の探索の様子、転移の罠にかかってからの行動、そして最後の魔族との闘い。
恐らく、ウェインがあらかたの説明を行い、またその証明もしていたのだろう。探索の際に剥ぎ取りを行っていた素材を、皆で均等に分けていたことも助けとなった。
難易度がB級の魔物の討伐や相対した魔族の話など、フェリア達の話だけでは信じられないような事も混じっていただろうが、特に何かを疑われる事は無かった。
ウェインから、絶対に嘘は言うな、起こったことをありのまま話せ、と念押しされていた。
それが、どういう意図だったのかは分からない。ただ、ウェインにはこの先何が待ち受けているかが、予想できていた節がある。
自分たちの扱いがどうなるかは不明だが、それが一番フェリアたちの身を守ることになるのだろう。
そこについては全く疑っていない。
ウェインがあの時取った行動を、フェリアなりに推測してみた。
例えば、ウェインがドレイン能力を最初からフェリア達に打ち明け、その能力を使う事を提案したらどうだっただろうか?恐らく、フェリア自身を含め誰も信じようとはしなかっただろう。
そもそもフェリア以外の4人は、ドレイン能力を使っていない時ですらウェインの実力を正確に評価していなかったのだ。そのような状況で、ウェイン一人で何とか出来る方法があると言われても、誰もまともに受け止めなかっただろう。
では、ウェインが正直に話しても信じないならば、ウェインが一人で黙ってあの魔族を討伐しようとしたらどうだろうか?確かに魔族は討伐できただろうが、その間に通常の魔物がフェリア達を襲ったらアウトだ。
確かにあの時は、パーティーとしてB級の魔物を討伐できるようにはなっていた。だが、それはウェインが相手を引き付けていることが前提だ。ウェインがいない状態なら、なす術もなく全滅する筈だ。
他にも、あの時取り得る様々な可能性を考えたが、結局ウェインの行動が最善という結論は変わらなかった。
あのやり方以外を模索するには、フェリア達5人があまりにも未熟過ぎたのだ。
単に実力が足りないだけだったのなら、他にもやり様はあったかもしれない。最大の問題は、そんな自分達の実力不足やウェインとの実力差を、受け入れられる度量すら無かったという事だ。
それを含めて未熟過ぎたという事だ。
そして、そんな自分たちの事を理解した上で、それでも全員が生き残るための可能性を、ギリギリまでウェインは追及してくれたのだ。
捉えようによってはウェインは自分たちに隠し事をし、実力を出し渋ったようにも見えるかもしれない。
だがあのドレイン能力は、迂闊に使えばフェリア達5人は瞬く間に命を奪われるほど、強力な能力なのだ。それをフェリア達の安全を確保した上で発揮するためには、あの時のように隔離結界を張る事しか防ぐ手段は無い。
そしてその状況を作り出すためには、あのやり方しかなかっただろう。少なくとも、フェリアにはそれ以外のやり方を思いつけない。
それに、あれだけの存在に相対することは危険極まりないが、リスクを背負ったのはウェインも一緒なのだ。
ウェインにしてみれば、自分だけの生存を考えれば、フェリア達のことなど考えずに最初から全力を出した方が安全だったはずだ。
むしろドレイン能力を封印して相対する事の方が、遥かにリスクは高い。何せ、その状態でまともに相手の攻撃を受けてしまえば、下手をすればウェインも命を失う可能性もあったのだから。
だからこそ、ウェインはやはり心から自分たちを案じてくれていたのだ、と信じることが出来た。
それでも多少の心配はあったが、それは最後の魔族関連の情報やウェインの能力が、明らかに自分たちが知って良いレベルの情報ではなかったからである。
特に例の魔族については、あんな存在がいると分かれば、今人類が抱いている前向きな雰囲気に、冷や水を浴びせる事になりかねない。
それどころか、パニックが広がる恐れすらあるので、ある程度の守秘義務は課されるだろうと予測していた。
実際に聞き取りが終わり、最後に決して件の魔族やウェインの能力については情報を漏らさないことを誓約させられた。もしこれを破ってしまえば、身の保証をしかねると。
だが、あくまで誓約書どまりで、魔法によって縛られたりしなかったことは、まだ配慮されていると言うべきだろう。
特筆するのはそれくらいで、本当にあっさりしたものだった。
誓約書にサインしたのちに、今回の探索についての判断は後ほど通知されるとだけ告げられ聞き取りは終了した。
かなりイレギュラーな事態だったので、カリキュラムとして合格の判断を受けるかどうかは分からない。だが、それはもう些細な事だと思っている。
何より今回得られた経験は、通常のカリキュラムで得られる経験とは桁違いのものだ。
今更その合否などどうでもいいし、1回で突破しなければならないものでもないので何とでもなる。
ゆえに、そちらよりも今回のトラブルの件で何かあるかもしれないと心配していたが、自分たちに関しては、聞き取りの様子からしてそこまで悪いことにはならなそうだ。
もっとも仮に何かしらあったとしても、罰せられなければならないことは何もしていないと思っている。
だから、何があろうと堂々としていればいい。
しかし、ウェインの処遇だけが、どうなるか全く見当がつかなかった。
力の性質と強大さを考えれば、どうしても受け入れられない者も多いだろう。帰還間際に、ウェインが命の恩人であるにもかかわらず、エッダが恐怖から取り乱したのが現実を痛感させる。
そしてその恐れは、正直に言えばフェリアの中にもあるものだ。どれだけ理屈では大丈夫だと分かっていても、本能的な恐怖が身をすくませてしまう程に、ウェインの能力は強力過ぎる。
だからこそ、どうすれば彼を受け入れられるのか、そして皆と溝を生まないために出来ることは何か、真剣に考える。
あの探索の内容が公にされるとは思えないし、守秘義務も課せられた以上ウェインの能力も秘匿されるだろう。
だが、今回の件でフェリアを含む5人が知ってしまったし、おそらくは学院にも本人から説明がされているはず。
それ以外にも知ってしまう人間が出てくる可能性は十分ある。その時に、彼を孤立させない方法を考えなければならないだろう。
何故ウェインがあれだけの圧倒的な力を持ちながら、それを封印して学院に通っていたのかを、聞き取りが終わってからもずっと考えていた。
そしてたどり着いた答えは、彼はそれでも周囲の人々と一緒に歩みたかったのではないか、ということだ。
ウェインの能力は確かにとんでもないレベルにあるが、同時にその力を振るおうとすれば、誰も隣に立つことは叶わない。あれだけの強さのドレイン能力ならば、フェリアの知る限り最高レベルの対策を施しても、殆ど意味をなさないだろう。
その孤独はいかばかりか、フェリアには想像もつかない。
だからこそ、圧倒的な能力を持ちながらも、それを封印してこの学院に通い続けたのではないか。
それはフェリアの考えすぎかもしれない、だがそれ以外に理由が考えられないのだ。それが、帰還間際に見せた、淋しそうな表情にもつながっているのではないかと。
しかし、そんな風に悩んでいたフェリアに届いたのは、フェリアを含む5人の探索についての合格判定、そしてウェインの退学処分の知らせだった。




