22.核心部分
「それでは、今回の事件の核心に行きましょう。そもそもの原因を作った相手、そして最後に相対した存在についてです。学院長は、魔族という種について、どこまで知っていますか。」
「奈落という言葉が出てきた以上、きちんと答えないといけないでしょうね……。少なくとも、こちらの世界に存在する魔族が氷山の一角に過ぎないことは知っています。それ以上に遥かに強力な存在がまだまだいること、その多くは暫定的に奈落と名付けた、S級ダンジョンに存在する空間の歪みの先からやって来ることもね。
また、その位階が更に上がれば、人間と同程度あるいはそれ以上の知能を有し、人語を解し、絶大な力を持った存在がいるという話も聞いたことがあります。ただし、そのレベルの魔族については、私の知る限りまだ未確認情報ですね。
そもそもS級難易度のダンジョンですら手に余るのに、その先にある奈落に踏み込もうなどという探索者はいませんし、許可も下りないでしょう。もしかしたら遭遇した探索者もいるかもしれませんが、そんな存在と出会ってしまえば生還自体が難しいでしょうしね。」
「あー、そのレベルですか……」
その話を聞いて、思っていたよりも情報が少ないことを知り、自分が現在知っている知識を伝えるかどうか迷う。だが、今回相対した魔族について正確に伝えるならば、話さなければ始まらないだろう。
なお、奈落につながる経路は、常に存在しているものとそうでないものがある。前者が存在しているダンジョンはS級に指定されているが、例えS級ダンジョン以外でも魔族が経路を開けるポイントが存在している。
今回の魔族のケースは、状況から見て後者である。
「これから話す内容の真偽の判断、そして国に報告するかどうかは学院長に任せます。
まず、通常こちらにいる魔族は、そもそも奈落では相当に下の階層に属します。フェリアたちにも説明しましたが、こちらの世界で例えるならば小動物レベルにすぎません。奴らの認識では、同族とすら認識していないでしょう。」
「何ですって?」
その言葉に顔色を変える学院長、だがこの程度の情報はほんの入口にすぎない。
「一般的に奴らの認識している魔族は、人と同等以上の知能を有している存在のみです。それ以外は小動物とか家畜、そんな感じの認識ですね。
魔族の集団は、極めて人の集団の形成と似ています。それぞれに個があり、知能があり、社会を形成し、国家がある。ただし、発生機序からか、家族という概念はありませんね。
その中には序列もあり、身分差などもあります。ただ、こちらと違いだいぶ実力主義、しかもそのほとんどが戦闘に関する実力に傾いた序列ではありますが。それに国家といっても、そもそもの性質が人間とは大きく違うので、それが持つ意味も大きく違いますし。」
「な、何故、そんなことを、あなたが知っているのです……?」
「何度目かに奈落に行った際に、気に入られた相手がいましてね。そいつに聞いたら普通に答えてくれましたよ?因みに、そこを人類が奈落と名付けている事を教えてくれたのも、そいつですね。」
「今、さらっととんでもないことを言いませんでしたか?いやそもそも、人間に対して友好的になる魔族など、あり得るのですか?」
「奴らは極めて好戦的な種族ですが、必ずしも人間に対して敵対的という訳ではありません。またその知能が人と同等以上ある事から分かるように、性質も様々で個人差があります。
ただ、奴らと人間の実力に根本的に違いがありすぎるので、戦いを吹っ掛けられることがほぼ死を意味するというだけです。そこさえ乗り超えられるなら、一応交流は可能ですよ。」
その言葉に絶句している。あまりにもこれまでの常識と違いすぎて、整理が追いつかないのだろう。
「そして、今回相対したのは高い知能を有する魔族の、おそらく平均的なレベルのやや上といったところですね。これよりさらに上位の存在も普通にいますし、更に上を見れば貴族位を冠した魔族がいます。まあ、あくまでこちらの概念として考えると、という話ですが。
ただ奴らは人間の使っている呼称を気に入っているようで、おそらく独自の言語でも同じように呼ばれているのでしょう。バロン、バイカウント、カウント、マーキス、デューク、そしてキングですね。まあ、キングは貴族位でありませんが、位階という意味では分かりやすいのでしょう。なお、性別という概念はありませんので、クイーンはいません。」
「もうどこから驚けばいいのやら……とりあえず、あなた達が今回相対した相手について、詳細をお願いします。そこを基準として、考えることにしましょう。」
「分かりました。とは言っても、なかなかこちらの世界で比較に適する存在自体がいないので、難しいところですが。とりあえずざっくりとした危険度だけで言うなら、当然存在するだけでそのダンジョンや領域がS級とされるレベルではあります。
まあ、災害級に認定された魔物ならば、割と近いところでしょうか。特性自体に差がありすぎるので、一概には言えませんが。」
「……流石に、冗談ですよね?」
「いたって本気ですが?」
乾いた口調で問う学院長に、真面目に返す。
災害級の魔物とは、その脅威度から人類に大損害を与え、また討伐にも多大な犠牲を要した魔物のことである。
探索者や防衛軍を多数組織して相対し、長い期間をかけてようやく討伐した存在なのだ。魔族という種の中で上位にすら属さない存在が、そんな魔物と同等以上と言われても信じられないのだろう。
「先ほど言った通り特性の違いは当然あります。まず、奴らの体躯は人とさして大きさは変わりません。せいぜい人の平均より一回り大きい程度といったところでしょう。見た目も、ほぼ人型といってよいです。中には、少々違う者もいますがね。
災害急の魔物のように巨大な体躯を持っていたりしませんし、広範囲に甚大な被害を及ぼすような力の使い方も普通しません。やれないことはないでしょうが、どちらかといえば人の力の使い方と似ていますね。平均のレベルが違いすぎて、比較にならないほど強力ではありますが。」
そうして、魔族の性質を説明してゆく。この辺りは、フェリアたちに説明した内容と同じだ。
「B級の魔物、それもA級に近い種すら討伐できるレベルを持ったパーティーが、ただそこにいるだけなのに貫けない防御力、魔力操作を使うだけで、魔法の構築に失敗するような濃密な魔力量ですか。それで、攻撃力に関してはどの程度なのですか?」
「その能力の全てを体感したわけではありませんが、実際に受けた攻撃を考えれば、フェリアが張った最下級の隔離結界くらいならば、力づくで破れそうな感じといったところでしょうか」
「いやいや……」
もはや現実逃避気味の学院長。それはそうだろう、隔離結界とは人類の生命線の魔法技術であり、たゆまなく改良が続けられているものでもある。
現状、最も難易度が低いものであっても、相手が単騎なのであれば、決して破ることは叶わないというのが共通認識なのだ。
ちなみに、災害急の魔物ですら、単騎では隔離結界を揺るがすことは出来なかった。故に、生存圏にいれば安全ではあったのだが、その活動範囲から都市間の行き来が出来なくなるのが明白だったで、討伐しなければならなくなった訳である。
「まあ先にも言った通り、信じる、信じないは学院長にお任せします。で、なんだかんだでそいつを討伐して、後は脱出まで特に説明することはありません。
俺に話せる情報は、こんなところでしょうか。質問があれば、お答えしますよ。」




